心身病む官僚たち

心身病む官僚たち
「一緒に仕事をする同僚たちが相次いで休職した」(30代女性官僚)
「官舎を訪ねたら、官僚の息子がベッドの上で亡くなっていた」(71歳母親)
これは不眠不休で働く官僚たちのリアルな姿です。(霞が関リアル取材班 荒川真帆)

同じ課で一度に4人が…

ある省庁につとめる30代の女性が、自分の課で起きた出来事を語ってくれました。
「2年間に、4人の同僚が『うつ』の診断で休職しました。なかには親しかった新人の女性官僚もいました。国会対応などで、午前3時、4時の帰宅が当たり前の時期でした。ランチに行く暇もなく、私も全く悩みを聞いてあげられなかったです…」
これまで霞が関の激務については繰り返しお伝えしてきましたが、一度にこれだけ休職してしまうとは深刻な問題です。しかし、他の官僚たちに聞いてみると、こうした事態に慣れているのか、意外なほど冷静な反応でした。

「正直、驚かないです」(20代)
「ああ、あの人もなってしまったか…」(30代)
「あすはわが身か、とは思います」(30代)

つらいと言えなかった

そんな中、現在、休職中だという20代の女性官僚から、私たちのサイトに、こんなメールが送られてきました。
「もっと詳しく話を聞かせて欲しい」と頼んだところ、まだ本調子でない中、取材に応じてくれました。

彼女が体に変調をきたしたのは入省してまもなく。配属された局の筆頭課で国会対応にあたっていたさなかでした。激務に加え、「指導係」だった先輩の係長は他部署への応援で不在でした。ほかの先輩がフォローしてくれたこともありましたが、近くに相談できる人がおらず、悩んだといいます。
女性官僚(20代)
「部屋全体が忙しかったこともあったと思いますが、新人だったのに、上司から、『法令ブック読んだことある?』『こんなことも研修でやらないの?』と言われました。膨大な細かい作業を、どうさばけばいいのか要領が分からず、本当につらかったですね…」
遅い時は、朝5時半まで働き、省内に泊まることもあったといいます。働き始めて10か月。おう吐などに悩まされた末、医師から「抑うつ状態」と診断されました。いったん復職したものの、現在も休職しているといいます。彼女に、「どうしてそこまで自分を追い込んでしまったか」と尋ねると、しばらく考えてこう答えました。
「本当はもう自分では無理だと思っていました。でも、先輩や同期も残業120時間、140時間と働いている人もいるなかで、自分だけが働かない選択肢はありませんでした。『みんなやっているのだから』と無意識に我慢していたと思います」

職場に戻ることなく…

取材を続けると、メンタルの問題で休職を繰り返し32歳の若さで病死した官僚(以下Aさん)もいました。

2007年に、25歳で念願だった省庁に入省したAさん。「国の仕事に携われる」とやる気に満ちていたといいいます。当時の同僚も、「責任感が強く課内でも明るいムードメーカーのような存在でした」と証言しました。しかし、激務が続く中、母親にこんなメールを送るようになりました。
(メール:午前1時50分受信)
「部署が変わってから毎日大変です。大げさに聞こえるかもしれませんが死ぬほどきつくて、転職できるならしたいぐらいです」
この数か月後、医師から「適応障害」の診断を受けて休職します。いったん復職しましたが、体調はもとに戻りませんでした。

そして、2015年9月。母親が息子に食事を届けに官舎の部屋を訪ねると、息子はベッドで横になっていました。寝ているだけかと思いましたが、もう息をしていませんでした。くも膜下出血でした。

取材に対して、母親は声を振り絞って、こう答えました。
(母親)
「息子は誕生日にはメールをくれたり、気遣いのある子でした。省庁試験に合格した時は、私も泣いて喜びました。息子が病気になったのは、仕事の負荷が関係していたのではないかと思うんです。どうしてここまでの事態になってしまったのか、今も納得いかないのです…」

精神疾患の休職者、増加傾向

心身ともに、追い詰められている国家公務員。それはデータも裏付けています。
人事院によると、うつ病などの精神疾患で1か月以上仕事を休んだのは2017年度で3800人余り、過去3年で見ると、増加傾向にあります。全職員に占める割合は1.39%。これに対し、厚生労働省が民間企業を対象に行った調査結果は0.4%でした。

法令はあるけれど…

いったい、国家公務員の働き方を守る法令はどうなっているのでしょうか?

それは、人事院規則と呼ばれ、民間企業に適用される労働基準法ではありません。この規則にも、今年度の働き方改革に合わせて、残業の上限を原則、月45時間と明記されましたが、労働基準法と違い、罰則はありません。

さらに、他律的な業務の比重の高い部署は月100時間未満の超過勤務が行えるという例外規定もあるほかその部署をどこにするかも、各省庁に委ねられているのが実情なのです。

何が追い詰める?専門家は

職員たちは、どのように感じているのか。財務省や経産省、厚労省など6つの省庁のおよそ200人の職員を調査したという、大阪大学の北村亘教授に聞いてみました。
「この2~3年での仕事の変化を尋ねたところ、『業務量が増えている』『複雑化、高度化している』という回答が全体の7割に上りました。確かに補正予算を組む回数も増えているし、社会課題も複雑化しています。また、大規模な災害も多くなっているのに、職員は減っているという事実があります。状況は厳しくなっていますね」
そして、北村教授はこうも指摘しました。
「さらに調査で注目すべきは、『社会のために犠牲を払う覚悟がある』と答える人が7割以上に上る一方で、『官僚の威信は低下している』という回答は全体の9割に上る点です。公共への奉仕に燃える職員は必死なのに報われず、社会的にも評価が低いと感じる官僚が多いのではないでしょうか」

体験などお聞かせください

今、霞が関は新型コロナウイルスの対応でまさに“不眠不休”状態。取材していても、さすがに心配になります。
官僚たちに聞くと、こういった声も聞かれます。
「メンタルで休んでしまうと、弱いやつだとレッテルを貼られる」(30代)
「上司や外部のパワハラに耐えられなくなる人もいる」(40代)
皆さんの周りではいかがですか? 自身の体験などを、特設サイト「霞が関のリアル」までお寄せください。