新型肺炎 ウイルス分離でワクチンや治療薬開発などに期待

新型肺炎 ウイルス分離でワクチンや治療薬開発などに期待
新型コロナウイルスそのものを分離して培養することに国立感染症研究所が成功したことで期待されるのは、迅速な診断を行うための検査キット、事前に接種しておくことで感染を防ぐワクチン、それに治療薬の開発です。

迅速診断キットの開発

このうち、検査キットについては、現在、早くても6時間程度とされるウイルスに感染しているか確認するための検査にかかる時間を大幅に短縮し、インフルエンザの迅速診断キットのように数分で結果が出るような形にできるようになると期待されています。

ワクチンの開発

次に、ワクチンの開発です。

ワクチンを作るにはウイルスが欠かせません。

ワクチンの開発では、毒性を弱めたり、なくしたりしたウイルスに、免疫を十分に活性化し、感染を防ぐ効果があるかどうか調べます。

そして、有効であると分かれば、実際に人に投与する臨床試験を行って、効果や安全性を確かめます。

ただ、国立感染症研究所は通常の場合、ワクチンが開発されるまでには「年単位の時間がかかる」としています。

実際に、同じコロナウイルスによる感染症で、2003年に中国やアジア各地を中心に感染が拡大したSARSや、中東を中心に感染が続く、重い肺炎を引き起こすMERSでもワクチンは完成していません。

一方、2009年に当時、新型とされたインフルエンザが流行した際にはアメリカなどで分離されたウイルスを輸入し、その2か月後には国内でワクチンの製造が始まりました。

しかし、インフルエンザでは毎年製造されるワクチンとウイルスの型が異なるだけで、最初の段階から開発を始める必要がないのに対して、全く新しいウイルスである、今回の新型コロナウイルスでは時間がかかるとみられます。

こうした中、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所は、新型コロナウイルスのワクチンの開発を進めていることを明らかにし、研究所のアンソニー・ファウチ所長は、先月28日の記者会見で「3か月以内にワクチンの効果や安全性を確かめるための臨床試験を始める」と述べました。

さらに、WHOは、MERSの対策として開発を進めているワクチンなどが新型コロナウイルスにも効果がないか探っていくとしていますが、実際に使えるようになるには、一定の時間がかかると見られています。

治療薬の開発

そして、治療薬の開発にもウイルスが役に立ちます。

分離・培養した新型コロナウイルスを感染させた細胞に、これまでに使われている薬や、化合物をかけて効果があるかどうか調べ、有効だと分かれば、実際に人に投与して安全性や有効性を確かめる臨床試験を行うことになります。

これまでに、エイズの発症を防ぐために使われている薬が同じコロナウイルスのSARSの治療に効果があったという報告があるということで、中国・北京市の保健当局は複数の病院で肺炎の患者の状態に応じて、この薬を投与する考えを示しているということです。

治療は

分離されたウイルスは今後、検査や治療、そして予防に役立つと期待されていますが、実現までにはまだ、時間がかかるとみられます。

新型コロナウイルスは現時点でワクチンや特効薬はなく、酸素吸入や、脱水の際の点滴など「対症療法」で対応しています。

国立感染症研究所によりますと、こうした治療を行っている間に患者自身が免疫を獲得してウイルスが排出されるのを待つということで、実際に多くの人が回復しています。

専門家 治療薬やワクチン開発への大きな一歩

感染症の問題に詳しい長崎大学熱帯医学研究所の森田公一所長は、国立感染症研究所が新型コロナウイルスの分離・培養に成功したことは、今後、治療薬やワクチンの開発を行ううえで大きな一歩だとしています。

森田教授によりますと、治療薬やワクチンの開発は、すでに、別の病気の治療で使われている薬に効果があるかどうか確かめる方法と、全く新しい薬やワクチンを最初から開発する方法が考えられるとしています。

今回のコロナウイルスはSARSのウイルスと似ているため、過去の研究が参考になる可能性もあるということですが、全く新しい薬やワクチンを開発する場合、一般的に10年ほどの期間がかかるということです。

森田所長は「致死率が高いエボラ出血熱がアフリカで広がった際に、ワクチンの開発や感染のおそれがある人への投与を緊急に短期間で行った例はある。今回の新型コロナウイルスについて、どの程度、緊急にワクチンの開発を進めるかは感染率や致死率などの状況の推移を注視したうえで決めることになるだろう」と話しています。