絶対オスしか生まれない!? 長崎発 驚きの新技術に迫る

絶対オスしか生まれない!? 長崎発 驚きの新技術に迫る
冬を代表する味覚の1つ、トラフグ。
中でも、オスの精巣である白子は、とろとろの濃厚な味わいが魅力ですよね。

この白子を売りに産地としての知名度を高めようと、ある養殖技術が長崎で開発され、今シーズンから出荷が始まりました。白子が、私たちにとって身近な存在になる日は訪れるのでしょうか。(長崎放送局記者 保井美聡)

全国一のトラフグ産地ってどこ?

フグ刺しにフグ鍋、フグのから揚げ、焼きフグ、さらには希少部位の白子やひれ酒まで。なかなか手は届かないものの、誰しも一度はおなかいっぱいになるまで食べてみたいと思うフグ料理。

フグの消費量が全国で最も多い大阪の料理店で、フグの産地について尋ねてみると、お客さんから挙がったのは、「下関」や「山口」。

確かにフグの取扱量は、山口県が全国一。ただ全国一の“産地”となると、実は長崎県なんです。
おととし(平成30年)の長崎県の養殖フグ生産量は2300トン余り。全国の生産量の半分余りを占めています。一方、天然のフグはと言うと、漁獲量全国一は石川県ですが、同じおととしの漁獲量は800トン余り。

それと比べれば、長崎の規模は段違いです。取材した大阪のフグ料理店でも、主に扱っていたのは長崎県産の養殖トラフグ。良質なエサを与えていて、身の質が良いのが理由だそうです。

「海の宝石」の市場価値に注目

これだけフグをたくさん生産しながらも、全国の消費者にはほとんど知られていない長崎県。

産地としての知名度を高めようと新たに開発したのは、オスだけのトラフグを産み出す独自の技術です。
「海の宝石」とも呼ばれる白子を持つオスは、市場では、メスよりも2割ほど高値で取り引きされています。その白子が必ず入っているとなれば、市場などでも注目されるのではないかと期待を寄せています。
長崎県総合水産試験場 濱崎将臣主任研究員
「白子は本当においしいんですよ。知ってますか。ぜひたくさん食べてもらいたい。トラフグは長崎県が主導権を握れる魚種だと思うんです」

「全雄」産み出す仕組みとは

では、オスだけのトラフグ「全雄(ぜんおす)」を産み出す技術とは。
まず、オスの精子のもととなる「精原細胞」をメスの稚魚の腹に移植。「X」の性染色体を持った卵子だけでなく、オス特有の「Y」の性染色体を持った卵子を育てます。
そして、その卵子と「X」や「Y」の性染色体を持つ普通のオスの精子からは、4分の1の確率で「YY」の性染色体を持つ特殊な「超雄(ちょうおす)」と呼ばれるトラフグが誕生します。
さらに、この「YY」の「超雄」と、「XX」の普通のメスを掛け合わせれば、すべて「XY」の普通のオス「全雄」が産まれるという仕組みです。
研究を始めてから今シーズンの初出荷まで、かかった歳月はおよそ10年。
この技術を開発した長崎県総合水産試験場の濱崎将臣主任研究員は、「精原細胞」を移植する工程に最も苦労したといいます。
100分の1ミリの単位で針の太さを調整し、その針を刺す場所や角度、強さなどを変えて何百通りもの実験を繰り返しました。フグの産卵期にあたる春は、研究室で夜を明かしたと振り返ります。

養殖業者も大きな期待

この冬、濱崎主任研究員は、長崎県佐世保市の養殖業者を訪れていました。初の出荷に向けた最終確認を行うためです。

トラフグは、外見からオスとメスの見分けが付きにくいため、多くは、腹をさわって精巣の張り具合を確認して、性別を判断します。

さっそく海に浮かべた生けすから、無作為に5匹のトラフグを引き上げてさばいてみると、どれもしっかりと白子が入っていました。
養殖業者 山ノ内幸太郎さん
「本当に全部オスなのかと、最初は疑問に思いましたが、実際に目で見て一安心です。今後、うまく流通に乗ってほしいと思います」
養殖業者は、数百から数千匹という大口で市場に出荷するため、オスとメスをより分ける手間をかけられず、これまでは主に重さで出荷価格が決められていました。ただ「全雄」のトラフグとなれば、出荷の段階から高値で扱われ、養殖業者の収入増にも直結すると期待されています。

最大消費地・大阪のバイヤーも注目

長崎県産の養殖魚の品質の高さをアピールしようと、県漁連が毎年開いている品評会。

ここに「全雄」のトラフグを出品したところ、全国最大の消費地・大阪のバイヤー、吉本明弘さんが目を付けました。
関西のスーパーマーケットチェーン 水産物仕入れ担当 吉本明弘さん
「関西地方で人気が高いのは白子。必ず入っているということであれば、気になる商品」
吉本さんが勤めるスーパーマーケットチェーンの店舗を案内してもらうと、鮮魚売り場の一角に、トラフグ専門のコーナーが設けられていました。

この冬、トラフグの刺身や鍋用の切り身、それに高級食材の白子をセットにした新商品を販売したところ、予想以上の売れ行きだったということです。
白子の需要がピークを迎える年末年始に「全雄」のトラフグを仕入れれば、白子を安定的に手に入れることができ、商品のラインナップも増やせるのではないかと考えた吉本さん。さっそく同僚のバイヤーを集めて社内会議を開き、来シーズンの入荷に向けた検討を進めています。

「全雄」で長崎のトラフグをアピール

長崎県は、今後さらに「全雄」のトラフグを扱う養殖業者を増やしていく計画です。

また、県内外の流通業者や小売店などを集め、必ず白子が入っているというメリットのほか、普通のオスと同じ遺伝子を持っている「全雄」は「安全性にも問題はない」などとアピールすることにしています。

さらには、今後オスのトラフグの供給が増えることで、白子が値下がりしすぎないか、長崎県総合水産試験場もデータの収集を続けることにしています。
長崎県総合水産試験場 濱崎将臣主任研究員
「今後、一般の消費者が手軽に白子を口にできるようになれば、トラフグの消費も伸びていくと思う。『全雄』のメリットは、養殖業者だけでなく、消費者にも、流通業者にも理解してもらえるはずだ」
「全雄」は、長崎のフグ産地としての知名度を高めるための切り札となり得るか。今後も取材を続けたいと思います。
長崎放送局記者
保井美聡
平成26年入局
仙台局を経て長崎局で地域経済など担当
白子は天ぷら派!