動揺も見え 言いよどむ被告「あなたの大切な人は誰ですか」

動揺も見え 言いよどむ被告「あなたの大切な人は誰ですか」
もしあなたの目の前に、命の基準を勝手に作り、それに外れるからと他人の命を奪うことを正当化する人物がいたら、どんな問いを、どんなことばをかけるでしょうか。「植松聖さん、あなたの大切な人は誰ですか?」。その男性は、自分の大切な人を殺害した被告に静かにそう語りかけました。遺族や被害者家族、代理人の弁護士、裁判員…。それぞれが植松被告に直接問い、被告の動揺も見えた審理を伝えます。

ことばはとどくのか 植松聖被告への問い

3年半前、相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害されるなどした事件。元職員の植松聖(うえまつ・さとし)被告(30)が殺人などの罪に問われている裁判では、1月24日の8回目の審理から「被告人質問」が始まりました。今回の傍聴記では4回にわたって行われた被告人質問を通じて、差別的な主張を続ける被告と、それに対峙しようとする人たちとのやりとりを追っていきます。

責任能力が「なければ」死刑だという被告

初日、最初に質問に立ったのは被告の弁護士です。裁判で唯一の争点となっている「責任能力」について尋ねました。

(被告の弁護士)
「我々弁護士が、どのような主張をしているか知っていますか」。

(植松被告)
「はい知っています。心神喪失、こう弱を理由に、減刑もしくは無罪を主張しています」
「自分は責任能力について争うのは間違っていると思います。責任能力があると考えています」
「責任能力がなければ即死刑にするべきだと思っています」

責任能力が「あれば」ではなく「なければ」死刑だという被告。無罪を主張する弁護士に真っ向から反対意見を述べました。

この日の法廷で、自身が否定している「意思疎通できない人」として「心神喪失者」を挙げた被告、自分はそうではないと示すため「責任能力がある」という主張にこだわっているように見えました。一方で事件を起こすまでの経緯についてこう発言しました。

(被告)
「計画を50人くらいの友人らに話しました。半分以上の人に同意や理解をもらったと思っています」

(被告の弁護士)
「同意とはどんなことばで?」

(被告)
「『重度障害者を殺す』と言ったときが一番笑いが取れました」

(被告の弁護士)
「それを賛成と受け止めたのですか」

(被告)
「それが真実だから笑いが起きたのだと思います」

あまりに現実離れしていて笑うしかなかった人もいたかも知れません。「笑い」を「殺人への同意」と解釈したという被告。さらに安楽死と大麻とカジノを合法化すべきだと話し、大麻については自ら発言の機会を求め、ひときわ大きな声で持論を展開していました。無罪を主張するために質問していた弁護士は、当初の予定を大幅に短縮して被告人質問を終えました。

