“老々相続”で相続が複雑に!

“老々相続”で相続が複雑に!
「老々相続」ということば、聞いたことありますか?文字どおり、財産を残した側も受け取る側もお年寄りということですが、高齢化が進み、こうした老々相続が増えていると言われています。この結果、相続が次々に重なったり、認知症の人が関係したりして相続が複雑になり、ときにはトラブルになることも。「老々相続」の実態を取材しました。(経済部記者 寺田麻美)

相続人の数に驚き!

取材を進めると、老々相続によって手続きがどんどん複雑になっていくという、あるケースに遭遇しました。

私が話を聞いたのは、千葉県に住む52歳の女性です。5年前、岩手県にいたおばが91歳で亡くなりました。相続財産は、3000万円の預貯金と、200万円相当の住宅。しばらくして、親戚からおばの相続のことで相談したいという連絡がありました。

実際に相続の対象となるのは、女性の母親(おばの妹)でしたが、高齢ということもあり、女性が代わりに手続きを進めることになりました。しかし、遺産を受け取る「相続人」の数を知って驚くことになります。その数、なんと20人以上。
おばの相続手続きをすることになった52歳の女性
「すべての相続人と連絡をとって了解を得なければ、おばの預貯金を下ろすことができないと言われ、関係者と連絡をとることになりました。そこには会ったこともない人もたくさんいました」

相続人、なぜ多い?

なぜ、おばの相続人がこんなに多いのか。女性は、3枚の紙に書かれた家系図をもとに説明してくれました。

大正13年に生まれたおば。父親と母親は、おばが生まれてからそれぞれ別の人と結婚し、おばは母方の祖父母に養子として引き取られました。その後、おばは結婚しましたが、子どもはいませんでした。
おばが亡くなり、相続人は配偶者のほか、第1順位の子どもがいないため、第2順位の親も対象となります。おばは、養子となったため、実の親、育ての親とも法律上の親子関係があります。しかしどちらの両親もすでに他界していました。

その結果、第3順位であるおばの兄弟姉妹が相続人となります。このケースでは、おばから見ると、実の両親の子、育ての親の子がいずれも相続人となります。

しかし、ほとんどが80代。すでに亡くなっている人もいました。このため相続がその子どもに引き継がれる「代襲相続」が発生。おばのおいやめいも相続人に加わった結果、相続の対象が20人以上になったのです。

「数次相続」で事態はさらに複雑に…

ここで事態はさらに複雑になります。

おばが亡くなってから1年後、相続の手続きが終わらないうちに、おばの夫が亡くなったのです。この結果、おばの相続におばの夫の相続が重なることとなりました。いわゆる「数次相続」です。

聞き慣れないことばですが、遺産分割協議や登記による相続財産の確定が終わっていないのに、相続人の1人が死亡し、次の遺産相続が始まることを言います。

「老々相続」では、遺産を受け取る側も高齢のため、このように相続が2回以上重なる複雑なケースもあります。こうなると、誰が相続の関係者で、相続分がいくらになるのか把握することが難しく、トラブルの要因になることもあるといいます。

今回のおばの相続の場合、おばの夫のきょうだい(全員死亡)の子まで加わって、遺産分割協議を行う必要が出てきました。この結果、おばの相続で合意をとりつけるべき対象は、実に31人にまで増えてしまったということです。
女性は、母親に代わって、親族に連絡をとろうとしていますが、全員に連絡がつくかどうか、また会ったこともない親族との間でもめごとが起きないか不安だと言います。

そもそも、ここまで相続が複雑になるのを事前に防ぐ手だてはなかったのでしょうか。女性は、それも難しかったとこぼします。
おばの相続手続きをすることになった52歳の女性
「生前、親族がおばに対して、遺言書を書くように促したこともありましたが、『早く死ねということなの?財産は国に寄付するつもり』と一蹴されてしまい、誰もそれ以上、強く言えませんでした。遺言書を書いてくれていればこんなことにはならなかったのですが…」

「老々相続」で手続きが複雑に

老々相続といいますが、実際、相続年齢はどこまで上がっているのでしょうか?

平成28年の相続税の申告データによると、相続財産を残した人(被相続人)の死亡時の年齢について、「80歳以上」の割合が、69.5%となっています。これは、平成元年と比べて、30.6ポイントも増加しています。それに伴って相続を受ける側(相続人)も高齢化していると考えられるので、「老々相続」が増えていることがわかります。

それでは老々相続のトラブルを防ぐためにどう対処すればよいのか。この問題に詳しい弁護士の奥原玲子さんに話を聞きました。
奥原玲子弁護士
「老々相続では、相続人が多くなり、ときには数次相続による相続の重なりもあって手続きや調整に大きな負担がかかることがある。特に最近多いのが相続人の中に認知症の人がいるケースだ。判断能力がなければ後見人が必要となって、通常、申し立てから選任までに1か月から2か月かかる。また、親族への照会や医師による鑑定などの選任の手続きによっては、さらに時間がかかるケースもある。相続の手続きが複雑になるのを防ぐには、自分の財産をきちんと整理し、死後にどうするかをよく考えて遺言書を作っておくことだ。70歳を超えたら毎年、遺言書を書き直すぐらいのことが必要ではないか」
高齢化が進むなか、誰もが直面する可能性がある「老々相続」。親族から、「財産よりも面倒な手続きを残した」と恨み節を吐かれることがないよう自分の財産がどのように引き継がれるのか、しっかり考えておく。そしてトラブルの種を残さない。老々相続の時代には、財産を残す側にもこうした責任が問われることになります。
経済部記者
寺田麻美
平成21年入局
高知放送局をへて
経済部で流通業界などを担当。
現在は、消費の現場から統計まで幅広い分野を取材。