ぼくらがおじぎをする理由

ぼくらがおじぎをする理由
「アメリカ人は、嘆いています。
『日本人はおじぎだからいいわぁー』と」

アメリカ在住経験の長いシンガーソングライター、小沢健二さんが2月末につぶやいたこんなツイートがネット上で話題になりました。それから2週間。新型コロナウイルスの感染の収束は見通せませんが、海外では握手やハグの代わりに相手と接触しない日本のあいさつが、にわかに注目を集めているようなのです。(ネットワーク報道部 記者 郡義之 大石理恵)

おじぎ いいわぁー

まずは、小沢さんの実際のツイート内容を見てみましょう。
小沢健二さんのツイート
「『アメリカ人って、振る舞いが堂々としてていいわぁー。日本人はおじぎばかりで』と嘆いていた人よ。振る舞いが堂々としたアメリカ人は、嘆いています。『日本人はおじぎだからいいわぁー。俺たち普段、握手、ハグ、下手したら両頬にキスだから、今大変よ』と。」
この投稿に、ネット上ではコメントが相次ぎました。

握手拒否は「正しいこと」

握手やハグをめぐっては、先日、こんな光景もニュースで報じられました。

ドイツのメルケル首相がベルリンで行われた会議で、内相に握手を求めた際、拒否されたのです。
メルケル首相は差し出した手を上にあげて「正しいことです」と話し、会場は笑いに包まれました。

新型コロナウイルスの感染が拡大する今、握手やハグなどの接触を控える動きが世界中で広がっています。

とはいえ、人間社会に生きるかぎりコミュニケーションは不可欠。
何といってもあいさつは大事です。

握手やハグをしない代わりに、ネット上などでは新しいあいさつが提案されています。

その1 タイの「wai」

タイの「ワイ」というあいさつ。
手を合わせるもので、タイの人たちには、おなじみのあいさつです。

その2 ひじとひじで

ひじどうしをつき合わせるあいさつ。
相手には触れますが、直接手に触れることはないですね。

その3 足と足も

足先どうしを触れるあいさつ。
ネット上には、中国や中東の人たちがこのあいさつを交わす動画が見られました。
体幹が鍛えられそうです。

その4 日本の伝統 おじぎ

日本式のおじぎ。
互いに頭を下げる行為は、どこか丁寧さを感じさせます。
WHOで感染症対策を担うシルビー・ブリアン担当局長もツイッターで「私たちは、この新しい病気に適応する必要がある」と述べ、非接触型のあいさつの方法を推奨する考えを示しています。

心配ならやめます

それでは、いま外国ではあいさつをめぐってどんな対応をしているのか。

私たちはパリに住む日本人女性に話を聞いてみました。
答えてくれたのは札幌市出身のデザイナー、齋藤智子さん。
18年ほど前からパリに住んでいます。

齋藤さんによると、日常生活で気をつけようと意識し始めたのは、イタリアでの感染が拡大してからだと言います。
齋藤智子さん
「取引業者とは握手しますが、会社の入り口には消毒ジェルがあるので、みんな使っています。イベントの会場でも、握手は避けましょうという趣旨の看板も出ていました。子どもたちは、おもしろがって、ひじをつきあわせたり靴どうしを合わせたりしてあいさつしています」
では、欧米人がよく行うほおのキスは?
齋藤智子さん
「行う相手は近しい人なので、もしも心配だったら、互いにやめようって言えます」
やはり、握手とハグが主流のヨーロッパでも、変化が出ているようです。

OJIGIはワールドワイドになる?

異文化コミュニケーションに詳しい専門家は、非接触型の日本式のおじぎが世界から注目を集めるかもしれないといいます。
聖学院大学 小川隆夫特任教授
「欧米の握手や、ほおをすり合わせる行為などは相手の肌に触れることで、『自分は敵ではない』ことを示し、これからも仲よくしようというとても大事な行為としてきました。しかし新型コロナウイルスの感染が広がる中、おじぎは欧米の人たちにとっても、互いに触れずに気持ちが伝わるよいあいさつと見てくれるかもしれません」
実は小川さん、取材を申し込んだ10日は学生たちと一緒に研修でオーストラリアを訪問中でした。

オーストラリアでも新型コロナウイルスへの警戒が次第に強まっていることを感じたそうですが、そうした中、日本の学生が現地の人におじぎをすると、おじぎで返してくれるという光景が見られたということです。
それまでおじぎ文化のなかった地域の人たちに広がり始めているのかもしれません。

そこで、小川先生にこんな質問をしてみました。
「感染拡大が懸念される今、日本式のおじぎがワールドワイドになりますか?」
聖学院大学 小川隆夫特任教授
「かつてエボラ出血熱の時も、握手に代わるあいさつをやろうとしましたが、定着はしませんでした。コロナウイルスが終息すれば、また握手に戻ると思います」
手洗いや消毒だけでなく、あいさつの形まで気を遣わなければならないこのご時世。

感染拡大が収束して日常を取り戻した時には、人との交流や自然なふれ合いを抑えていた分、これまで以上に親近感や喜びが増すのかもしれません。