“われはロシアなり” ~いつまで続く?プーチン体制

“われはロシアなり” ~いつまで続く?プーチン体制
年明けまもない1月15日、ロシア社会に衝撃が走った。

プーチン大統領が、恒例の年次教書演説の中で、突然、憲法を改正して国の権力構造の改革に着手する方針を打ち出したのだ。

プーチン氏の大統領任期はあと4年。早くも退任後を見据えた一手に出たのか? そして「ポスト・プーチン」もプーチン氏なのか?(モスクワ支局長 松尾寛・モスクワ支局記者 北村雄介)

突然の“プーチン革命”

プーチン大統領の“改憲演説”から、わずか数時間。

政権ナンバー2のメドベージェフ首相率いる内閣の総辞職というニュースが飛び込んできた。
この日、2度目の衝撃だ。

一時は、大統領職を任せて“タンデム”と呼ばれる二人三脚でロシアを率いた“盟友”メドベージェフ首相の退任。

後任に抜てきされたのはーー、連邦税務庁長官のミシュスチン氏(53)。

「え!誰?」というのが率直な感想だった。
さほど目立たないテクノクラート(=専門知識を持った官僚)だったミシュスチン氏。国営メディアは、すぐさま、「税務手続きのIT化を進め、行政手腕に長けた改革の旗手」と持ち上げた。

ミシュスチン内閣に与えられた最大の任務は、低迷するロシア経済の浮揚という、プーチン氏が最重視する課題だ。

さっそくプーチン氏は、新内閣に対して経済発展や国民生活の向上を目標とする「国家プロジェクト」を必ず実現するようげきを飛ばした。国民の支持をつなぎとめておくために不可欠だからである。

憲法改正で“ポスト・プーチン”は?

「ポスト・プーチン」体制の羅針盤となるロシアの憲法改正。

最大の注目点は、プーチン氏の退任後のポストである。
改正案は、大統領の任期を2期までと制限する一方、議会の権限拡大や、大統領の諮問機関「国家評議会」を国の基本方針を決める組織に改編する内容となっている。

これによって、プーチン氏が、大統領に再選されることはなくなり、議会や国家評議会の権限を強め、退任後にそのトップに就任するとの見方が浮上した。

プーチン氏は、憲法改正にかかる時間を「3か月余り」とし、4月22日に改正の是非を問う投票がロシア全土で行われる予定。

憲法改正がスムーズに進めば、プーチン大統領が2024年の任期満了を待たずに退任するとの見方も出ている。

“ポスト・プーチン”もプーチン?

一連のシナリオはいつ誰が描いたのか?

ロシアのメディアは、プーチン大統領が去年夏ごろ、大統領府のワイノ長官やキリエンコ第1副長官ら、ごく限られた側近に、みずからの退任をにらんだ憲法改正の準備を始めるよう指示したと伝えている。

ただ、大方の見方は「退任後も何らかの形で権力を維持し、事実上の最高指導者であり続ける」というもの。プーチン氏にとって最も大事なことは、これまでに築き上げた統治システムを維持させて、“欧米の介入”から国を守り「強いロシア」を永続させることだ。
プーチン氏の最終目標は、近代化を進めロシアを大国に押し上げたピョートル大帝のように「偉大な指導者」として後世に名を残すことだと見られている。

プーチン氏が大統領に就任して20年になることし、大統領府が公務やプライベートでの写真や動画を集めたアルバムをネット上で公開したり、国営の通信社が20のテーマでのインタビューを配信したりと、プーチン氏の業績をアピールする動きが始まっている。
みずからのシナリオを実現させるためプーチン氏が重視しているのが5月9日の対独戦勝記念日だ。

第2次世界大戦で2700万人ともいわれる犠牲者を出しながら、ナチス・ドイツに勝利した歴史は、いまでも多民族国家ロシアで、民族と宗教、それに社会的な格差を超えて国民を1つにする。ことしは戦勝75年にあたり、国をあげて祝賀行事を行うこの時期に、憲法改正をめぐる投票が検討されていることも偶然とは思えない。

プーチン続投? ロシア国民は

こうした動きを国民はどう見ているのか?

政府系の世論調査機関によると、改憲表明後の調査で、大統領の支持率は67%と3ポイントほど上昇した。しかし、モスクワ市民にインタビューすると「どうせ何も変わらないでしょ」と冷めた意見が数多く聞かれた。
モスクワでは、憲法改正に反対する野党勢力のデモや集会が相次いでいる。参加者は、プーチン氏が今後も権力の座にとどまり続けることに道を開くと懸念しているのだ。

ロシアでは、20年にわたる長期政権によって、政権幹部や政府系企業の関係者に富が集中する深刻な格差社会が出現した。欧米の経済制裁やエネルギー価格の伸び悩みを背景とする、経済の低迷も続いている。

収入から税金や公共料金を差し引いた、いわゆる可処分所得は、5年連続で減少の一途をたどり、国全体に漂う「閉塞感」が払拭される兆しはない。

さらに、政権に批判的なメディアを抑圧し、自由な意見表明ができたネット空間を監視しようとする動きへの不満も根強い。

反政権デモに参加したことがきっかけで、国立大学の教職を解雇されたという47歳の女性は「今のままではロシア社会が発展する可能性はない」と言い切った。

プーチン体制はいつまで続くのか。憲法改正の行方を国民は注視している。

どうなる? 日本との平和条約交渉

憲法改正の動きは、北方領土問題を抱える日本政府も注視する。

2月中旬、憲法改正に関する作業部会に出席したプーチン氏は、出席者から「ロシアの領土の割譲を禁止する規定を設けるべきだ。交渉すらすべきでない」と提案され、「アイデア自体は気に入った」と応じて賛意を示した。
明らかに北方領土を念頭に提案を行ったのは、ロシアの著名な俳優マシコフ氏。2011年公開のハリウッド映画「ミッション:インポッシブル」にも、愛国心に燃えたロシアの情報機関員役で登場した。

政権側が事前に用意した質問かどうかはわからないが、いずれにせよ、地元メディアも大きく取り上げることになった。

一方、マトビエンコ上院議長は、いまの憲法でも「領土の保全と不可侵」はうたわれていると指摘し、あらたに禁止規定が設けられても現状は変わらないという見方もある。

その後、プーチン大統領も、国境線を画定する交渉は妨げない方針を強調し、日本との交渉に配慮したものと見られている。

とはいえ、国民が注視する改憲議論で領土問題が提起されたことは、「北方領土は決して渡さない」というロシアの世論を一層強硬にしかねない。

続くプーチン流交渉 その真意は?

こうした中、ロシア政府は、日本と平和条約交渉を続ける姿勢は示している。

去年12月、モスクワで行われたラブロフ外相と茂木外務大臣の会談は、夕食会も含めると8時間におよんだ。ことし1月、プーチン大統領は、憲法改正で多忙な中、訪ロした国家安全保障局の北村滋局長との会談にも応じた。

ロシア側は、互いの立場の違いについて理解が深まったという認識で、実はここに来て議論を前に進めようという姿勢も見せ始めている。

ただ、プーチン氏にとって平和条約の内容がロシアの国益にかない「偉大な指導者」としてのレガシー(遺産)の1つになると確信しない限り、領土交渉に進展はないだろう。

憲法改正を経てロシア政治にどのような動きがあろうとも、日本との交渉でかぎを握るのは紛れもなくプーチン氏である。

ロシアをめぐる内外の動向とともに、プーチン氏の言動の真意を見定めることが不可欠な状況に変わりはない。
モスクワ支局長
松尾寛
モスクワ支局記者
北村雄介