賃金、働き方どう変わる? ~春闘 100社アンケートから~

賃金、働き方どう変わる? ~春闘 100社アンケートから~
賃金引き上げの勢いは維持できるのか。NHKでは、ことしの春闘を前に、1月、主要企業100社を対象にアンケートを実施しました。その結果を手がかりに、事実上スタートした春闘の行方を探ります。(経済部記者 池川陽介)

「ベア」検討は6社

NHKでは、今月9日から23日にかけて、製造業や小売など国内の主要な企業100社を対象に、賃金や景気、それに雇用などについてアンケートを行い、すべての会社から回答を得ました。

まず春闘の最大の焦点となる賃上げに対する考え方から見ていきます。その結果がこちらです。
賃上げの勢いが続くかどうか見るうえで、まず注目したのは「ベア」への対応です。「ベア」は「ベースアップ」の略で、給料のベース、つまり基本給を引き上げることです。年齢や勤続年数に応じて給料が上がる「定期昇給」とは違い、ベアは給与水準そのものの引き上げで、これに連動してボーナスや手当も上がります。

結果は、従業員の基本給を一律で引き上げるベアは6社。対象の企業が一部異なるため単純に比較はできませんが、去年の半分になりました。子育て世代など特定の層に限ったベアも、去年を下回りました。

ことしの春闘で、連合は「ベア」に相当する分として、2%程度の賃上げを要求する方針ですが、アンケートの結果からは、ベアに対して企業側は慎重になっている様子がうかがえます。

景況感、横ばいが最多

背景にあるのは、景気の先行きに対する不透明感です。
このうち、東京オリンピック後の国内景気について、「横ばい」と「緩やかに悪化」と答えた企業に理由を複数回答で尋ねたところ「個人消費の伸び悩み」が最も多く、「オリンピックの経済効果がなくなること」や「アメリカと中国の貿易摩擦の長期化」を懸念する回答も目立ちました。

さらに足元では、新型コロナウイルスの感染拡大で、経済に悪影響が出る懸念も強まっており、景気の先行きに不透明感が増す中、賃上げに慎重になっている企業の姿勢がうかがえます。

“日本型雇用”企業の考えは

ことしの春闘で、経団連は新卒一括採用や年功型賃金など、日本型の雇用システムの見直しについても打ち出しています。これについての企業の考えを聞きました。
年功型賃金を「見直す必要あり」としたのは、45社だった一方、新卒一括採用を「見直した」「検討する」は合わせて19社。終身雇用を「見直すべき」は27社で、年功序列型の賃金に比べて、「見直す」という回答は少なくなっています。

拙速な見直しには慎重?

年功型賃金に比べ、終身雇用と新卒一括採用については、見直すかどうか慎重に対応しようという企業の姿勢がうかがえますが、なぜでしょうか。

実は、年功型賃金の見直しは、大手企業の間では10年ほど前から徐々に進んでいます。能力が高くても、若いという理由で賃金が抑えられると、世界での人材獲得競争で不利になってしまうばかりか、優秀な若い人材が海外や外資系の企業に流出してしまう危機感があるからです。

一方、新卒一括採用や終身雇用は、企業にとって従業員を計画的に採用し、長い時間をかけて育成することができ、そのことが高い品質の生産を支えてきた面もあります。従業員にとっても、雇用や生活の安心感につながり、人生設計を描きやすく、労使双方にメリットがある日本型雇用を評価する意見も少なくないのです。こうしたことから、慎重に対応したいという企業の姿勢につながっているとみられます。

これについて、雇用問題などに詳しい日本総合研究所の山田久主席研究員はこう指摘しています。
山田久主席研究員
「日本企業の従業員は長く雇用をしてもらうことで、競争力がある高品質の製品を生産してきた。こうした日本型雇用のいいところが改めて評価されながらも、成果主義型の雇用体系も増えていくと見られ、2つの仕組みが共存する形になっていくのではないか」

かわる春闘の形

今回の春闘では、連合があくまで一律のベアにこだわる姿勢ですが、組合側の対応に注目すべき動きも出ています。
一般的に組合の交渉では、ベアは一律の引き上げが基本でしたが、トヨタの労働組合は一律のベアではなく、人事評価に応じて差をつける新たな方法を提案すると明らかにしたのです。自動運転や電動化など、競争が激しい自動車業界の現状を踏まえた対応ですが、こうした新たな動きが広がるかどうかも注目されています。

今回の春闘は、賃金の水準はもとより、新たな時代の雇用制度や春闘そのものの在り方などについても、労使の間でとことん議論を深めてほしいと思います。
経済部記者
池川陽介