女性職員に「『心があるんだよ』と言われました」

検察官は、5人が殺害されたホームで拘束された女性職員が泣き叫びながら被告を止めようとしたことを問いました。

(検察官)
「職員にやめるように言われましたか」

(被告)
「(職員は)泣いていて『心があるんだよ』と言われました」

(検察官)
「どう思いましたか」

(被告)
「その程度では人の心とはいえないと思いました」

検察官は1人の犠牲者を例に挙げて、会話が出来たのではと質問しました。

(被告)
「私は意思疎通できると思っておりません」
「そのレベルは人間の意思疎通とは思っていません」

「その程度」「そのレベル」と、被告は心や意思疎通のありようを一方的に決める発言を繰り返しました。

遺族の問いかけ「大切な人は誰?」 言いよどむ被告

3日目と4日目の被告人質問。12年前に始まった被害者参加制度を使って法廷に立ったのは遺族と被害者家族、その代理人の弁護士たちでした。

事件で命を奪われたひとり、法廷で「甲Eさん」と呼ばれる60歳の女性の弟である男性。遺族の中でただひとり被告人質問に臨みました。

男性はこの間、法廷で凄惨な事件の詳細が読み上げられ、被告の差別的な主張が繰り返される中でも、初公判から連日足を運び審理の様子を見つめてきました。

黒いスーツにネクタイ姿で法廷に立った男性は質問を始めました。

(60歳女性の弟)
「私は切ない裁判だなと思っているのですが、植松聖さんはいかがですか」

(被告)
「そう思います」

(60歳女性の弟)
「私は匿名のお願いをしましたがどう思いますか」

(被告)
「仕方ないと思います」

男性は被告を「植松聖さん」と呼びながら、終始、抑制的で丁寧な口調で聞いていきます。

事件当日のことについて。

(60歳女性の弟)
「私は放心状態で、殺害された姉の安らかな寝顔に安心して涙が止まりませんでした」

男性は涙をこらえながら続けました。

(60歳女性の弟)
「裁判は残酷だなと思います。詳しい状況、姉の死にざまを教えてください」

植松被告は淡々と答えました。

(被告)
「申し訳ありませんが、細かく死にざまなどは見ていません。たぶん3回以上は刺したと思います」

(60歳女性の弟)
「私はお年寄りや子どもは助けないといけないと思いながら生活をしています。今回の事件は、ただの弱いものいじめではないかと思うのですがどうですか」

(被告)
「申し訳ありませんが、そうは思いません」

男性は質問を重ねていきます。

(60歳女性の弟)
「植松聖さん、大切な人は誰ですか」

(被告)
「大切な人…」

思わず言いよどむ被告に男性は続けます。

(60歳女性の弟)
「私は家族とか友達、仲間、身近な人が大切なのですが」

すると被告はこう答えました。

(被告)
「…大切な人はいい人です」

(60歳女性の弟)
「ほかには?」

(被告)
「ありません」

具体的な「誰か」をあげることのなかった被告、その後も言いよどむ場面がありました。

(60歳女性の弟)
「植松聖さん、自分を好きですか」
「コンプレックスが事件を起こしたのではないですか」

(被告)
「確かに……こんなことをしないで…社会…」

ことばが出てこない植松被告に男性が「ゆっくりでいいですよ」と声をかけると。

(被告)
「歌手とか野球選手とかになれるなら、事件を起こさずになっています」

(60歳女性の弟)
「野球選手と事件を起こしたことはかけ離れています」

(被告)
「なれるならそっちを選びます」

野球選手になることと45人を殺傷したことを並べる被告。男性がどう感じているのか気になって目を向けましたが、男性はその後も冷静に質問を続けていきました。

そして最後には。

(60歳女性の弟)
「最後に植松聖さん、姉を殺してどう責任を取ってくれるんですか」

(被告)
「長年育ててこられたお母さんのことを思うといたたまれなく思います」
「それでも重度障害者を育てるのは間違っていると思います」

男性は「切なくなってきたのでこれで終わります」と述べて質問を終えました。激情や怒りをぶつけることなく子どもに諭すように語りかけた姿勢からは、この3年半、どうすれば被告に言葉が届くのか悩み苦しんできた男性のせめてもの願いが込められていたように感じました。

「今、幸せですか」「幸せではありません」

続いて事件で大けがをした尾野一矢さんの父親の尾野剛志さんが法廷に立ちました。尾野さんは、被害者が匿名となる中で事件直後からずっと一矢さんの名前をだしてその生きる姿を伝えようとしてきました。

被告人質問で尾野さんは次のように問いかけました。

(尾野さん)
「あなたは重度障害者と接していて意思疎通しようと努力したことはありましたか」

被告は「あります」と即答しましたが、「どういうときですか」と追加で問われると「どういうとき…」と5回ほど繰り返しながら自問したのち、「普段から意思疎通がとれるように接していたので、『ここ』ということはありません」と述べるにとどまり、具体的には答えませんでした。

尾野さんが「意思疎通できるとは何か」と尋ねたのに対し、被告は「名前、年齢、住所を言えること」と説明しました。尾野さんは被告にこうも尋ねました。

(尾野さん)
「あなたは今、幸せですか」

(被告)
「幸せではありません」

(尾野さん)
「なぜですか」

(被告)
「面倒だからです。…いまのは失礼だな。不自由だからです」

尾野さんは諭すように「障害者の家族は悩みながら子育てをし、その中で小さな喜びを感じていました」と語りかけましたが、被告は「長年育てられた親のことを思うといたたまれません」とだけ答えました。

「意思疎通」をめぐって...

