その情報、信じますか? 広がる新型肺炎

その情報、信じますか? 広がる新型肺炎
中国で新型のコロナウイルスによる感染が拡大し、中国国内では患者数は4000人に達し、死者は100人を超えた。急速な感染の拡大とともに、インターネット上では真偽がよく分からない「不確かな情報」が広がっている。事実と異なる当局の動き、うその感染者情報、医学的根拠がはっきりしないウイルス対策…。どんな情報が出回り、どう対応すればよいのか、取材した。(国際部 曽我太一 中村源太/ネットワーク報道部 斉藤直哉 秋元宏美)

武漢の街に人民解放軍!?

WHO=世界保健機関が「緊急事態」の宣言をするかどうか、緊迫する会合を続けていた今月23日。東京・渋谷のNHKニュースセンターでも、新型ウイルスの感染がどのように拡大するのか、アンテナを高く張り、緊張感が高まっていた。

そのとき、NHKソーシャルメディア上の情報をキャッチ・検証する専門チーム『SoLT』から、私たちのもとに連絡が入った。

「中国の武漢で、人民解放軍が出動したそうです」

くしくもこの日は、中国政府が各地から武漢に向かうバスなどの運行を停止させると発表した日。この対応に軍が出動したとなれば現地で緊迫感が高まっている証として大きなニュースだ。

ツイッターには、列車内で迷彩服姿に身を包んだ男性たちが盾を持って並んでいる動画とともに以下の文章が投稿されていた。
「武警」とは武装警察のこと。軍隊が出動していたわけではないことは分かったが、この情報をそのまま報道するわけにはいかない。私たちは出どころを探った。

動画を分析すると、鉄道の路線図が写り込んでいた。「Y」の字を横に倒したような路線は武漢の鉄道網にはない。おかしいぞ。さらに、車内を彩る紫色のポスターには世界的に有名な2つ耳のネズミのキャラクターが描いてあるように見える。
そこで、私たちは中国版ツイッター、ウェイボーを調べた。すると、ツイッターと同じようなコメントと動画を見つけることができた。私たちが最初に見つけた動画は、どうやらウェイボーから転載されたもののようだ。そして、ウェイボーのコメント欄には、中国語でこう書いてあった。
これはうその情報の可能性が高い。私たちは出稿を見送った。

真偽不明の肺炎対策 国内でも拡散

真偽がはっきりしない情報は国内でもすぐに見つかった。多いのが新型コロナウイルスを防ぐのに効果的だとするツイートだ。
なかでも目立って拡散していたのがこのツイート。
28日午後1時の時点で、3000を超えるリツイートや「いいね!」を集めていた。
本当に効果があるのか。私たちは海外で感染症対策などにもあたっている日本赤十字社和歌山医療センターの古宮伸洋医師に話を聞いてみた。
(古宮医師)
「医学的な根拠がないというのは言えます。ウイルスが胃酸に弱いのは確かですが、のどだけではく、目や鼻の粘膜からも体に入って感染します。この方法についてヒトでの効果を科学的に立証したデータはありません」
感染症が流行するたびにこうした真偽不明の治療法などが飛び交うことについて古宮医師は「科学的に根拠のある予防法は厚生労働省やWHOなどのホームページで公開されています。情報に惑わされず、確認してもらうことが安全だと思います」と呼びかけている。

SNS上で拡散したデマを自治体などが否定する事態まで起きている。

中国のSNSとされる画面の写真とそこに書かれたことばの和訳を掲載したツイッター。

「中国から関西国際空港へ入国した中国武漢人観光客から咳と熱を検知し、病院へ搬送したものの検査前に逃げた。新型肺炎感染者の可能性が高いので大阪に住む人ご注意を」などと書かれ大勢の人によって拡散された。
これに対し、関西国際空港を運営する関西エアポートでは検疫所などに確認し、その事実はないとしてすぐさまホームページやツイッターで注意喚起を行った。さらに大阪府の吉村知事は「この情報はデマです」とツイッターに投稿し、冷静な対応を求めた。

どうして目に留まるの?

こうした情報がどうして人々に注目され、拡散してしまうのか。私たちはツイッター社に話を聞くことにした。

担当者によるとツイッターでは独自のアルゴリズムが(コンピューターの計算処理方法)導入されていて、ユーザーの関心が高そうな投稿が優先的に表示されるという。

そのうえで「こちらで真偽の判定を行うことはなく、真偽がわからない情報も正しい情報もすべて表示し、ユーザーに判断をまかせている」と話し、内容が正しい投稿が必ずしも上位に表示されるとは限らないとしている。

新型肺炎の感染拡大を受け、ツイッター社ではユーザーが真偽がわからない情報に惑わされることを防ぐため、1月26日から「新型肺炎」や「コロナウイルス」などの単語を検索すると、厚生労働省のウェブサイトが最上位に表示されるようにしている。

ツイッター社が正しい情報を見てもらうためとしてこうした対応をするのは、「自殺」や「反ワクチン」に次いで3件目だということだ。

SARSでは無かったSNS

誰もがいつでも、どこでも気軽に情報を発信できるソーシャルメディア。新型肺炎「SARS」が中国やアジア各地を中心に感染が広がった2003年当時、まだ大規模なユーザーを抱えるソーシャルメディアは存在していなかった。

1秒間に数千回ものツイートが行われるソーシャルメディア「ツイッター」がスタートしたのは2006年で、毎日、1億人を超えるユーザーが利用している。その3年後に利用開始した中国の「ウェイボー」もいまではユーザー数は4億人を抱えている。

不確実な情報 背景には不安も

不確実な情報がSNSでやり取りされる背景に何があるのか。社会心理学に詳しい東京大学大学院の関谷直也准教授は、人々が「不安」を感じる話題では、悪意のあるデマに限らず、不確実な情報が広がりやすいと指摘する。
(関谷 准教授)
「感染症に限らず、汚染物質による環境問題やテロなどの話題では、人々が目に見えない脅威に脅かされるのではないかという不安を感じやすい。こうしたケースでは情報を得ようとしてコミュニケーションが増加する傾向があり、デマなど不確実な情報が出回りやすくなってしまうので注意が必要だ」
一方で、事態が刻一刻と変わる中で感染症対策などの医療情報をすべて『ウソかホントか』はっきりさせることは難しい、とも。
「感染症対策などの医療情報は、医療関係者の間でも議論がある。状況が変化する可能性もあり、公的機関や医療関係者などの一次情報をきちんと確認することが欠かせない」

惑わされないためにはどうすれば

日を追うごとに感染が拡大し続けている新型コロナウイルスによる肺炎。ネットなどで今後も不確かな情報が飛び交うおそれもあるなかで、私たちはどう向き合えばいいのか。

取材を通じて感じたのは、誰がどんな根拠を持って情報を発信しているのか、見極めることだ。厚生労働省では患者数や予防法などについて最新の状況をホームページで随時公開している。日本赤十字社などの医療機関でもWHOが公表している対策などを紹介している。

この新しい病気についてはまだわからないことが多く、自分は大丈夫なのかと不安を感じてしまうことは否めない。だからこそネットやSNSで流れてくる情報に触れたときには安易に信じるのではなく、ちょっと立ち止まって確認してみることが大事ではないだろうか。