日本のGDP、どうしてこんなにぶれるの?

日本のGDP、どうしてこんなにぶれるの?
国の経済成長や景気動向をあらわす最も重要な経済統計の1つ、GDP=国内総生産。そのブレの大きさに多くの市場関係者が戸惑っています。去年12月9日に発表された去年7月から9月までのGDPの改定値。年率に換算した実質の伸び率がプラス1.8%となりました。速報段階で0.2%とかなり低い伸びにとどまっていたのが、一転して比較的高めの成長に。力強さに欠けると指摘されていた速報値はいったい何だったのか。大幅な修正が相次いでいる日本のGDPの「ブレ」の正体を調べました。(経済部記者 新井俊毅)

「何だこれは!」「またか…」

プラス0.2%からプラス1.8%へ実に1.6ポイントの上方修正となった去年7月~9月期のGDP。市場の予想を大きく上回りましたが、市場関係者は冷めた目で見ていたといいます。

ある外資系金融機関のアナリストは、「数字を見た時に、思わず『何だこれは!』とうなってしまった。速報値をもとに日本経済の弱さを強調したのにこれが覆ることになってしまった」と恨み節を吐いていました。

また、別のアナリストは、「日本のGDPが大きくブレることは珍しいことではない。『あ、またか』という感じだった」と淡々と語りました。

実際、この日の東京株式市場ではGDPの上方修正は取り引きの大きな材料とはならず、株価は小幅な上昇にとどまりました。「ブレ」が珍しくない日本のGDP。

2015年の7月~9月期、2012年の10月~12月期のように速報値の段階でマイナス成長だったのが改定値でプラス成長に転じたこともあります。

ブレの原因は?

そもそもブレの原因はどこにあるのか。去年7月~9月期のGDPの速報値が公表されたのが去年11月14日。改定値が出たのは25日後の12月9日です。

この間に何があったのでしょうか?

今回、ブレの要因と指摘されているのが、GDPの15%から20%程度を占める内需の柱、「設備投資」です。本来、設備投資の基礎データとなるのは財務省の「法人企業統計調査」です。

しかし、GDPの速報値が公表されるのは、この調査がまとまる2週間ほど前です。このため内閣府は、速報値の段階では、経済産業省が発表している生産動態統計や鉱工業生産指数といった統計をもとに、法人企業統計の数字を仮置きし、これらの数字を組み合わせて設備投資の推計値を出します。

一方、改定値では、法人企業統計の実績値が使えるようになりますが、ここで速報値で仮置きした数字とのかい離が大きいと、GDP全体にもブレが生じることになるのです。

実際、去年7月~9月期のGDP速報値で、設備投資の伸びは、年率プラス3.5%でしたが、改定値ではプラス7.3%の大幅な改善となり、これがブレの元になっていました。

他の国と比較しても日本のブレは大きい

それでは他の国と比べて日本のGDPはどのくらいブレているのでしょうか?

各国のGDPを調べている、あるアナリストは「どの国でもGDPにはブレがつきものだが、アメリカの場合は、ブレの幅は大きいときでも0.5ポイントから0.6ポイント程度だ。日本の場合は、各国との比較で見ても明らかに大きく、『日本のGDPはブレる』というのが世界的にも共通認識になっている」と話します。
・日本 約45日
・アメリカ 約30日
・ドイツ 約45日
・フランス 約30日
・イギリス 約40日
・カナダ 約60日(※イギリスとカナダは月次GDPを発表)
・中国 約15日-20日
ここまで話すと、信頼できる統計が出そろってから手堅く速報値を出せばよいのではないかと考える人もいると思います。しかし、四半期が終わってから速報値を発表するまでにどのくらいの期間がかかるのか調べると、日本は他の国と比べても、遅い部類に入る、ということがわかります。

GDPの質的な改善を

もちろん必要な統計が出そろうのを待てば、ブレは少なくなりますが、そもそもGDPは直近の四半期の経済の状態を示すもので、早く発表することに意味があるとも言えます。

このため政府は、GDPの速報値を算出する段階で、法人企業統計を使うことができないか検討しています。具体的には、この統計から設備投資など一部の項目を抜き出して、企業により早く回答してもらうという方法を今年度から取り入れています。

今回は試験的な調査だとして、まだGDPの推計には反映されていませんが、どのくらいブレの幅を小さくできるのかを検証し、2022年度までのできるだけ早い時期に結論を出すとしています。

一方で、法人企業統計や家計調査といった海外に例をみない需要側(消費や投資をする側)の統計を重視していること自体がブレの要因となっているという見方もあります。
これらの調査は、少ないサンプルをもとに全体の傾向をつかもうとするものですが、他の国と同じようにカバー対象が広い供給側(生産する側)の統計をベースにGDPを算出すべきだという指摘です。

日銀で経済統計課長などを務め、総務省で統計に関する専門家会議のメンバーも務めた、ソニーフィナンシャルホールディングスの菅野雅明チーフエコノミストは次のように指摘します。
菅野雅明氏
「内閣府をはじめ、政府がGDPの質の改善に取り組んでいることは評価している。ただ、枝葉の修正を繰り返しても、抜本的な改革にはならず、今後も数字が大きくブレる可能性がある。日本には、各省庁が政策に必要なデータをとるために統計を作成してきたという歴史があるが、今後は『GDPをつくるためにどういう統計にすべきか』という視点を持って、特に供給側の統計を充実させるなど質の改善を進めるべきだ」
他の国と比較して発表が比較的遅く、ブレが大きな日本のGDP。基幹統計としての信頼を高めるには、基礎データとなる統計の質を改善することが喫緊の課題となっています。

GDPの精度を高めて、日本経済の姿を正確に映し出し、経済政策などに反映していくことが求められると思います。
経済部記者
新井 俊毅
平成17年入局
北見局・札幌局を経て経済部
現在、デジタル経済や統計問題・防災など幅広い分野を取材