新型ウイルスショック!サプライチェーンに何が

新型ウイルスショック!サプライチェーンに何が
新型コロナウイルスの感染拡大が日本企業を揺さぶっている。懸念されていたサプライチェーン(部品の供給網)を通じた影響が、現実になり始めたのだ。顕著なのが自動車業界。影響をどう抑えるのか、奔走する自動車部品メーカーを取材した。(経済部記者 大江麻衣子)

せめぎ合い~2月14日

「すでに生産を再開している自動車メーカーから、部品の供給を求められている」「率先して中国での生産を正常化していきたいと思っているのではないか」「在庫は数日分か・・・」

横浜市にあるサスペンション関連を中心とした大手自動車部品メーカー、ヨロズの本社。中国の拠点と結んだテレビ会議で、連日、緊迫したやり取りが重ねられている。
2月14日(金)。この日は、武漢の工場(従業員600人)の再開を予定していた。しかし、前日になって地元の当局が企業活動の休業期間を延期するよう通知。再開は1週間先延ばしされた。武漢でつくる部品は、主に中国国内にある自動車メーカーに供給しているが、一部はアメリカなどにも輸出している。会社は、生産停止が長期化する場合に備えて、メキシコで代替生産する検討を本格的に始めた。
(春田常務)
「うちのせいで生産を止めたというのは絶対だめだ。われわれにとって供給責任が一番だ」

緊迫する会議~2月17日

週が明けた17日(月)。武漢の工場から、新たな情報がもたらされた。2月21日(金)の操業再開を当局に申請したが、認められなかったのだ。理由は薬品や食料品といった優先度の高い業種から操業再開を認める方針だからだと言われている。本来なら春節明けの2月4日から操業していたはずの武漢工場。生産停止が1か月に及ぼうとする事態を前に、本社はいっそうの情報収集を指示した。
一方、この日、広州の工場(従業員400人)は再開にこぎ着けた。工場の入り口には体温を測る装置を設けて従業員の検温を徹底。「人が集合した状態にならないように」「昼食は一斉に取らずグループごとに時間差で」感染拡大を防ぐためのルールも徹底して周知した。
広州では従業員の9割が出社し、フル生産も可能な体制を整えたが、この日の生産量は通常のわずか2割から3割。生産を再開した取引先の自動車メーカーの稼働率が上がっていないためだ。
春田氏は「いつどういう判断をするのか難しい。しかし、操業できるタイミングになったときに、すぐに対応できる準備が重要だ」と話した。「部品の供給網の維持」と「再開後の感染予防」。想定外の出来事に日々直面しながら、“二正面作戦”にあたっている。

国内生産にも広がる影響

去年の販売台数が2500万台余りにのぼる世界最大の自動車市場の中国。自動車メーカーだけでなく部品メーカーも集積し「世界の工場」になっている。日本が中国から輸入する自動車部品は金額にして3400億円余り。SARSの感染の広がった2003年の約10倍に増えた。
日産自動車は、中国からの部品が滞ったことで、九州の工場で一時的に生産を停止。今回の問題は自動車メーカーの国内生産にも影響を広げた。

「1次取引先の状況は確認できても、2次、3次取引先の状況は操業が再開しないとわからない。何が部品供給のボトルネックとなるかわからない」(自動車メーカー幹部)

国内生産にどこまで影響があるのか、メーカー各社とも、全容を把握しきれていないのが実態だ。
中国の自動車市場に詳しいみずほ銀行の湯進主任研究員は「企業活動の再開に伴う人の移動で感染がさらに拡大しなければ、多くのメーカーの工場では3月下旬にフル稼働に戻ると予想される。ただ、感染拡大が深刻な武漢ではフル稼働は5月までかかる可能性もある」と分析する。

4月21日から予定されていた世界最大規模のモーターショー「北京モーターショー」は延期が決まり、各国のメーカーの販売戦略にも影響しそうだ。

突きつけられた課題

1台あたり2万から3万点の部品が使われているという自動車。サプライチェーンはおのずと複雑になるが、コスト削減のために在庫を極力抑える生産管理が徹底されてきた。一方で、2003年に感染が拡大したSARSや、2011年の東日本大震災、そしてタイの洪水など、これまでもサプライチェーンの寸断に苦しめられることはあった。今後、どういった対応策が取り得るのか、ヨロズの志藤会長に尋ねた。
(志藤会長)
「局地的な災害であれば現地に入って生産設備を運び出すこともできるが、今回は武漢という街全体が封鎖される事態であり、これまで経験したことがない。もともとグローバル展開はリスクが1か所に集中するのを避けるために進めてきたことだが、今回のような事態にどう対応していくのか、考えていく必要がある」「従業員の安全と供給責任とを両立させるのは非常に難しい課題だが、在庫を積み増していくのか、部品メーカーどうしで協力して代替生産の体制を広げていくのか、これからの課題だ」
自動車メーカーの幹部は「地震や水害であれば災害の直後が被害のピークだ。しかし新型コロナウイルスはなお感染の拡大が続き、被害のピークが見えない」と語る。一方で、中国が世界最大の自動車市場であることに変わりはなく、各社ともその市場をなおざりにするわけにはいかない。突如として浮上した重大なリスクにどう立ち向かうのか。日本の自動車業界は試されている。
経済部 記者
大江麻衣子
平成21年入局
水戸局 福岡局を経て現所属
自動車業界を担当