やっかい者のウニを狙い撃ち! 海の“掃除機”とは?

やっかい者のウニを狙い撃ち! 海の“掃除機”とは?
世界で深刻になっている地球温暖化の影響は、私たちの食卓にも及ぼうとしています。国連がまとめた報告書では、温暖化によって海洋環境が変化することで2100年までに世界の海でとれる魚の量が最大で20%以上減少する可能性があるとしています。多様な魚介が生息する三陸の海でも、ある異変が起きています。(仙台放送局記者 高垣祐郷)

あの高級食材が不漁に

冬の東北、三陸の沿岸でこの時期に盛んなアワビ漁。漁師たちは水中を観察する「箱めがね」と、先に爪状の金属がついた「かぎ」を使って漁を行います。

アワビは1つ1000円以上で取り引きされる高級食材です。しかし漁師は「漁の条件は悪くないのに全然とれない」と訴えます。
宮城県のアワビの漁獲量は、この10年で3分の1ほどに落ち込みました。長引く不漁が漁師の生活にも影響を及ぼしています。

なぜ不漁?原因は海藻の減少

なぜアワビが不漁になっているのか。海の環境に詳しい東北大学の吾妻行雄教授は、三陸の海でも海水温の上昇が進んでいると指摘しました。

気象庁によると、この100年間で、日本近海の海面水温は平均で1.12℃上昇、三陸の海でも0.74℃上昇しているというのです。

あまり大きくないように感じるかもしれませんが、吾妻教授は「コンブなどの海藻は、1度近く水温が上がるだけで分布域が変わってくる」と指摘します。
上の2枚の写真を見比べてください。左側の画像では、海藻がたくさん繁っているのが確認できます。こうした環境でアワビはよく育つといいます。

しかし右側の画像には、海藻がほとんどなく、岩がむき出しになっています。海水温が上昇し、海藻が育たなくなったためとみられています。

環境省が航空写真をもとに宮城県の海を分析したところ、平成20年におよそ2200ヘクタールあった海藻が豊かな海域が、平成27年にはおよそ1700ヘクタールと、4分の3ほどに縮小しています。

増えすぎたウニも悩みの種

海藻の減少を加速させるもう1つの原因、それはウニです。下は、海藻が育たない海を拡大した画像です。
黒いものがたくさんあるのが確認できます。黄色い丸で囲ったこれらがすべてウニです。

なぜウニが増えているのか?

吾妻教授によると、平成23年の東日本大震災のあと、漁ができない期間が続いたため、ウニが大量に発生したということです。この増えすぎたウニが、餌となる海藻を食べ尽くしているため、海藻が激減しているというのです。
吾妻教授
「海藻がないエリアのウニは、十分に食べていないので身が少なく、漁師もとろうとしない。ウニを減らす仕組みを考えないと豊かな海を取り戻すことは難しい」

先端技術で豊かな海を取り戻せ

海の環境悪化を食い止めることはできないのか。取材を進めると、農林水産省による復興事業で、ウニを効率的に捕獲するロボットの研究が進められているという情報をつかみました。

早速ホームページで調べてみると、カラフルな機体のイメージ図が掲載されていました。開発を担当している東京海洋大学を訪ねると「研究途中のロボットなので、現時点では公開できない」といったんは断られました。

しかし粘り強く交渉を続けた結果、ついに取材と撮影が許されました。
こちらがそのロボットです。東京海洋大学の田原淳一郎准教授が開発を進めています。高さは50センチほどで、市販されている水中ドローンに改良を加えたものです。

機体にはポンプがつけられていて、正面の吸い込み口からウニを吸い込み、ホースを通じて船上に運ぶ仕組みです。
ロボットの正面には、カメラが取り付けられています。ウニを捕獲するのに細かい動きも必要なことから、通常のプロペラに加え、独自のプロペラも取り付けられています。

田原准教授は「潮の流れがある海中でもうまく動くよう工夫しなければいけなかった」と2年がかりの開発の苦労を語っていました。

いざ海中へ!

このロボットでウニが捕獲できるのか。去年12月、南三陸町で実証実験が行われました。
船上にいる人がカメラの映像を見ながらロボットを操作します。機体は深さ150メートルの水圧にも耐えられる仕様になっていて、ダイバーが潜れない深さにあるウニの捕獲を目指し、海中を進みます。
ロボットには、AI=人工知能が搭載されています。
こちらはロボットに取り付けたカメラが撮影した映像です。

AIがウニを瞬時に認識し、赤い枠で囲んで知らせてくれます。AIにおよそ1万枚の画像を読み込ませ、ウニの特徴を学習させました。当初は岩や影をウニと誤って認識することもありましたが、今では9割の精度でウニを認識できるようになったといいます。

操縦者がロボットの吸い込み口を近づけると、ウニは次々と吸い込まれていきます。潮の流れが穏やかなときは、1時間で150個以上のウニがとれるということです。

商用化を目指す

ロボットの操作は今のところ人の手で行われていますが、将来的にはロボット掃除機のように自動で捕獲できるようにすることを目指しています。

機体に超音波の距離計をつけ、ウニとの距離を測れるようにすることで、ロボットが自動的にウニに向かうよう開発を進めていて、機械メーカーと組んで漁業関係者に販売することを計画しています。
田原准教授
「気候変動が進む中であっても、藻場を回復させて豊かな海を戻すことに貢献できると信じている。人間を助ける存在として広まってほしい」
気候変動の影響は日本の海でも確実に起きています。最新のテクノロジーでその進行を少しでも食い止めることができるのか、研究者たちの取り組みから今後も目が離せません。
仙台放送局記者
高垣祐郷
平成26年入局
山口局、秋田局を経て現在、仙台局で経済取材