英語ができなきゃ始まらない!?

英語ができなきゃ始まらない!?
「グローバル化」「グローバル人材」ということばを毎日のように見聞きする今、子どもの英語力を早めに身につけさせる動きが広がっています。この4月から小学校高学年では英語が「教科」になり、大学入試でも英語の「話す」「書く」などの4つの技能を測定する民間検定試験の導入をめぐり、大きな議論が起こっています。「使える英語力」とは何なのでしょうか…。
(国際部記者 伊藤麗)

“英語コンプレックス”

私、伊藤はおととし、英語で取材する部署に移ってから、日常的に英語を使うようになりました。来日した海外の要人に英語でインタビューし、各国の大使館の人たちと英語で意見交換することも多く、「ああ、もっと英語ができたら」と何度も思います。早くから英語を勉強していたら、私も流ちょうに話せたのだろうか。

そんな中、ある取材先から小学校で英語教育が進んでいることもあって、最近では親子や低年齢での海外留学に関心が集まっていると聞いて関心を持ち、取材を始めました。

0歳からの英語教育

英語力を身につけるにはどうしたらいいのか?近年では幼いころから英語に慣れ親しむほうが英語がより身につくと、“英語のみで過ごす保育園”が人気と聞き、大阪のある保育園を訪れました。
年少のクラスでは英語で歌ったり、ゲームをしたりして、英語の「音」に触れていました。最初は聞いているだけの園児も徐々に音を認識してまねるようになるそうです。

そして年長にもなると、先生の問いかけに英語で返答し、クラスメイトとのおしゃべりもすべて英語でした。
この保育園に2人の子どもを通わせている日野さん一家です。6歳の蒼大くんと4歳の大晴くんは、生後6か月から日中は英語しか使わない生活を送っています。
母親 日野紀子さん
「私自身、英語への憧れがありました。子どもたちが小さかったころは英語でしか知らないことばも多かったです。『animal』と言われても、子どもたちの発音がよすぎて『エニモー』って何?って。『アニマル』のことだとわかって、『日本語では動物というんだよ』と教えていきました」

留学“新時代”

海外で生活することで、英語力を身につけたいと日本を飛び出し、海外留学に踏み出す子どもたちも増えているそうです。

留学フェアなどを取材すると、小学生や中学生の親子連れの姿が多いことに驚きました。人気の留学先の1つ、ニュージーランドでも、親子で留学するケースが増えています。
留学エージェント kiki Communications 奥村優子さん
「ここ2年くらいで問い合わせが増えています。今の親世代では、留学が一般的になっていて、身軽な感じで来る人もいます。自分が留学できなかったから、子どもと一緒に経験したいという人もいます」

幼い留学生たちの生活は…

では幼い留学生たちはいったい、どんな生活を送っているのでしょうか。

ニュージーランドで去年10月から留学している小学2年生の蒼空ちゃん。留学のきっかけは幼いころから興味があった「キノコ」でした。英語で書かれたキノコの専門書を読めるようになりたいと、英語を勉強したいと思ったそうです。
当初は英語がほとんど話せませんでしたが、聞き取りは慣れてきたといいます。現地の小学校は唯一の日本人留学生である蒼空ちゃんが学校になじめるようにと、日本の文化をみんなで学ぶ授業を行うなどしたそうです。
蒼空ちゃん
「不安はあったけど、頑張っていけば楽しめるかなと思いました。クラスの女の子とは全員友達。でも英語で難しいことを言われると、焦って疲れちゃいます」
蒼空ちゃんは母親と一緒に留学しています。ニュージーランドでは10歳以上であれば、現地に保護者代わりを見つければ1人でも留学できますが、蒼空ちゃんの年齢の場合、親が同伴することが求められているためです。

父親は日本に残って留学生活を支えています。今回は半年間の留学ですが、将来また海外で英語を勉強し、キノコ研究の道に進みたいという目標も見えてきたそうです。

「英語で」勉強する

これまで留学とは「英語を学ぶ」ことだと思っていました。しかし取材を進めていくと、留学とは「英語でさまざまな教科を学ぶ」こと、そしていかに自立した生活を送れるようになるかなのだと感じるようになりました。
そう考えるきっかけになったのが首都・ウェリントンの女子校で学ぶ永野萌さん(高1)を取材したことでした。

