北海道のサンマ基地の苦悩

北海道のサンマ基地の苦悩
北海道は、全国最大の漁業基地。しかし、かつて豊富に取れていた秋サケ、サンマ、スルメイカといった水産物が、過去に例がないような不振に陥り、水産業はかつてない危機を迎えています。今回、北海道の各放送局の記者が、危機に直面する現場を総力取材。苦悩する現場の声と、これからの姿をシリーズで伝えます。

1回目は、サンマ。旬の秋だけでなく、冷凍や加工品としても1年を通じてスーパーに並び、毎日のおかずに重宝する魚です。ところが、ここ数年、深刻な不漁が続いています。全国で最も多い北海道の水揚げ量は、長らく10万トン程度を維持していましたが、去年は2万トン余りと9年前のピークの6分の1に。極端な不漁に陥っています。サンマの水揚げ基地、北海道東部の釧路・根室地方がどう対処しようとしているのか、追いました。(根室支局記者 米田亘・釧路放送局記者 田村佑輔)

深刻な不漁、地域揺るがす

全国最大のサンマの水揚げ基地、根室市。このところの深刻な不漁を漁業者はどう受け止めているのか。

地元で半世紀以上、サンマ漁を行う船主の飯作鶴幸さん(77)。根室市の港を拠点に、大型船など2隻でサンマ漁を行っています。
しかし、不漁の影響で、昨年度の売上高は5年前と比べて半減。操業による赤字額は1億3000万円に上ったといいます。
飯作さんは「サンマがここまで厳しくなっているので、ここは耐え忍んでいかないといけない。本当にこれ以上の危機が来なければいいなと願っている」と話していました。

不漁の影響は、漁業者だけでなく地域全体に広がっています。
民間の信用調査会社「東京商工リサーチ」に取材をすると、サンマを主力商品として扱ってきた釧路・根室地方の水産加工業者では、倒産が去年までの5年間で10件に上ることがわかりました。根室市の主な水産加工会社18社の売り上げは、5年間で合計およそ20%減少しました。

こうした状況に、飯作さんは「このまま漁業が衰退していくと、地域がどんどん縮小してダメになってしまう。そういうことはまぎれもない事実だと思っています」と厳しい表情で話していました。

サンマ不漁は今後も続く?

サンマの不漁はいつまで続くのか。専門家に聞いてみました。
海洋環境に詳しい水産研究・教育機構の黒田寛主任研究員は「今後もしばらくサンマ漁にとっては厳しい状況が続くのではないか」との見通しを示しました。
黒田さんが指摘するのが、北海道東部の沖に冷たい水を運ぶ親潮が、3年前から届かなくなっているという特異な現象です。このため、これまでと比べて北海道東部の沖の海水温が高い状態が続いていて、サンマが生息しにくい海になっているというのです。

黒田さんは「おそらく長期的な変化なので、いきなり変わることはないだろう」と話していました。サンマはこれからも取れないという漁業者にとっては厳しい内容でした。

変動に対応せよー付加価値を高めるー

これまでサンマに依存してきた地域の水産業は、こうした事態にいやおうなしに対応を迫られています。

根室市の水産加工会社「兼由」の濱屋高男社長は、「付加価値を高める」ことが鍵だと言います。
この会社では限られた原料でも利益を生み出すために、3年ほど前からサンマのレトルト製品の生産を増やし、そのまま食べられる保存食用に味付けをして主に小売店に販売しています。
これまでは、資源が豊富な北の海でとれる原料を凍らせて、市場に大量出荷する薄利多売型の経営スタイルを続けてきましたが、いまは付加価値の高い商品を増やし利益率を少しでも高めようとしています。
濱屋社長は「いまの不漁はこれまででいちばんのピンチだと思っています。新たなことをずっと考えていかないといけない。いままで通りにやっていけばいいというわけではない」と話していました。

変動に対応せよーとれる魚をいかすー

食用としてほとんど扱われてこなかった魚に頼る動きも出ています。

釧路市の大手水産加工会社「マルハニチロ北日本」の釧路工場では、北海道東部で豊漁が続くマイワシに活路を見いだしています。
5年前から本格的にマイワシの缶詰の生産を開始し、いまでは生産量全体の4割を占めるほどの主力商品になっています。
静間幸男工場長は「以前はサンマのほうが多かったが、今年度はサンマに対して2倍以上の生産をイワシでやっている」と話していました。
また、釧路市には去年12月、マイワシ料理を主力メニューに据えた飲食店もオープンしました。
鮮度が落ちるのが早いマイワシですが、新鮮なうちに調理し、脂がのったマイワシはサンマに匹敵する地元の味覚になりうると店では見込んでいて、客からも「サンマよりもおいしい」などと好評でした。
この飲食店「くしろまる」の阿部久オーナーは「イワシの本当の味を知らない方が多くいると思います。イワシをもっと宣伝していきたい」と話していました。

変動に対応せよー行政も支援するー

サンマが取れない中、地域の基幹産業である水産加工業をどうやって守っていくかという課題に、行政も取り組んでいます。

釧路市の水産加工振興センターは、専門の職員が70あまりの加工用の機械を駆使して、マイワシを活用したさまざまなメニューを考案しています。

このセンターでは開発したメニューのノウハウを市内の加工業者に無償で提供しています。少しでもサンマに代わる商品を地元企業に販売してもらおうという狙いがあります。
鳴川慶一所長は「サンマや秋サケの水揚げが思わしくない状況が続いているので、マイワシを使った加工品の新商品がたくさんでるようなかたちになると、釧路も活気づくのかなと思います」と話していました。

厳しい中でも一歩ずつ

危機的な水揚げ状況が続く中、このほかにも根室市でベニザケの養殖研究を進めるなど、落ち込む漁業者の収入を増やそうと、あの手この手の対策が取られています。
ただ漁業者からは「サンマなど沖合で大量に魚を取ることで得ていた利益を補うことは到底無理だ」という声も聞かれます。

厳しい状況は続きますが、多くの関係者がそれぞれの対応について前向きに語る姿からは、今後の明るい兆しも感じました。

今後も現場の課題や漁業関係者の抱える悩みを取材していきます。
釧路放送局根室支局記者
米田亘   
平成28年入局 
札幌局を経て現職
北方領土問題や水産を担当
釧路放送局記者
田村佑輔   
平成27年入局 
静岡局、沼津支局を経て現職
経済や水産など担当