「死ねっていうのか」震災9年の声 被災者の支援どこまで?

「死ねっていうのか」震災9年の声 被災者の支援どこまで?
「家賃が3万ずつ上がり困っています。給料は変わっていないのに、どうしてかわかりません」。「どうしようもなくなったら死ねっていうのか」。
NHKが被災者に行ったアンケートに寄せられた声です。東日本大震災のあとに造られた災害公営住宅で、いま多くの入居者が家賃の値上げに苦しんでいます。取材を進めると、「被災者をどこまで支援するか」という問いに、私たちも悩みました。
(仙台放送局記者 野島裕輝 佐藤惠介 バルテンシュタイン永岡海)

家賃が当初の3倍に

アンケートを寄せた1人、仙台市の災害公営住宅に住む高橋美和さんに話を聞きました。
仙台市に住み、介護施設で働きながら3人の子を育てるシングルマザーですが、家賃の値上がりで生活が苦しいと言います。
9年前、両親とともに暮らしていた石巻市の実家が津波で全壊し、両親と離れ離れに暮らすことになりました。
友人のつてを頼って、小学生と保育園児だった3人の子どもと仙台に移住。
賃貸住宅での仮住まいを続け、5年前、家賃の安い災害公営住宅への入居が認められました。
「入居した当初は希望しか感じなかったです。新築だし、よしがんばろうって」
ようやく落ち着いて生活再建を目指そうという中で始まったのが、家賃の値上がりでした。
入居当初、8300円だった家賃が去年4月、およそ3倍の2万7000円に上がったのです。
高橋さんの収入は月におよそ15万円。
震災後に転校した影響で子どもが不登校になり、仕事を休んで子育てにあたるときもありました。
教育費や生活費がかさみ、貯金を取り崩して生活してきましたが、家賃の値上がりが重くのしかかっています。
高橋さん
「震災前の石巻の生活では家賃もかからず、近所のおすそ分けで食費もそれほどかからなかったので、震災がなければここまで困窮することはありませんでした。9年たっても生活の状況はそうそう豊かになりません。せめて子どもが育つまで、家賃の値上がりを待ってほしい」

退去考える人も

せっかく入った災害公営住宅からの退去を考えている人もいました。
石巻市の災害公営住宅に住む茂木 進さん(50)は、被災した人が対象の所得控除がなくなったことなどから入居当初から年々家賃が上がり、来年度は当初の4倍近くになるという通知が来ました。
住宅設備の組み立てなどを請け負う茂木さんは、自宅と事務所が津波の被害を受け、事業再開のためにした借金が今も400万円ほど残っています。
生活費を切り詰めるなかで家賃負担がさらに重くなるため、退去して安いアパートに引っ越すことを考えています。
茂木さん
「入居したときはこんな状況は全く想像できませんでした。災害公営住宅で生活を立て直し、将来は自宅を再建したいと思っていましたが、とてもそんな状態ではありません」

3人に1人が「値上がりした」

NHKが去年12月からことし1月にかけて岩手・宮城・福島の被災者に行ったアンケートでは、災害公営住宅に現在住んでいるか過去に住んでいた人の3人に1人(35%)が、入居当初と比べて家賃が上がったと回答しました。
2倍以上に値上がりしたという人が全体の1割を占め、3倍以上に値上がりしたという人もいました。

値上がりを受けて行っていることを聞いたところ、
▽「生活費の切り詰め」が67%と最も多く、
▽「災害公営住宅からの退去」と
▽「労働時間の増加」がいずれも8%、
▽「借金」と回答した人も5%いました。

なぜ家賃が上がる?

そもそもなぜ災害公営住宅の家賃が上がるのでしょうか。
国の支援制度により、災害公営住宅の入居者は市営住宅などの入居者よりも家賃が安く設定されます。
しかし、控除を差し引いた月収が15万8000円を超えた「収入超過世帯」は入居4年目から段階的に家賃が上がり、11年目から近くにある同じ間取りの民間賃貸住宅と同等の家賃となります。
また、月収8万円以下の「低所得世帯」は、入居が始まって6年目から段階的に家賃が上がり、11年目で一般の公営住宅と同じ家賃になります。
このため震災から9年がたったいま、家賃が上がった入居者が増えてきているのです。

自治体の支援に差

国の支援が減る中で、独自の支援を決めた自治体もあります。
宮城県内では、災害公営住宅が建てられている21の市と町に家賃問題への対応について聞きました。
すると、「収入超過世帯」に家賃の値上げ分を独自に支援しているのが12市町、「低所得世帯」に同様の支援をしているのが16市町ありました。
例えば、宮城県内で災害公営者の入居者が最も多い石巻市では「低所得世帯」「収入超過世帯」のどちらにも支援を行い、国の支援縮小による値上がりは今のところ起きていません。
石巻市の担当者は「今も生活に困っている被災者が数多くいる。生活再建の支援のために独自の支援を決めた」と話しています。

被災者の支援どこまで?

一方、高橋さんが住む仙台市では、災害公営住宅に入居する「低所得世帯」への支援を入居10年まで続けるものの、「収入超過世帯」には支援をしていません。
支援を縮小する理由の1つが、被災していない一般の低所得者と比べたときの“公平性”です。
仙台市では災害公営住宅に空きが出た場合、一般の低所得者にも対象を広げて入居者を募集していますが、その時の倍率が平均でおよそ15倍、最も高いときで30倍近くになることもあるそうです。
また、独自支援を続けた場合、一般の入居者と被災者では家賃に最大で3倍程度の差が生まれるといいます。
被災していない人たちから見て公平と言えるのか、慎重に考えなければならないと担当者は話します。
「被災していない人の中にも所得が少ない人や障害をお持ちの人、DVを受けている人などいろいろな方がいらっしゃいます。被災者が大変な状況を経験してきたのは、承知していますが、あからさまな差はつけられません」

家賃値上がりがコミュニティに影響も

家賃値上がりの思わぬ影響を受けているのが、高齢の入居者です。
90世帯250人が暮らす石巻市新門脇地区の災害公営住宅では、およそ6割が60代以上の高齢者だといいます。
団地会長の富 和一郎さんによりますと、いずれ家賃が上がる前に安い民間のアパートなどに引っ越そうと考えている若い世代が、10世帯ほどいるといいます。
富さんは、このままでは高齢者ばかりが災害公営住宅に残ることになってしまうことに不安を感じています。
富さん
「住民と協力して見回りを週に2、3回やっているが、コミュニティを担ってほしい若い世代が流出してしまえば、いつまで活動が続けられるかわからない」

支援縮小の前に現状把握を

被災した人の安定した生活のために建てられた災害公営住宅で、家賃の値上がりという問題に直面し、再び暮らしの安定が揺るがされる。
一般の方々との公平性を考えなければならない時期なのは理解できますが、「何かがおかしい」と感じずにいられませんでした。
9年という月日が流れても、震災の影響は被災した人たちの生活に色濃く残っています。

災害公営住宅への入居を区切りに一律に支援を縮小させる前に、本当に支援の必要がないのか、一人一人の個別の事情を聞き取り、現状を把握することが先決ではないかと思います。
仙台放送局記者
野島 裕輝
仙台放送局記者
佐藤 惠介
仙台放送局記者
バルテンシュタイン 永岡 海