中学3年生の時に留学した永野さん。授業ではグループで議論したり、自分の意見を発表したりする場面も多く、英語に対する自信をなくしたこともあったといいます。
永野萌さん
「自分の第一言語じゃないことばで意見を言うのは難しく、何で言いたいことが言えないんだろうと泣いたこともありました。友達作りで苦労して、学校に行くのが嫌なときもありました」
永野さんは毎日必ず、自主的に英語の勉強をし、英語で日記をつけてはホストファミリーに添削してもらっていました。授業や生活の相談も積極的にしていました。
永野萌さん
「現地にいると英語に触れる機会は多いけど、自分で勉強しようと思わないかぎり、上達することはないと思いました。英語ができるだけでなく、積極的に友達とも関わっていかないと楽しく過ごせないと思います」

母語と英語のバランス

低年齢での海外留学に対してはさまざまな考え方があります。

留学することで多様な価値観や自立心を育むことができるなど、英語の習得以外にも得られる経験があります。

一方、日本に住みながら英語教育を受けるのとは違い、長期間留学をして、日常生活まで英語になることは母語の形成に影響を与えるとの指摘もあります。
ニュージーランドで日本語による学習塾で教えている山口たくさんは日本語の維持や帰国後の日本での勉強に不安を抱える留学生も指導しています。

山口さんは母語が確立しないままに英語を学ぶことで、母語も英語もどちらも年齢相応のレベルに達していない「セミリンガル」になる可能性もあると懸念しています。
Terra International Education Services.JNZ 山口たくさん
「発音はよくなるかもしれませんが、話している内容は伴っていないこともあります。日本に帰って日本人として生きるのであれば、母語である日本語をしっかりキープしつつ、英語を身につけるほうがいいのではないかと思います」
また立命館大学大学院・言語教育情報研究科の田浦秀幸教授は日本人の子どもが英語圏の現地校で英語による教育を受けた場合、英語の習得には日常会話レベルで2年、学校での学習に必要な英語力の習得には7~9年かかるとの研究結果もあり、日本語と英語のバイリンガルになれるのはわずかだと指摘しています。

英語教育の理由をひもとくと…

「なぜ子どもに英語を学ばせているのですか?」と何度も保護者に問いかけるうちに、なぜ日本では英語に対する期待が大きいのかと考えるようになりました。

保護者の英語ができないことへの後悔、受験や就職で有利になるのではないかという思い…早期の英語教育が正しかったのかなどと悩む保護者の姿も印象的で、子どもの将来を思う親の切実な思いが根底にありました。

一方、「グローバル化」とか「グローバル人材」ということばが盛んに言われ、英語の必要性に迫られているような雰囲気も感じます。

その背景に何があるのか、英語教育の専門家に聞いてみました。
上智大学 吉田研作 言語教育研究センター長
「英語を使うことよりも、英語の文法などの『知識』が重要視されすぎている。また英語以外にもさまざまな言語があるにもかかわらず、ほとんど学ばれてないことがある」
慶應義塾大学 大津由紀雄名誉教授
「わが子には自分の二の舞をさせたくないという気持ちに加え、マスコミや口コミで『英語ができなきゃ!』というメッセージが繰り返されて思いが増幅している」
立教大学 鳥飼玖美子名誉教授
「日本人特有の英語コンプレックスから、子どもにはぺらぺらになってほしいという願望が強い。また自分が小さいときに英語をやらなかったから、子どもには早くから学ばせれば話せるようになると思い込んでいる。しかし、日本語と英語の距離を考えれば、簡単に英語を使えるようにはならないうえ、子どもの英語では仕事に使えないということに思いが至らない」
母語が英語ではなく、流ちょうではなくても堂々と話す人たちと接するとき、「コミュニケーションとはこういうことなのか」と思うときがあります。なぜ英語を学ぶのか、そして英語を学んで何を目指すのか、親と子どもがじっくり考えてみる必要があるように感じました。
国際部記者
伊藤麗