日立の雇用改革 その本気度は?

日立の雇用改革 その本気度は?
年功序列や終身雇用を柱とする「日本型雇用」の見直しが進んでいる。山場を迎えたことしの春闘でも、重要なテーマになった。とりわけ見直しの動きが進んでいるのは、グローバル企業との間で人材の獲得競争がしれつになっているIT関連の企業。その中にあって、「ジョブ型」と呼ばれる雇用体系に大きくかじを切ろうとしているのが日立製作所だ。世界で約30万人(このうち国内16万人)の社員が働く巨大企業の人事部門のトップに、そのねらいを聞いた。(経済部記者 早川俊太郎)

見直しの“本気度”

「日立でも定年まで働き続けるという考えの人は減ってきていて、20代・30代の3分の1は将来転職を考えています」
2月に開かれた日立の春闘に関する説明会の場での発言に驚いた。日本有数のメーカーでも人材の流動性がここまで進もうとしている。本来オープンにしにくいであろうデータを明かすのも、雇用体系の見直しに対する日立の本気度のあらわれだ。1983年の入社以来、日立製作所の人事畑を長く歩んできた中畑英信さんは(59)は、ことしの春闘で「日本型雇用」の脱却に向けた議論を労使間で本格的に始めた理由を次のように語る。
中畑専務
「2008年のリーマンショックで日立は7800億円の大赤字を出し、以後、事業の方向性を大きく変えました。グローバルをマーケットにし、単に製品やシステムを納めるのではなく、お客さんの課題や社会の課題を解決するサービスを提供していこうというモデルです」

「マーケットはグローバルなので、いろいろな人が必要になります。海外企業の買収などもあって、日立はことし6割が外国人になります。日本型の雇用システムがなじまなくなっているんです」

自分でキャリアを切り開け

日立が目指すのは、職務に応じて賃金や待遇が決まる制度。海外で一般的な「ジョブ型」と呼ばれる雇用体系だ。ポストごとに決められたスキルや経験を満たしていれば、年齢や社歴に関係なく、望む地位と報酬を得られることになる。「ジョブ型」への移行に向けて、会社は制度やシステムの整備を急いでいる。たとえば、会社がポストを明確に提示し、社員はみずからの経験や希望するポストなどをシステムに入力。双方をマッチングするようなイメージだ。
中畑専務
「人に仕事を割り当てるのではなく、仕事に人を割り当てるのです。これこれこういう仕事があります、そのために必要なスキルは何ですか、必要な経験は何ですかというのが先に明示されていて、そこに必要な人は誰ですか、ということです」

「日本の場合は人事異動で受け身が強かったと思いますが、ジョブ型では自分で自分のキャリアを考えていく、自分で切り開くという意識が必要になってくると思います。自分のキャリアを作るためにこのポジションを経験しておいたほうがいいといったことを自分で考えておく。そのためにはツールが必要で、会社はきちんと、こんなポジションがありますよ、どんな経験が必要ですよ、どんなスキルが必要ですよといったことを示していくことが必要だと思います」

新卒一括採用からの脱却

「ジョブ型」への移行に向けて、採用面でも本格的な改革に着手する。仕事の内容をより明確にし、求められる技能レベルなどを示すやり方だ。まずことしの採用から、デジタル人材の専門コースを設ける。また、これまで総合職で一括採用していた営業や総務といった事務系についても、職種ごとに採用するという。新卒と経験者の採用の比率は、現在、おおよそ2:1。これを2021年度には1:1にするという。将来的に新卒一括採用から脱却し、必要なポストに必要な人材を365日いつでも採用できるようにしたい考えだ。

会社に対する忠誠心

入社年次にかかわらず、スキルや経験次第でポストや収入が決まる「ジョブ型」の雇用。一方で、課題もある。解雇されやすくなるのではないか、会社に対する忠誠心が失われるのではないか、といった点だ。
中畑専務
「従来の日本型雇用でも、事業が非常に厳しくなった場合には雇用を保てません。逆にジョブ型にしたほうが、ポジションが明確になって手を挙げられるし、チャンスを得られる制度だと説明しています」

「私の部下にはすでにジョブ型で働いている外国人が17人いますが、決まった仕事しかやらないなんていう社員は1人もいません。それこそ自分が成長するために仕事は広げます。従業員の意識調査でも、『日立で働くことに誇りを持っている』と回答したのは、海外が8割に対して日本は6割ぐらいなんです。ジョブ型で忠誠心が損なわれるというのは、理屈があるのかな、と」
日本型雇用のもとで働いてきたベテラン社員にとって、性急な改革は厳しいのではないだろうか。
中畑専務
「それはあると思います。私の世代はみな日本型雇用で育っていて、自分からキャリアを積んできた人はあまりいませんので。そういう人たちにも、例えばポジションごとにどういうスキルや経験が必要なのかを知らしめて次のステップやチャンスを渡す。そして、会社は教育を提供する」

「それでも手を挙げない人はいるかもしれません。結果として、いま部長だった人が係長になるかもしれません。会社として機会を与えたうえでの結果ならしかたがないとも言えます。逆に言えば、若い人にチャンスを与えることになります」

「ジョブ型への完全な転換には時間がかかると思います。理由の1つはやはり社員の意識が変わりにくいこと。もう1つは、日本全体で雇用の在り方が変わるのに時間がかかること。ただ日立の中は変えていけますから、4年後くらいには、『あの事業部のあの仕事をやりたい』と手を挙げ、異動し始めるようなイメージを持っています」

社員と向き合い改革を

日本型雇用の見直しは、他の大手企業でも進んでいる。富士通も「ジョブ型」の人事制度への移行を進めている。AI=人工知能などの先端分野で高い専門性を持つ社員を「高度人材」と位置づけ、勤続年数にかかわらず、能力しだいで3000万円から4000万円の年収を得られるようにする。KDDIも、2021年度に入社する社員から通年採用に切り替え、専門性の高い能力を持った学生に能力にあった部門への配属を約束する「ジョブ型採用」を増やす。30万人を抱える日立が本気でジョブ型にかじを切ることで、この流れはいよいよ止まることはないだろうと感じる。
私自身いま34歳だが、われわれの世代は“就社”から“就職”へ意識の転換を進め、自分自身のキャリアと真剣に向き合う必要に迫られていると感じる。ただ、欧米に比べて転職市場が整っていない日本で性急に改革を進めると、ひずみが避けられない。企業は社員としっかり向き合って今後の雇用体系を考える必要がありそうだ。
経済部記者
早川 俊太郎
平成22年入局
横浜局、岐阜局、名古屋局を経て現所属
電機業界を担当