今やひっぱりだこ!? 武器になるのは「数学」です

今やひっぱりだこ!? 武器になるのは「数学」です
スマホに話しかけると答えてくれるアレや、コンビニでの天候や客足などに応じた商品発注の最適化など、すでに暮らしの至るところにAI=人工知能が活用されています。そうしたAI時代に、求められる人材とは?ーーーシステムエンジニアやデータサイエンティストがそうかもしれませんが、実はいま求められているのは「数学ができる人」なのです。(経済部記者 木村隆介)

数学専攻が大人気! アメリカ

日本では「就職先がない」「何の役に立つか分からない」と敬遠されがちな数学。私自身、高校時代に深入りすることをやめてしまった文系人間ですが、数学に苦手意識を持つ人は多いのではと思います。

一方、AIの分野でリードするアメリカでは今、日本とは事情が全く異なっています。アメリカでは、よい待遇や仕事環境が得られる職種のランキングに「数学者」が常に上位に入ります。

カリフォルニアのある有力大学では、この10年で数学を主な専攻とする学生の数が5倍に増えたといいます。
グーグルやアップル、フェイスブックなどの巨大IT企業が今、数学専攻の学生を積極的に採用していることが背景にあります。

AIの基礎は数学にあり

なぜ数学なのか?AIには、課題を解くための計算や処理の手順を示した“アルゴリズム”が必要ですが、そのアルゴリズムを効率的に組み立てるために必要になるのが、高度な数学なのです。

足し算やかけ算などの四則演算をもとにした単純なプログラミングでは膨大な時間がかかってしまう作業が、アルゴリズムに最適な数式を組み込むことで、劇的に時間を短縮できます。
囲碁ソフトや画像認識などで使われる“ディープラーニング”のアルゴリズムは、微分積分や行列、ベクトルといった私たちが高校時代に学ぶ数学が土台にあります。

巨大IT企業がビジネスの糧にしている大量のデータを瞬時に分析し正確な結果を導き出す画期的なアルゴリズムを開発できるのは、高度な数式を理解し活用できる人材だとされているのです。

急成長 東大発の数学ベンチャーが

日本にも数学系人材を集めて注目されているベンチャー企業があります。2016年に東京大学大学院の特任教授が立ち上げた「Arithmer」です。110人の社員のうち、半数以上が数学や物理の博士号や修士号を持っていて、現代数学をAIに応用することを主な事業としています。
例えば、スマホをつかって前後左右から写真を撮影するだけで、正確なスーツの採寸ができるアプリ。最先端の幾何学「トポロジー」を使って、2次元の画像をもとに3次元の形状を推定。ほとんど誤差のない採寸を実現しているといいます。
また、最短1秒でクルマの修理の見積もりが出せるという自動車事故の損傷認識。キズやへこみを正確に認識するため、対象領域を非常に細かく分割して判別を行う「超離散系」と呼ばれる数学が使われています。

会社の2019年度の売り上げ見込みは8億円と、2年でおよそ10倍に拡大。大手の金融機関や商社からの出資も得ました。
大田社長
「日本だけでなく欧米からも、多いときは月に100人くらい応募が来ます。現代数学をいち早く展開できる人材を集めて、社会の課題を一気に解決していきたい」

数学人材 ゲーム業界でも

ゲーム業界でも、数学人材が活躍しています。

大手ゲームメーカー「スクウェア・エニックス」でAI開発部門のトップを務める三宅陽一郎さん。大学では数学科で、難解な数式が並ぶ専門書を1日1ページのペースで読む生活だったそうです。
ゲームに登場するキャラクターはプレーヤー以外はすべてAIによって制御されています。どの敵を攻撃すべきか、プレーヤーが攻撃を受けた時に助けに行くべきかといった時に、体力や速度、距離などいくつもの数値から最適な答えを導き出す高度な解析学が使われています。キャラクターの自然な動きにも数学が欠かせないのです。
三宅さん
「アートとテクノロジーが高度に融合するのがゲームの世界。AIの開発ではいま、基礎的な数学の力がどれだけあるかが重視されます」

数学人材の育成まったなし

経済産業省は10年後の2030年、AI関連の人材が12万人以上不足すると試算しています。専門家は、大学で高度な数学を学ぼうという若い人材への支援がいまこそ必要だと訴えます。
東京理科大学 若山教授
「数学ができる子どもたちは、教師や親から勧められて医学部に行ってしまう。実際に数学を勉強しても日本では教師くらいしか就職先がなかった。しかし、数学を武器に活躍できる場というのは本当にたくさんあるんです」
数学オリンピックで数多くのメダリストを生むなど、日本人の数学の知識や応用力は世界でトップクラス。潜在的な数学人材を社会で広く活用できるかが、米中がリードするAI時代に日本が挽回するための鍵を握っています。
経済部記者
木村隆介
2003年入局
福井局、国際部、ベルリン支局を経て2019年から現所属
経済産業省を担当