「素直に帰国喜べない」武漢から帰国 女子大学生の複雑な心境

「素直に帰国喜べない」武漢から帰国 女子大学生の複雑な心境
中国で新型コロナウイルスの感染が拡大する中、留学先の武漢から日本政府のチャーター機で帰国した女子大学生がNHKの取材に応じました。現在は政府が用意した宿泊施設に滞在していて、部屋にほぼ閉じこもった生活を送っているとしたうえで、「私だけが武漢を出る申し訳なさと、日本の方々に不安を与えるという心配があり素直に帰国を喜べない」と心境を語りました。

部屋に閉じこもった生活

中国語の勉強のため武漢の大学に留学中の20代の女子大学生は、日本政府のチャーター機の第2便で先月30日に帰国しました。発熱などの症状はみられませんでしたが、経過観察のため、埼玉県和光市にある政府の宿泊施設に滞在しています。

大学生によりますと、宿泊している部屋はホテルと同様の設備が整っていて、部屋の扉にかける形で、1日3食の弁当が支給されています。また着替えなどは各フロアに備え付けの洗濯機で自分で洗濯しているということです。

ただ、フロア以外に移動することは禁じられていて、大学生はほぼ部屋に閉じこもった生活を送っているとしたうえで、「ずっと動かないでいると気分が悪くなるので、家族と連絡を取ったり、部屋の掃除をしたりして過ごしている。生活物資に困ってはいないが、普通に人と交流したいというのが、今の思いです」と話しています。

「素直に帰国を喜べない」

今回の帰国について大学生は「武漢にいる時からSNSで日本の状況を確認していたが、チャーター機で私たちが帰国することになってからは『感染拡大の可能性を考えて、帰らせるべきではないのでは』という意見を目にし、帰ったら周りの人から何か言われるのではないかという怖さがあった」と話しています。

そして「武漢から出たくても出られない、地元でお世話になった中国の人たちがいる中で、私だけが帰国するという申し訳なさと、私たちが帰国することで日本の方々に不安を与えるのではないかという心配があり、素直に帰国を喜べない」と複雑な心境を明かしました。

「武漢の現状に心を痛めている」

一方、帰国までの武漢での生活について、街が事実上の封鎖状態にあったため生活物資や食べ物を買うため、営業を続けている大型スーパーまで、片道2時間かけて歩いたことや、物価が急激に高騰し、1時間に1回ほどしか見かけなくなったタクシーの料金は通常の10倍になっていたとしています。

チャーター機で帰国する際、大学生は、日本大使館から深夜1時の集合時間に集まるようおよそ4時間前に伝えられたため、急きょ、中国人の知り合いに頼んで車で40分かけて移動したということです。ほかの帰国者の中には、集合場所まで2時間歩いたという人もいたということです。

大学生は現在の武漢の状況について「知り合いの中国人たちが買い物にも行けない現状に心を痛めている。食べ物や足りない物資など、たくさん送ることはできないが、少しでも力になれる分を送って支援することが、今1番やりたいことです」と話しています。

「もう少し早く予防していたら…」

一方で、「12月末ごろ、日本にいる親や友人から原因不明の肺炎が武漢で発生していると聞いて、私もマスクを着け始め、周りの中国人にも予防を呼びかけたが、『日本が大げさだよ』と耳を貸さず、当初はマスクを着ける人はほとんどいなかった。中国政府が情報を出さないかぎり、中国の人はほかの情報をあまり信用しないと思った。もう少し早く、みんなが予防していたら、事態は変わったのではないか」と話しています。