「私たちに時間をください」 “孤立出産”防ぐには

「私たちに時間をください」 “孤立出産”防ぐには
“孤立出産”ということばを知っていますか?
医療者の立ち会いなしに、風呂場などでひとりで産むことで、時に母子の命に関わる非常に危険な行為です。熊本市の病院が開設したいわゆる「赤ちゃんポスト」では、これまでに託された144人の半数が孤立出産で生まれた子どもです。危機感を強めた病院は、先進的な取り組みを進めている韓国を参考に具体的な対策を模索していますが…(熊本放送局記者 本庄真衣)

赤ちゃんポストの深刻な課題

熊本市の民間病院・慈恵病院では、親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」いわゆる「赤ちゃんポスト」を全国で唯一、13年前から運営しています。

去年3月までに合わせて144人の子どもを保護してきました。託されたうちの実に半数が、医療者の立ち会いなしにトイレや風呂場などでひとりで産む“孤立出産”の子どもです。

大量の出血が起きたり、子どもが産道に引っかかってしまったりするなど、出産は時に命の危険を伴うケースもあるため、孤立出産は母子の命に関わる非常に危険な行為です。「赤ちゃんポスト」にも、孤立出産の末、死産となった子どもが置かれていたこともありました。

副院長の蓮田健さんは、病院にたどりつくまでに、命の危機にさらされる子どもが多いことに心を痛めています。
蓮田副院長
「病院でお産していただければこんなことにはならなかったのに。病院にたどりついて、病院に助けを求めてくれればというのはよく思うところです」

匿名の電話相談も…

慈恵病院では、孤立出産を防ぐため、妊娠に関する匿名の電話相談も続けてきました。寄せられる相談は年間6000件以上。

「元交際相手との子どもで家族にも相談できず、後悔」
「周りにバレないか不安」
ほとんどが未婚での妊娠をひとりで抱え込む女性からです。

相談員たちは、家族への伝え方をアドバイスしたり、行政の窓口を紹介したりしますが、非難されたり、叱られたりするのを恐れて行動に移せない女性が多いと言います。

妊娠のことを誰にも話せないまま、孤立出産に至ってしまう女性が後を絶たないのです。
蓮田副院長
「相談できる人もいないという女性たちを目の当たりにしますと、赤ちゃんも大変かもしれないけど、お母さんも大変だと思う。未婚で妊娠したからとお母さんを叱ったり、突き放したりしたところで問題の解決にはならない」
慈恵病院では、孤立出産を防ぎたいと、女性たちを妊娠中から支援できないか、模索を始めています。注目したのは、手厚い支援制度がある韓国です。

支援の“先進地” 韓国では

蓮田さんはことし1月、ソウル市にある民間の未婚母子支援施設を訪ねました。ここでは、未婚で妊娠した女性が出産し、自立した生活を築くまで無償で支援。現在、母子合わせて41人が入所しています。
入所の手続きは、極めてシンプルです。ホームページ上のフォームや電話で、相談したい内容と名前、携帯電話の番号を伝えるだけで、家族にも知られずに入所できます。

インターネットでこの施設を見つけ、入所した18歳の女性に話を聞きました。
2年前、高校2年生の時に妊娠が発覚し、親には頼れないと施設の支援を受けて出産。適切な医療支援も受けられ、母子ともに健康でした。この施設には、最大で1年半入所でき、その間に、学業や職業訓練の支援も受けられます。

女性は理学療法士を目指し、この3月から大学に進学しました。
18歳の女性
「ここでは、若年の妊娠を否定的に見る人がいなかったので、安心して過ごすことができた。施設がなかったら、ひとりで産めたとしても育てられなかったと思う」
韓国には、こうした施設が全国に22か所あり、最大で運営費の8割を国が負担しています。

社会を動かした当事者たちの訴え

しかし、韓国もかつては、支援体制が十分ではありませんでした。社会を変える原動力となったのは、苦しんだ当事者たちの切実な訴えだったと、施設の代表は指摘します。
カン院長
「未婚の母たちは『私たちに1~2年の時間をください、施設で暮らしながら、就職に向けた教育が受けられれば、8割の女性は自分で育児ができる』と訴え、国も前向きに受け止めたのです」
1989年に「母子福祉法」が制定され、未婚の女性の出産、育児を一貫して支援するための制度が整いました。これにより、未婚でも、自立してわが子を育てる女性が急増し、社会のまなざしも大きく変わっていったといいます。

否定的な声も多い日本

ひるがえって、日本では未婚で妊娠した女性たちに対してどのような支援があるのか。

行政の窓口に相談すれば、「婦人保護施設」や「母子生活支援施設」などで、一時的に保護はしてもらえます。しかし、韓国のように、出産前の検診や出産、さらに産後の経済的自立までを一貫して支援するシステムが、十分に機能しているとは言い難いのが実情です。

※こうしたハードルを乗り越えて支援を進めようと取り組んでいる施設もあるものの※そもそも、多くの女性は世間の非難や偏見の目を恐れ、相談にすらいけないと言います。また、こうした支援を手厚くすることに対して「未婚の妊娠、出産を助長しかねない」と否定的な声が多いのも実情です。
蓮田副院長
「“秘密を明かさなくていい”ということと、“叱らずに温かく受け入れる”ということ、このふたつは、実は病院だけの話じゃないわけです。社会全体で彼女たちを受け入れる雰囲気をつくらなくてはいけない

必要な支援を

施設を利用しているのは、私と年齢も近い女性たち。未婚での妊娠・出産に、悩みや不安、葛藤を抱えながらも、施設での手厚いサポートを受けながら前向きに頑張ろうとする姿を目の当たりにして、とても感銘を受けました。

蓮田さんは、未婚で妊娠した人を慈恵病院で受け入れ、韓国のように支援したいと考えていますが、日本にはこうした施設を運用できる法的根拠はなく、必要な資金の確保も難しいのが現状です。

妊娠した女性は、相手の男性が逃げてしまい、責任をひとりで背負わされているケースが少なくありません。

また、生まれたその日に「虐待死」した子どもは、2017年度までの15年間で149人に上り、そのほとんどが孤立出産と大きな関係があると国も問題視しています。

女性が孤立してしまわないよう、私たち一人一人が現実を直視し、社会を変えていく必要があると強く感じています。

※この部分を追記しました。
熊本放送局記者
本庄真衣
平成28年入局
現在水俣支局に勤務