女性の健康をサポート! 急成長する“フェムテック”市場

女性の健康をサポート! 急成長する“フェムテック”市場
今、“ある市場”への投資が増えています。それは「フェムテック」と呼ばれる市場です。あまり耳慣れないことばかもしれませんが、どのような分野なのでしょうか?そして、なぜ、フェムテック市場が急成長しているのでしょうか?(国際部記者 佐藤真莉子)

「フェムテック」って何?

「フェムテック(femtech)」とは、英語で女性を意味する「female」と、技術を意味する「technology」をかけた造語です。

技術を使って、女性特有の生物学的な機能から生じる健康問題を改善し、QOL(=生活の質)をあげるためのサポートをしようという発想から生まれました。そして、2000年ごろから、こうした問題に取り組む企業がでてきました。
しかし、実際に、「フェムテック」ということばが広がり、使われるようになったのは、2016年ごろ。デンマーク出身の女性起業家、イダ・ティンさんが、自身の開発した生理日予測アプリへの投資を募るため、「フェムテック」ということばを積極的に使い始めました。
(ティンさん)
「すでに女性の健康問題に取り組む企業がたくさんできていて、大きな、新しいビジネスの分野になると思った。それを1つにまとめ、メディアや投資家の注目を集めるには、それがひと言でわかる“ことば”が必要だった。『フェムテック』ということばを使うことで、この分野についてより活発でオープンな議論ができるようになった」
「フェムテック」がサポートする分野は、多岐にわたります。大きく分けると、▼生理に関するもの、▼妊娠・出産に関するもの、▼性生活に関するもの、▼更年期に関するもの、▼乳がん・卵巣がんなど女性特有の病気の早期発見に関するものなどです。

これまではタブーとされていた分野がほとんどですが、女性ならではの健康に関する悩みは多く、それを解決しようとする社会起業家たちが増えてきました。

技術の形態も内容もさまざまで、サービスを展開している企業もあれば、製品開発をしている企業もあります。
例えば、一般的に店頭で買いづらいとされる生理用品。これを、自宅などに定期的に配送するサービスを行っているアメリカの企業があります。製品にもこだわり、オーガニックのナプキンやタンポンを開発しました。
こちらは、産後の尿漏れ対策のために膣を鍛える機器。イギリスの企業が開発しました。スマホのアプリと連動していて、ゲーム感覚で膣のトレーニングができます。
ほかにも、母乳が出やすくなるように、乳房のマッサージをしながら搾乳できる機械(アメリカの企業)や、生理中、ナプキンなどを使う代わりに体内に入れて使う月経カップ(韓国の企業)などがあります。

急成長するフェムテック市場

「フェムテック」と言われるサービスや製品を開発しているのは、主にベンチャー企業です。世界のフェムテック企業の数や投資額は伸び続けています。

2017年には50社ほどだった企業数は、2019年には220社を超え、ことしの3月には318社にまで増えました(フェルマータ調べ)。
さらに、アメリカのデータ分析会社によりますと、世界全体でのフェムテック市場への投資額は、2008年には日本円で25億円だったのが、2018年には437億円に増えました。10年で17倍になった計算です(ピッチブック調べ)。

そして、5年後の市場規模は、5兆円にのぼるとの試算もあります。なぜ、この分野への投資が増えているのでしょうか?

きっかけ1 #MeToo

背景はいくつかありますが、大きなきっかけは、2016年に巻き起こった、性暴力やセクハラを告発する「#MeToo」運動だと言われています。

それまでは、医療分野での研究・開発者の多くは男性で、かつ、投資家も多くは男性でした。しかし、#MeToo運動がきっかけで、医療分野でも、投資の分野でも、男性だけの目線ではいけない、という認識が広がり始めたと指摘されています。

きっかけ2 ジェンダード・イノベーションズ

ジェンダード・イノベーションズ(性差研究に基づく技術革新)とは、性差を意識して、研究や技術開発を進めるという考え方です。

これまで、医療分野などでは、多くが男性を基準に研究開発が行われてきました。

理由は、女性はホルモンバランスの変化などから安定したデータが取りにくい一方で、男性のデータはぶれにくく、取りやすいためです。

だからこそ、女性のからだは複雑で、女性に対する研究が必要だ、という考え方がジェンダード・イノベーションズです。科学的にも性差による影響があるとわかってきたことが、フェムテック製品やサービスの開発を後押ししたとも言われています。

きっかけ3「SHEconomy」

彼女を意味する「SHE」と、経済の「economy」をかけたことば、「SHEconomy」は、欧米では、女性の社会進出が進み、経済力をつけたことで、女性による消費が増えた、として注目され始めました。

2018年に発表された論文では、世界の女性の個人消費の年間総額は、20兆ドルにのぼるとしています。そして、2023年までには28兆ドルに達する可能性もあるとみられています。

これまでは見過ごされてきた女性をターゲットにした市場には、実は大きな需要があると見込まれ、欧米を中心に投資が増えているのです。

フェムテックの活用で世界一に!

「フェムテック」は、スポーツの分野でも取り入れられ始めています。

去年、サッカー女子のワールドカップで優勝したアメリカ代表。月経周期を考慮した練習メニューを取り入れてきたのです。

これまでの研究で、ホルモンバランスの影響から、月経中や排卵期はけがをしやすいことがわかってきました。また、周期の前半は炭水化物を消費しやすい一方で、後半は脂肪を消費しやすいこともわかってきました。

こうした研究をもとに、月経周期を考慮しながら筋力トレーニングやストレッチを重点的に行ったことでけがが減り、効果的にトレーニングを行うことができたといいます。

日本でも広まるか、フェムテック

では、翻って、日本ではどうでしょうか。

生理日を入力することで、排卵日や次の生理日を予測するアプリを開発した企業などがありますが、欧米に比べると「フェムテック」企業もこの分野への投資も少ないのが現状です。これまで、タブーとされてきたことが大きく影響していると指摘されています。
しかし、少しずつ、日本でも変化が見られるようになってきています。
今月はじめ、都内で開かれたイベント。特に日本の女性は、商品を実際に手に取って、自分の目で見てからでないと買わないという分析があることから、海外のフェムテック製品を体験してもらおうと開かれました。
膣を鍛える機器を手に取った女性たち。手で握るとスマホのアプリが連動する様子をみて、「ゲーム感覚でおもしろい。これなら続けられそう」とか、「実際に触ってみて、使ってみようかなと思った」といった感想が聞かれました。
(中村寛子さん)
「日本だと生理や性生活といった話はタブー視されているけれど、困っている人は多いはず。フェムテック製品の開発によって自分のからだを見つめ直し、議論が活発になることで、タブーがタブーではなくなってほしい。それによって、女性がより働きやすい、生活しやすい社会になったらうれしい」

見つめ直そう、自分の体

今回の取材を通じて、私自身、「こうした話題はタブーだ」とすり込まれていたのではないかと感じました。思い返してみると、これまで、男性と同じように“頑張らなくてはいけない”と思って働いたり、生活したりしてきたように感じたからです。

性差はあるし、男性とは違って当たり前。「フェムテック」は、それぞれが自分らしく働いたり、生活したりできるようにサポートしてくれる手段になり得るのではないか。そして、「フェムテック」ということばが広まり、もっとオープンに議論ができるようになれば、働き方や生き方も変わってくるのではないかという期待を感じました。
国際部記者
佐藤真莉子

平成23年入局
福島局、社会部を経て
平成27年から国際部
アメリカ、ヨーロッパを担当