ただ?有料? どうなる銀行口座

ただ?有料? どうなる銀行口座
銀行に預金口座を持つために、毎月300円かかるようになったら、どうしますか?あまり使っていない口座ならこの際、解約する?電気もガスも携帯も毎月、基本料金はかかるのだから仕方ないとしぶしぶ納得する?“ただがあたり前”だった預金口座ですが、手数料をとることを検討する金融機関が出始めました。(経済部記者 梶原佐里)

年間1200円の手数料

『未利用口座管理手数料の新設のご案内』ー。名古屋市にある愛知信用金庫が去年、こんな発表をしました。ことし1月以降に開設した普通預金口座を対象に、年間1200円の「管理手数料」をとるという内容です。2年間取り引きがない口座で、預金の残高が1万円を下回った口座に手数料がかかります。ことし1月より前から持っている口座は対象外です。
ごく一部の例外をのぞけば、口座を持っているだけで手数料がかかることはありませんでした。ほとんどの人は、口座は“ただ”のサービスだと思っています。

しかし、いま、口座を管理するという名目で手数料をとる動きが金融機関に少しずつ出始めています。

岐阜県にある地方銀行の十六銀行は2018年4月から、一定期間取り引きのない口座などを対象に、同じような手数料を導入。栃木銀行はことし4月から。愛知県の岡崎信用金庫もすでに導入。福岡県のおおかわ信用金庫は今後導入することを決定…。
愛知信用金庫に口座をもつ利用者に聞いてみると、ほとんどの人は口座に手数料がかかるとは思っていませんでした。「お金を預けっぱなしにしている口座から手数料が引かれるのは困る」と予想通りの反応が返ってきました。ただ「システムの更新などで経費もかかるのだろうから仕方ないかな」と理解を示す人もいました。

低金利でもうからない

“ただが当たり前”だった口座。今になってどうして、手数料をとろうとするのでしょう。
金融機関は、収入が増えないのに、費用はどんどん膨らむようになっていると話しています。金融機関の主な収入は、個人や企業にお金を貸して受け取る「金利」です。この金利の収入が、ここ数年、とても少なくなっているのです。日銀が公表しているデータをみると、ことし1月の国内銀行の貸し出し金利(期間1年未満の短期貸し出し)の平均は0.467%。10年前は0.999%でしたから、確かにほぼ半減しています。
その理由は、銀行の銀行と呼ばれる日銀が、景気を支えるため2013年から大規模な金融緩和を行い、世の中のさまざまな金利を低くしているからです。低金利は住宅ローンなどを借りる人にとってはうれしい話ですが、金利でもうける金融機関の収益は少なくなります。

その一方で、最近、口座が犯罪などに使われていないかをチェックするマネーロンダリング対策の強化を求められ、ネットバンキングなどデジタル化にあわせたシステム構築、それに通帳の印紙税など、口座を維持するために、さまざまなコストがかかるようになっています。口座が使われていても、いなくても、手間はかかるのだ、といいます。

口座数10億!かさむコスト

しかも、日本は、預金口座が多すぎるというのです。日銀の統計をみると、国内の金融機関にある口座の数は、銀行と信用金庫でおよそ8億口座!(定期預金などを含む)。これにゆうちょ銀行の口座などを加えると、全体では10億口座を超えると言われています。ざっくり1人当たり10口座を持っている計算です。

職場が変わるたびに給与の振り込み口座をつくり、ふと気が付くと、全く使わなくなった口座、ありませんか。私も先日、ある銀行から「長期間口座を使っていないですが」という通知を受け取りました。大学生の時に作った口座でした。

こういう通知を送る費用も銀行の負担になります。金融機関にしてみれば、低金利でもうからないので、コストだけかかっている「使われない」膨大な口座は、手数料を取るか、いっそ整理したいというのが本音なのでしょう。

先陣切るのはちょっと…

では、あちこちの銀行や信用金庫が、われもわれもと口座管理の手数料を導入するか、といえば、大手銀行などは慎重です。取材すると、“ただ”になじんでしまったものをいきなり“有料”にして、預金者の反感を買うのではないかと銀行幹部の多くが心配を口にします。「誰かが先陣をきってくれればウチもやるのに」といった横並び意識も見えてきます。

そこで大手銀行などでは、口座管理の手数料はひとまず脇に置き、ほかで値上げを始めています。窓口での振り込み手数料、ATMの利用手数料、海外送金の手数料…気が付くと、たまに利用するサービスの手数料があれこれと値上げされています。

日銀が援護射撃?

そうした中、2月に、日銀が発表したあるレポートが話題になっています。
レポートでは海外の口座手数料の2つの仕組みを紹介しています。
定額制…口座維持の手数料を毎月とる代わりに、振り込みなど取り引きごとの手数料は無料。

二部料金制…口座維持の手数料もとりながら、振り込みなど取り引きごとの手数料もとる。ただ、月に数回は振り込み手数料を無料にするなどのバリエーションがあるタイプ。
日銀はリポートの中で『こうした料金制度も参考にしてもらいたい』と書いています。お金の送金などをになう金融機関は重要な公共インフラです。システムを更新する費用を出せずに、ネットバンキングが、サイバー攻撃を受けて預金口座が被害を受けてしまう、というのでは困ってしまいます。経営が苦しくなりすぎないよう、海外のような手数料の導入を側面から後押ししているのでは、という受け止めもあります。

ライバル登場で金融は生き残れるか

金融界は、低金利で収益があがらない中で、変革のまっただ中です。「○○pay」など金融とITを駆使したフィンテックを武器に異業種の企業が決済サービスにどんどん参入し、競争は一段と激しくなっています。

金融のサービスはこれまで金融機関がいわば“独占”していました。しかし、新たなライバルが登場する中で、「サービス維持に手数料を」と求めるだけでは、利用者も納得しないでしょう。

口座の手数料の議論をきっかけに、金融機関から斬新で魅力的なサービスが生まれるようになってほしいと思います。
経済部記者
梶原 佐里
平成22年入局
徳島局・大阪局を経て現所属
現在は日銀・金融を取材