本気ですか?環境対策 ダボス会議で見た世界の現実

本気ですか?環境対策 ダボス会議で見た世界の現実
スイス東部のリゾート地に、世界の政財界のリーダーが集まり、世界の課題を話し合う毎年恒例の「ダボス会議」。ことしの最大のテーマは環境問題でした。 「環境問題への対応をおろそかにしている企業は、消費者からも投資家からも見放される時代になった」 現地で大きなうねりを感じました。(経済部記者 梶原佐里)

ダボスにこだまする声

ダボスは雪を身にまとった山並みに囲まれる美しい街でした。
現地に着き、その景色に圧倒されていると、地元の人が、「ことしはずっと雪が少ないんだよ」と教えてくれました。「地球温暖化のせいかもしれないね」と。
会場の雰囲気を象徴する存在が、スウェーデンで環境活動を始め、世界の若者に大きな影響を与えるグレタ・トゥーンベリさん。アメリカのトランプ大統領が現地で、森林保護プロジェクトへの参加を表明した直後、彼女はスピーチでこう訴えました。
グレタ・トゥーンベリさん
「『子どもは心配するな、悲観的になるな』と言うけれど何もしていない。空っぽなことばと約束で、十分な対策がなされたという印象を与えている」「木を植えるだけでは足りない。企業や銀行、政府に対して、化石燃料への投資をやめるよう求めたい」
具体的な地球温暖化対策を、いますぐ求める若者たちの声が会場周辺にあふれていました。

会場が環境志向に

ダボス会議の会場内も、はっきりと環境志向を強めていました。
例えば、会場の大きな窓。去年は一面、壁だったそうですが、消費電力を減らすため、窓を作り自然の光を採り入れるようにしました。

会場内の移動は電気自動車やハイブリッド車。食べ物、飲み物は、ガラスの容器や瓶で提供し、脱プラスチックをアピールしていました。

金融ルールさえ環境に・・

世界の環境志向はここまで進んでいるのか・・。脱炭素をテーマとしたセッションでも変化を目の当たりにしました。

自然保護を訴えるNGOの幹部らとともに登壇した、イギリスの中央銀行・イングランド銀行のカーニー総裁の発言です。金融機関への規制や監督に、環境の目線を取り入れる方針を鮮明にしたのです。
「イングランド銀行は、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする取り組みで、国内の銀行にストレステストを行う。『脱炭素への転換が起こる時に正しい側にいますか?』『もし間違った側にいるなら、あなたはどう対応するつもりですか?』と問いが投げかけられることになる」
総裁が言及した「ストレステスト」。民間銀行の経営が健全かどうかをチェックするテストです。「景気の悪化」などで融資が焦げ付いても大丈夫かを調べるのが主な狙いです。
イギリスの中央銀行は、これに加え、融資先の企業が「環境リスク」に対応できているのかチェックリストに加えようとしています。
実施されれば企業は銀行から環境規制への対応を強く迫られます。不十分ならば融資や投資を受けられなくなる可能性があります。「それが本当に中央銀行の役割なのか」という指摘もありますが、金融当局すら環境志向になっています。

事業に必要な資金を集められない事態は、企業にとっては死活問題。金融が環境対策を迫る力を持ちつつあることを示すセッションでした。

世界のスピードに、日本企業は

環境に大きく舵を切った今回の会議で私たちが追いかけたのは、サントリーホールディングスの新浪剛史社長です。これまで10回以上ダボス会議に参加している常連ですが、海洋プラスチック問題で、飲料メーカーには、厳しい目が向けられています。一年前とは様変わりした会場の雰囲気、急展開する議論に、新浪社長も多少驚いていたようです。
サントリーは、環境対応を率先して進めていると自負しています。例えば、使用済みペットボトルから「再生ペットボトル」をつくる取り組み。工程を大幅にカットできる最新の技術で、従来と比べCO2を25%、削減することができます。10年後の2030年までに、すべてのペットボトルを再生素材などにする方針です。

今回の会議で、取り組みを世界に説明するのが、目的のひとつでした。
その新浪社長が最大のミッションとして臨んだのが「プラスチックの削減」をテーマにしたセッションです。アメリカのゴア元副大統領も登壇し、注目を集めました。
新浪剛史社長
「われわれはペットボトルをリサイクルできる。今のところ、あらゆる観点から見て、再生ペットボトルが最良の解決(策)だ」
新浪社長はペットボトルのリサイクル加速で、環境対策への責任を果たしていくと強調しました。

しかし一緒に登壇したインドネシアで脱プラスチックに取り組む環境NGO代表の少女からは厳しい指摘もありました。
「スーパーマーケットの棚に何を並べるか、決めるのは私たちです。市民の力で変えていくのです」
この発言に、会場から大きな拍手が起きました。サントリーはもちろん、すべての企業に、いっそうの対応を迫る18歳のまなざしが、印象的でした。

日本の対応は、世界に届いているか

1時間の激しい議論を終えた新浪社長は、やりとりをこう振り返りました。世界の声を真摯に受け止め、自らの取り組みを丁寧に説明していく重要性をかみしめていました。
新浪剛史社長
「プラスチックに対する批判が思った以上に強かった。ただ日本企業にも強い部分があり、世界に貢献できる。そういう話をもっとしていかなければ。われわれとしてやれることをきちっと伝えていくことが必要だ」
ほかの日本の経営者も環境への意識を強めていました。
富士通 時田隆仁社長
「環境への取り組みがどう事業の成長に直結しているかきちんとトラック(追跡)している企業がたくさんあって参考になった。そういう取り組みがさらに必要だ」
三菱UFJフィナンシャル・グループ 亀澤宏規副社長
「特に若い世代の人たちが環境問題にかなり意識を高く持っている人が多い。我々としても環境は1つの軸になっていくと思っており、積極的に取り組みたい」

取材を終えて

環境への貢献では日本にアピールできる部分もあるはずなのに、ダボスでの存在感は思った以上に低かった、というのが率直な取材実感です。

環境対策が不十分だと評価されたら、消費者から見放され、事業に必要な資金さえ集められなくなる。そんな現実に、日本企業がさらに一歩先をいく対策を取り、環境規制をめぐる世界の議論に積極的に飛び込んでいって欲しいと思いました。
経済部記者
梶原佐里

平成22年入局
徳島局・大阪局を経て経済産業省などを担当
現在は日銀・金融を取材