マスク トイレットペーパー…高額転売対策は?新型ウイルス

マスク トイレットペーパー…高額転売対策は?新型ウイルス
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、インターネット上ではマスクや消毒液などが非常に高額で販売されています。またトイレットペーパーなどが不足するという間違った情報が1人歩きして、各地の店舗で軒並み売り切れとなった際には、ネット通販や個人間の取り引きができるアプリなどで高額の出品が話題となりました。品薄感を強めていると指摘されているのが、「転売目的の大量購入」です。中には悪質な転売もあると指摘されています。政府は転売目的の購入や不要不急の買いだめを控えるよう呼びかけていますが、高額な出品はなくなっていません。何か対策はないのか取材しました。

ネット転売は驚きの価格

定価およそ2500円の箱入りマスクが5箱でおよそ10万円。
トイレットペーパーが12個1袋で7000円。
さらにマスク1箱10円、でも送料は8000円。

いずれもネットの大手通販サイトで販売されていた商品です。もちろん転売目的で買い集めたものかどうかは分かりませんが、中には悪質なケースもあると指摘されています。

政府や運営会社の対応は

こうしたネット上の転売については、政府もさまざまな対応をしてきました。

◎2月5日=消費者庁は転売目的の出品を防ぐための取り組みを運営会社に要請
◎2月28日=経済産業省はマスクと消毒液の出品を3月14日から当分の間、自粛するようネットオークション事業者に対して要請

このほか厚生労働省がドラッグストアなどの業界団体に転売目的の購入を防ぐための対策を求めています。

また運営会社側も悪質なケースは取り引きを制限したり、出品禁止に関するガイドラインを見直したりして対応にあたっています。

ただ高額の出品は後を絶たないのが現状です。

関係する法律は?

今すぐ必要だという人にとって、政府の「要請」がどれだけ即効性があるのか、分かりにくいかもしれません。

何かほかに対策はあるのでしょうか。実は生活に欠かせない物資を買い占めや売り惜しみなどから守るための法律があります。

▼1つが「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」。いわゆる「買い占め防止法」です。
▼もう1つが「国民生活安定緊急措置法」です。

いずれも第1次石油ショックをきっかけに昭和48年に施行されました。

伝家の宝刀“買い占め防止法”

まず「買い占め防止法」ですが、生活必需品の価格が異常に上昇するおそれがある場合などに、政府が価格や供給量などを調査し、「買い占め」や「売り惜しみ」が確認されれば、売り渡すよう命じることができる法律です。違反すれば3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

この法律を適用することはできるのでしょうか?

法律を所管する消費者庁によりますと、この法律は石油ショック並みに市場全体で価格が高騰することが前提条件となっているということです。

そして価格が高騰しているかどうかは、生活必需品ごとに担当する省庁がさまざまな指標を参考に総合的に判断しますが、一般的には総務省が発表している「消費者物価指数」を参考にしているといいます。

この「消費者物価指数」は家庭で消費するモノやサービスの値動きを示しています。

平成27年を100とした指数でみると、例えば、第1次石油ショックの際に品薄となった「ちり紙」は昭和48年は「84.4」でしたが翌年には「136.8」に上昇し、高騰していたことがわかります。

最近のマスクの指数も調べてみました。マスクは全国のデータが公開されていないため東京23区のデータをみると、去年9月が「108.2」で、ことし1月が「102.6」、2月は速報値で「107.5」となっていて、大きな変動はみられません。

2月21日の閣議で、「現段階においてはマスクを特別の調査を要する物資として指定する状況ではないと考えている」とする答弁書が決定されました。

ちなみにこの法律は40年余り適用されたことがないそうです。

国民生活安定緊急措置法ではどうか

では、「国民生活安定緊急措置法」はどうでしょうか。

この法律では、価格が高騰した場合に国が生活物資の価格と供給量を調整することなどが定められています。

例えば、物資の供給が不足し、住民の生活や地域経済に影響が出るおそれがある場合などに、政府が企業に対して物資の数量や価格などを定めて売り渡すよう指示することができます。

実はこの法律によって、すでに1つの対策がとられています。それは3月1日、政府が発表した、北海道の自治体にマスクを届ける措置です。

政府がメーカーにマスクの売り渡しを求めて、必要な自治体に届けました。

この法律に基づいて売り渡しが行われたのは初めてのケースです。

ネット社会に対応できず

では、この法律で悪質な高額転売を取り締まることはできるのでしょうか。

3月5日、消費者庁に確認したところ、現状としては転売に対して適用できるかについて政府全体で慎重に検討を進めているという回答でした。

ポイントは市場の動向をどうとらえるかだということです。市場全体の価格が高騰している事実を確認することが必要ですが、マスクの価格が高騰している現状は確認できていないといいます。

というのも、この法律ができた当時はネット通販などの電子商取引は想定されてしませんでした。

またマスクなどのネット上の価格は「消費者物価指数」にほとんど反映されていないそうです。

さらに難しいのが、高額転売が問題となるのはフリマアプリやオークションサイトなどを通じた個人間の取り引きが多いことです。

この法律で個人間の取り引きがカバーできるのかが焦点となります。

ではどうすればいいのか?

インターネットの問題に詳しい福井健策弁護士は、こうした法律以外にも行政と企業が共同で対策を取っていくべきだと指摘しています。

福井弁護士は自由な経済活動を制限する法規制の適用は慎重に行うべきだとしたうえで、深刻な影響が今後も改善されないのであれば、運営会社の自主規制だけに頼ってはいられないとしています。

なおヨーロッパなどでは「共同規制」という考え方が進んでいるそうです。具体的には行政が業界団体に対して、自分たちで具体的なガイドラインを作るよう要請し、そのガイドラインから逸脱した場合に行政が取締りを行うなどの仕組みです。

また業界どうしの連携も必要だといいます。通常の店舗とネット通販の会社などが供給量や価格の情報を共有し、買い占めや高額転売の動きをいち早く把握することで、素早く情報発信をしたり、対策をとったりすることができるということです。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことも、私たちの生活を守っていくことも、いずれも重要です。また経済活動の自由を守ることも重要です。新型コロナウイルスという新たな敵を前に、生活と社会の秩序を守り切るためにも、消費者を守る新たな仕組みが必要となっています。