“うばい合えば足らぬ” 新型コロナウイルス 募る不安が…

“うばい合えば足らぬ” 新型コロナウイルス 募る不安が…
「あ~、ない…」
スーパーに買い物に来ていた女性が嘆きました。ふだん棚にあふれているモノがないのです。品不足状態のマスクだけでなく、たくさんあるはずの品々が今、店舗から姿を消しています。「未知のものへの不安」だと専門家は指摘しました。
そして詩人のある言葉を思い出しました。(ネットワーク報道部 記者 郡義之 秋元宏美)
ふだん利用しているスーパーマーケットに行ってみました。
店内を歩くと、空になった棚があちらこちらに…。

品不足が続いているマスクや、先週末から急激な買い占め現象が起きているトイレットペーパーだけではありませんでした。

「あ~、ない…」あれも これも

まず “カップ麺” 。
一部の商品が完全に売り切れていました。
“缶詰め” もサバの水煮やみそ煮が全くありません。

長く保存できるものだけではなく、“飲料水” も大型のペットボトル入りの水が1本もなくなっています。
震災の時、原発事故に関わる不安から、飲料水が一気になくなったことがありましたが、
今回は水道から水がふだんどおり出ている中での「売り切れ」 です。

周りに聞いた話と合わせると、主食の “米” が品薄という店もありました。

そして “めんつゆ” “乾麺” “おかき” “食肉” “お菓子” “レトルトのカレー” …いろんな食べ物が、売り切れていたり品数が極端に少なくなったりしていました。

「あ~、ない…」
買い物に来た女性がすれ違いざまため息にも似た声をあげていました。

お米、あるじゃない

実際、商品は足りないのか。

スーパーにほど近い東京 渋谷区の十号通り商店街。
100年近く営業している老舗の米店が取材に答えてくれました。

店内に入ってみると、そこにはたくさんのお米が…。
「なんだ、あるじゃない」
いつもと変わらない光景にちょっとほっとした気持ちになりました。

ちゃんと入荷してますよ

店主の妻の志賀木実さんによると、こちらでも米を買いに来る人が先月28日ごろから急に増え始めたそうです。
でも…。
志賀さん
「週に1回から2回は、卸問屋からきちんと米が入荷します。供給には全く問題ないですよ」
東日本大震災の時もなかった状況だそうです。
志賀さん
「仕入れの量になんの問題もないのに、なんでこんなことになっているのか…」
ほかの食べ物を取材しても軒並み同じ状況でした。
日本即席食品工業協会
「一時的な消費の伸びはあったが生産・供給体制には問題ないです」
日本缶詰びん詰レトルト食品協会
「今回の件で、一時的に品薄になることはあっても、供給が滞ることはない」

専門家が解き明かす 2つのキーワード

今回の状況を「議題設定」と「スポットライト効果」ということばで説明してくれた専門家がいました。

情報社会心理学に詳しい東京大学の橋元良明教授です。

「議題設定」

橋元教授
「 “○○がない” という情報があると、混乱したり、集団的な興奮状況になったりします。買わなければいけないという軽い催眠にかかっているような状態です」
「お米など生活に重要なものは、家族を守るために確保しておこうという気持ちが働き、行動につながるんです」
「さらに『議題設定』と言って行列や棚が空になっている状態を報道などで目にするとそれが世の中の人々の最大の関心事だと意識します。自分も遅れまいと同じ行動をとってしまうんです」

「スポットライト効果」 高まる思い込み

橋元教授
「現在はSNSも大きく影響しています。物がないという情報が親しい人から次々と入ってくると、正しいかどうかは別として、情報の確度が自分の中でどんどん高まってしまいます」「『スポットライト効果』といって、品薄は最初、どこかの1店舗だった現象が、あたかも日本中で起きているかのように思い込む。その結果、多くの量を買いに走るという悪循環だと思います」

SNSにこんな告白

橋元教授の指摘にもあるように、ツイッター上にも投稿が上がっていました。
ツイッターの投稿
「自宅周辺のスーパーから一瞬、品薄になった時があり、猛烈な恐怖感を感じたんです~汗その時に、猛烈に買いだめしました」
「私も買いだめしました。デマとわかっていても、欲しい時にないと困るから家族のことを考えるとどうしても買っちゃいますよね」

デマだとわかっているけれど

橋元教授は買いだめの状況がある一方で、デマを信じている人はほとんどいないとも言います。
橋元教授
「多くの人は “デマだとわかっているけど” “在庫は十分あることはわかっているけど” 買いだめの行動に向かっていると思います」
「一番大切なのは自分、家族で、これを守るために利己的になってしまうのは人間の防衛本能。分かっているけど買ってしまうんです」

ではどうすれば?

こうした状況を無くすためにはどうしたらいいのか。
橋元教授は「正しい情報開示」と「思いやる気持ち」が必要と考えています。
橋元教授
「企業は入荷の予定や、在庫の状況などできるかぎり情報を開示し、お店で商品棚に書き添えるなど目に見える工夫が有効と思います」
「私たち個人にできることは、心を落ち着かせて、本当に困っている人のことを想像し、意識すること、助け合いの心を持つことが大切です」

未知への不安…

また災害心理学に詳しい関西大学の元吉忠寛教授は、未知のものへの社会不安が高まり、安心したい心理が働いているという指摘をしています。
元吉教授
「原発事故や新型のウイルスなど人々にとって未知のものがある場合、恐ろしさをより強く感じる」
「その結果、ほかの人にならって、できる範囲のことをやっておき、少しでも安心をしたいという心理が買いだめにつながっている」

“わけ合えばあまる”

取材を通じてわかったことは、一時的に店から商品がなくなっていたとしても、不足していないということでした。

目に見えないウイルスの危険にさらされている中、不安は当然ですし、大事な人を守るために買っておきたいという気持ちもみんなが持っています。

でも、ふと、こんなことばが浮かびました。
「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」
詩人で書家の相田みつをの作品「うばい合えば」の一節です。

非常時の今だからこそ、困ってしまう誰かを思いやりながら譲り合う、それも新型コロナウイルス対策の一つに違いありません。