感染は誰かのせい?

感染は誰かのせい?
新型コロナウイルスへの感染が各地で相次ぐなか、自分や家族が感染したらと、不安に感じている人も少なくないと思います。
ただ、時にその思いが、感染者やその周囲の人などに対して、心ないことばとなって投げつけられる、そんなケースが一部で起き始めています。
感染は誰かのせい、なのでしょうか?
(ネットワーク報道部記者 郡義之 管野彰彦)

ネット上で広がる不安

ネット上では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、不安の声が広がっています。
そして、感染のリスクを感じるような行為に対して、敏感になっている様子もうかがえます。
例えば、実家に帰ろうとした人が、家族から「家に入らないでほしい」と拒否されたといった声や、ぜんそくの症状がある子どもの母親が、子どもがせきをするたびに周囲の人たちからにらまれたり、舌打ちをされたり、「学校に来ないで」と言われたりしたといった声が上がっています。
中には、すべての中国人の来日を拒否するかのようなコメントも。

これらのすべてが差別的な意図に基づいているとはかぎりません。
自分や家族の身を守りたいという思いに基づく行動が、攻撃的に映っているのかもしれません。

こうした書き込みに対しては、「差別するのやめませんか」といったコメントや、「異常な事態」などと危惧するコメントも見られます。

医師までも…

2月22日、日本災害医学会がホームページ上で声明を出しました。
タイトルは「新型コロナウイルス感染症対応に従事する医療関係者への不当な批判に対する声明」

本文を見るとこんな記述が…。
「もはや人権問題ととらえるべき事態であり、強く抗議するとともに改善を求めたい」。
一体、何があったのでしょうか。

学会には、医師や看護師、救急隊員など、災害時の医療に携わる人たちが所属しています。
その中には、集団感染が確認されたクルーズ船で医療救護などに従事した人たちが含まれているといいます。

声明文には、こうした人たちが任務を終えたあとに直面した状況が記されています。
●クルーズ船から戻った後、職場で「バイ菌」扱いされるなど、いじめ行為を受けた

●子どもが保育園や幼稚園から登園自粛を求められた
感染した人だけでなく、その人たちを救おうとした医師なども、周囲から差別的な言動を受けているというのです。
今回、クルーズ船での対応にあたったDMAT=災害派遣医療チームの指揮本部で本部長を務め、現場の状況に詳しい阿南英明医師に話を聞くことができました。
阿南医師
「一般の人だけでなく、同じ医療関係者からでさえ心ないことばを受けたという報告が寄せられています。病院内で感染者の治療にあたっている人も多くいるのに、それと何が違うのか。非常に悲しいですし、腹が立っています」
中には、勤務する病院に戻ったあと、院長から、「病院にとって君はばい菌だ」と言われ、謝罪を求められたケースもあったといいます。

阿南医師はこうした状況が生まれる背景を次のように指摘しています。
阿南医師
「感染したらどうしようといった恐怖の感情はわかりますが、それを制御するのが人間の知性や理性のはずです。今は多くの人が冷静さを失っている状況で、『もし自分が感染したら』という想像力が欠如しています」
声明の発表後、学会には多くの励ましが寄せられたといいますが、中には非難の声もあったといいます。
「文句を言うな。泣き言を言うな」

「感染の可能性がある職員を受け入れる職場で非難の声が上がるのも当然だ」

「声明は傲慢で独善だ」
日本災害医学会の大友康裕代表理事は、「国からの要請に危険を顧みず協力した医療従事者に対する不当な扱いがあることを広く知っていただき、そうした対応はやめていただきたい」と訴えています。

帰国者を受け入れたホテルでは

また、中国の湖北省武漢からチャーター機で帰国した日本人を受け入れていたホテルによると、従業員の子どもが、「こっちに来るな」などと、学校内で嫌がらせを受けたケースが数件あったということです。

その後、地元の教育委員会などが対応して、こうした嫌がらせは数日で収まったということです。
ホテルの担当者
「その後は差別的なことは起きず、むしろ、ホテルに滞在している帰国者の皆さんを励ますような動きもあり、ありがたかった」

専門家は「差別は意味がない」

感染症対策に詳しい東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授は、次のように指摘します。
「感染症は誰がかかってもおかしくない病気で、今は自分が大丈夫でも、ある日、他人から感染するかもしれない。差別すること自体、意味のないことだ」
そのうえで、こう強調します。
「みんな不安なのはわかるが、だからといって、相手を忌み嫌っていては、状況は悪化するだけだ。今は、他人を差別するのではなく、社会全体で病気を予防していこうという意識を持つことが大事だ」
また、賀来特任教授は、かつて、ハンセン病やHIVなどへの感染をめぐっても同じような問題が起きたことに触れ、「今後も同じようなことが繰り返されるおそれがあり、感染症を正しく理解して差別をなくすためにも、子どものころからの教育をしっかりやっていくべきだ」と提言しています。
もしも自分や身近な人が感染して、周囲から差別的な扱いを受けたら。
そんなことも考えながら、感染症への向き合い方を考えていく時なのかもしれません。