“刑務所DJ” 更生願い語り続けて40年

“刑務所DJ” 更生願い語り続けて40年
“刑務所DJ”という存在、知っていますか?刑務所を出所した元受刑者が罪を犯して再び刑務所に戻るケースが増える中、受刑者が社会に出たあとに立ち直るきっかけにしてもらおうと、刑務所の館内放送の番組で語りかけるディスクジョッキーのことです。全国に先駆けて、40年前から富山刑務所でDJを務めてきた男性が、受刑者に紡ぎ続けてきたことばとは。(ラジオセンター 熊田繁夫)

受刑者たちが楽しみにしている放送

富山刑務所での館内放送「730ナイトアワー」は、毎月、最終月曜日の午後7時半からの1時間半、ちょうど、受刑者たちが夕食を終えて就寝するまでの時間帯に放送されます。

ここには現在、20代から70代までおよそ250人の受刑者がいて、その多くは窃盗や覚醒剤の所持・使用など10年未満の罪で服役しています。受刑者たちはこの「ナイトアワー」の放送を毎回、楽しみにしています。どんな放送内容かというと…。

番組では毎回、「父母の思い出」や「挑戦」といったテーマを設け、放送日の前に、受刑者たちはそれぞれの思いを200字以内のメッセージにまとめ、リクエスト曲を書き添えて、担当の刑務官に渡します。そして放送では、採用されたメッセージがリクエスト曲とともに紹介され、DJがメッセージの1通1通に寄り添ったことばで受け答えしていきます。
“DJ”を務めているのは川越恒豊さん(79)。富山市内のお寺の住職です。

きっかけは今から40年余り前のこと。富山刑務所で受刑者に教え諭す教誨師(きょうかいし)を務めていた川越さんは、当時、地元の民放ラジオ局にも出演していて、その軽妙な語り口から「話がおもしろいお坊さん」として親しまれていました。そこで、刑務所が企画した受刑者向けの館内放送で番組のDJに抜てきされたのです。

以来、川越さんは40年間、一度も休むことなく、ボランティアで、マイクを通して受刑者たちに語り続けてきました。そこには、川越さんの一貫して変わらぬ思いがありました。
川越さん
「罪を犯したことは決して忘れてはいけないが、過去の過ちを自分自身の“心の起爆剤”にしていくことが大切」

40年の節目の放送

私は6年前、富山放送局に勤務していた時、川越さんの「刑務所DJ」を取材し、その取り組みに感銘を受けました。

そして今回、放送40年の節目を迎えるということを聞き、改めて取材したいと思い、富山に向かいました。
40年の節目の番組は、通常より30分長い2時間のスペシャル版でことし1月に放送されました。この日のテーマは、40年の記念放送にあわせて「私の記念日」でした。

番組で紹介されたメッセージの1つです。
70代の男性受刑者
「私の記念日、それは現在の妻との結婚記念日です。私の妻は私を本気で応援してくれています。私にとっては、人生の『羅針盤』のような存在で、どんな状況にあろうとも人間としての正しい基本に導いてくれます」
これに対して川越さんは、こう返していました。
川越さん
「『羅針盤』ということば、私もよく使うが、『速度計』より『羅針盤』。どこ行くかわからないうちにスピードアップするよりも、ゆっくりでもいいから羅針盤をもって人生の方向を定めるということは大事」
また、こんなメッセージも紹介されました。
50代の男性受刑者
「自分の誕生日と両親の結婚記念日が同じ日です。出所したら、その日には両親から『誕生日おめでとう』と言ってもらい、自分も両親に結婚記念日のプレゼントを贈りたい」
川越さんはそれぞれの「記念日」を常に胸に抱きながら、気持ちに弾みをつけていくことが大切だと、受刑者たちに語りかけていました。

番組は“家族や社会との接点”

放送を聞いた受刑者たちはこの番組をどう受け止めているのか。
30代の男性受刑者
「規則が厳しい服役生活の中で、番組は楽しみの1つです。過ちを犯した自分たちの意見に対しても、川越さんは否定することなく、ちゃんと受け入れたうえで言葉を送ってくれる。とてもうれしい気持ちになります」
番組がスタートしてからこれまでに、放送回数は450回を超え、寄せられたメッセージは1万8000通に達しています。番組は、心理的にも孤立しがちな受刑者一人一人に、自分と家族や社会との関係を改めて思い起こさせる役割を担ってきたのです。

富山刑務所でナイトアワーを担当する晒谷教寛首席矯正処遇官は次のように話しています。
晒谷首席矯正処遇官
「彼らは塀の中にいて、社会との孤立、孤独感を日々、感じています。そうした中でナイトアワーは、社会と彼らをつなぐ役割を持っているのではないかと思っています。本当に貴重な、受刑者の更生にとってなくてはならないものだと思っています」

出所した元受刑者からも便りが

受刑者と川越さんの強い絆は出所後も続きます。川越さんの元には元受刑者たちから近況を伝える手紙やはがきが送られてきます。

その1人、ことしの年賀状を川越さんに送った九州で暮らす60代の男性を取材することができました。男性は、かつては暴力団の幹部で、覚醒剤を使用するなどして、刑務所暮らしを繰り返しました。6年前に出所しましたが、最後に入った富山刑務所で、川越さんの番組に出会いました。

男性は、受刑者と刑務官といった立場の違いでなく、同じ人間として自分に向き合った川越さんのことばを胸に、今は自立した生活を築き、家族との穏やかな毎日を送っているということです。
6年前に富山刑務所を出所した男性
「川越さんは、受刑者の悩みや苦しみについて、受刑者の側に立って分け隔てなく、わかりやすいことばで答えてくれた。川越さんとの出会いがなかったら、また同じ道を歩いていたかもしれないと思うことが数多くあった。そんな時は川越さんのことばを思い出して自分の気持ちを奮い立たせて、乗り越えることができた」
しかし、今、刑務所を出所した人が再び罪を犯して刑務所に入る「再入者」の割合は全国的に増えていて大きな課題になっています。

法務省によりますと、2018年の再入者の割合は59.7%で、10年前と比べると5ポイント以上増えています。元受刑者が再び罪を犯してしまう背景には、社会に出た後に直面する再就職の難しさや、周りの人との人間関係などが大きな壁になっていると指摘されています。

そんな中で、富山刑務所の“刑務所DJ”は、受刑者一人一人に寄り添い、心の声をくみ上げ、それに真摯(しんし)に答えていくことで、自分自身の社会の中での生き方を見つめ直すきっかけにしてもらう取り組みだと言えます。

法務省によりますと今では、こうした刑務所での放送が、全国の刑務所など83の施設のうち、熊本刑務所や東京の府中刑務所など24か所で行われているということです。

同じ“人”と“人”として

川越さん
「心がけていることは、私も人間、聞いている人も人間であるということ。彼らは更生の一途を薄紙を剥ぐようにして歩んでいる。どうか温かい血が流れる人間になってもらいたい。これからも受刑者一人一人の栄養剤になっていけるようにこの番組を生かさせていくことが私の使命感だと受け止めている」
元受刑者が出所後、再び社会の中で歩み出していくためには、私たち周囲の人たちが同じ“人”と“人”として、心を寄せ合っていくことが必要ではないか。取材を通して強く実感しました。
ラジオセンター チーフディレクター
熊田繁夫
1992年入局
松江局、テレビニュース部などを経て現職。