その後は裁判員や裁判官も加わりながら遺族や被害者の代理人の弁護士たちが、「意思疎通」などをめぐるやりとりを続けます。

青沼潔裁判長は施設で働き障害者と接する中で心が通じたことがなかったか尋ねました。

被告は当時を思い出したように少し笑いながらこう述べました。

(被告)
「ズボンの上にパンツを履いてしまった人がいて、『何やってんだか』と和やかだと思いました。こちらの要求を理解したり笑ってくれたりすることもありました」

(裁判長)
「要求を理解し、笑う。それが意思疎通できたということではないのですか」

(被告)
「それは人としての意思疎通がとれたとは思っていません」

被告は即座にそう返しましたが、印象的なやりとりでした。

犠牲となった43歳の男性「甲Sさん」の母親の弁護士はこう聞きました。

(甲Sさんの母親の弁護士)
「やまゆり園に勤務していたとき入所者と意思疎通をとっていたといいますが、ことば以外でどうしていたのですか」

(被告)
「例えばテレビを指さしているのでつけると喜びます」

(甲Sさんの母親の弁護士)
「それは意思疎通ではないのですか」

(被告)
「人間の意思疎通とは言えないと思います」

(甲Sさんの母親の弁護士)
「では外国などことばの通じないところであなたはどうやって意思を伝えるのですか」

(被告)
「身振り手振りです」

(甲Sさんの母親の弁護士)
「分かったんですよね、言語でなく身振り手振りで」

(被告)
「……はい」
また19歳で被告に殺害された美帆さんの母親の弁護士も聞いていきます。

(美帆さんの母親の弁護士)
「ロボットと人間の違いはどこにありますか」

(被告)
「人もロボットも大して変わらないと思います。人間は高度なロボットだと思います」

(美帆さんの母親の弁護士)
「感情はロボットにあるんですか」

(被告)
「システムを作れば」

(美帆さんの母親の弁護士)
「それを作るのは人間でしょう。名前や住所を言えなくても、心と感情があれば人間でしょう。それは人の命そのものではないのですか」

また被告が殺害の理由を「障害者に金と時間がかかっている」と主張することについてもこう問いました。

(美帆さんの母親の弁護士)
「あなたは措置入院が解除されたあと生活保護を受けていますよね。それだってお金がかかる。では死なせるべきなんですか」

(被告)
「私は社会勉強する時間のためです」

(美帆さんの母親の弁護士)
「では生活保護を申請するときに『社会勉強をするため』と言いましたか」

(被告)
「うつ病のふりをして申請しました」

植松被告はいつになく汗をかき、突然スーツの上着を脱いで椅子にかけたり、ハンカチでしきりに汗をぬぐったりしていました。

自分が殺されたら「両親は悲しむと思います」

これまで明かされてこなかった被告と両親との関わりもかいま見えました。事件の5か月ほど前、障害者を安楽死させる考えを話した際の反応については。

(被告)
「両親には『人を殺したら悲しむ人がたくさんいる』と言って止められました。『確かにな』とは思いました」

両親には大切に育てられたと言います。

(被告)
「いろいろ手をかけてくれて、塾に通わせてもらったり部活動をさせてもらったり、不自由なく生活させてもらいました。事件のあと面会に来て、自分は謝罪して親が涙を見せて、申し訳ないことをしたなと思いました。両親に対して照れくさいですが愛情はあります」

犠牲となった43歳の男性「甲Sさん」の母親は、裁判で読み上げられた調書で「生まれ変わってもまた私の子になってほしい」と述べていました。

「甲Sさん」の母親の弁護士は被告にこう聞きました。

(甲Sさんの母親の弁護士)
「あなたが殺されたら両親がどう思うか考えたことはありますか」

被告は10秒ほど沈黙したあとで「ありません」と答えました。

弁護士がさらに「いま想像したら?」と尋ねると、はっきりと「悲しむと思います」と答えました。

(甲Sさんの母親の弁護士)
「遺族の悲しみとあなたの両親の悲しみは同じですか」

(被告)
「人によっては同じだと思います」

市民から選ばれた裁判員も質問しました。

(男性の裁判員)
「事件を起こしたことで、当時考えていたような社会になったと思いますか」

少し考える被告。

(被告)
「重度障害者と共生する方向に社会が傾いたと思います」
「『やっぱりそれは無理だ』となればいいと思います」

「切ない裁判」ということば

植松被告の考えの浅さや矛盾、それを突かれ動揺も見えた被告人質問はこうして終わりました。

このあとの審理では遺族などが法廷で気持ちを述べます。60歳女性の弟として被告人質問にたち「切なくなるので」と質問を終えた男性に、後日連絡をとると「なんか気持ちが落ちてしまった。このあとの陳述もやめようかなと…」と口にしました。

しかしすぐに「いや、この週末もう一度被告に何を伝えるべきか、考えてみます」と力を込めて語りました。

何をどう伝えても大切な人は戻ってこない、被告の考えも変わらないかもしれない、それでも問い続けたい。その思いに触れ男性が言った「切ない裁判」と言うことばの意味を改めて受け止めています。