日本企業を変えるか 急増するCVC

日本企業を変えるか 急増するCVC
新たなテクノロジーやビジネスモデルが次々と登場する中、自前の開発だけで勝ち残れるのか。競争のスピードが加速する今、優秀な技術やアイデアを他社から取り込むことが欠かせなくなっている。こうした動きを後押しするのが、「CVC=コーポレート・ベンチャー・キャピタル」だ。事業会社が、自己資金で、スタートアップ企業などへの投資を行うものだが、投資益よりも、新たな本業を生み出し、収益のタネを探す狙いがある。ベンチャーキャピタルとも、M&Aとも異なるCVCが、日本企業を変えるきっかけとなるかもしれない。(国際部記者 曽我太一)

注目のCVCは増加の一途

世界のビジネス界ではいま、「CVC=コーポレート・ベンチャー・キャピタル」による投資が増えている。グーグルの「GV」や、大手クラウドサービス、セールスフォースの「Salesforce Ventures」などが知られる。
CVCは、事業会社が、自己資金を中心に、スタートアップ企業などへの投資をする組織で、企業本体の経営とは切り離し、ファンドの形式を取ることが多い。ただ、投資とはいっても、ベンチャーキャピタルのように投資益が狙いではない。スタートアップ企業への投資を通じて、ビジネストレンドの最新情報を得ることや協業、優秀な人材の招へいなど目的はさまざま。
ゆくゆくは買収などM&Aを目指すケースもあるが、スタートアップ企業は失敗に終わるケースも少なくないため、いきなりの買収はリスクが大きく、判断にも時間がかかってしまう。

この点、CVCは、会社本体から切り離されているため、投資の決定も迅速だ。競争が激しいスタートアップ企業は、事業を拡大するため、スピード感のある資金調達が欠かせない。投資する側は、意志決定が遅ければ、金の卵を手に入れて、新たな収益のタネを見つけることはできない。
アメリカの調査会社のレポートによると、2018年のCVCの投資額は530億ドル、日本円にして5兆8000億円と、2013年から5倍にも増加。投資先の8割余りはAI=人工知能の開発で世界をけん引する北米と中国に集中している。

背景には変革の荒波

CVCによる投資増加の背景にあるのは、ビジネスモデルの大きな変化だ。世界のタクシー業界に進出する配車アプリのウーバーや、民泊仲介サイトのエアビーアンドビーなど、新しく生まれた企業によって、既存の業界が変革を余儀なくされるケースが少なくない。

日本企業には変化に対応できなかったためにマーケットを失った苦い経験がある、と指摘するのは、シリコンバレーのベンチャーキャピタルへのアドバイスなどを行う、山本康正さんだ。山本さんは、名門ハーバード大学の客員研究員も務めている。
「日本はガラケーという非常に優れたものを作っていたにもかかわらず、世界で売れなかった。なぜかというと『消費者が求めているもの』と『メーカーが出せるもの』に“かい離”が生まれたから。画素数やワンセグ機能、バッテリーの持ちや防水機能は、実は消費者はそこまでは求めてなくて、より使いやすく、新しいアプリやサービスが使えるものを求めていた。その結果、ガラケーが敗北し、スマートフォンが席けんしたんです」
山本さんは、日本企業にこそCVCの投資が求められていて、今、その動きが活発になり始めているという。
山本康正さん
「日本企業がいま一番求めているのは、自分たちの本業がどう変わるかです。自分たちの本業がいつ、どこから浸食されるか分からない状況のなか、シリコンバレーでスタートアップに投資し、うまくいけば協業、そして買収していくことを目的とし、投資によるリターンというよりも、新しい技術や優秀な人材を獲得しようとしています」
日本政府も、国を挙げてスタートアップ企業などへの投資を支援していて、経済産業省は、「トヨタ自動車が、100億円規模のCVCを設けて、いわゆる“空飛ぶタクシー”のスタートアップ企業に投資するなど、自社開発と合わせて、他社の技術を取り入れる意識が企業サイドでも高まっている」と話す。

日本企業幹部も“勉強”

こうした背景から、日本企業の間でもCVCの投資は急増している。2018年の日本企業のCVCの投資額は、明らかにされているだけでも109億円と、10年でおよそ10倍にまで増えた。しかし世界の投資規模と比べると、まだ、ごくわずかにすぎない。
こうした状況を打開しようと今、山本さんがスタンフォード大学の研究者と一緒にシリコンバレーなどで主催している、CVC投資やスタートアップ企業の見極め方を学ぶためのセミナーには、日本企業の幹部が参加するケースも増えているという。
山本康正さん
「リーマンショック後は、どの業種もデータサイエンスやITとは無縁ではいられなくなり、シリコンバレーに進出するようになった一方で、ビジネスモデルの変化や、本当に成功するスタートアップ企業の見極めなど、勘どころがわからない方が多いと思います。これは実際にスタートアップ企業でビジネスモデルを見ないと得難い感覚です。スタートアップ企業と大企業が一緒になって成功した例のケーススタディなどをいくつかしていると、『このパターンなら、自社にとっても有効かもしれない』と、自社にあてはめて考えられるようになります」
めまぐるしい変化の波の中、今、何が一番求められるのか。山本さんはこう話す。
山本康正さん
「10年先がどうなっているかを具体的にイメージできない方がやはり多い。流行り言葉にのせられて『ブロックチェーンはどうか』『5Gはどうか』とか、1つのことを考えてしまうことが多いんですね。しかし、実際の世界では、5Gもブロックチェーンも、AIも複合的に動いている。おぼろげながらでもいいので、すべてについて『つまりこういうことだね』と理解し、判断できる人材が、いま求められていると思います」

時代を制するのは

「10年先がどうなっているか」という言葉は非常に重く感じた。アメリカの企業などとは違い、数年ごとに異動が訪れて、担当者が変わることが多い日本の企業では、10年後のビジネスにまで責任をもてるケースは少ないだろう。日本企業ではシリコンバレーに送り込まれたCVCの担当者ですら、わずか数年で異動することもある。

それでも、日本の企業が自社開発だけにこだわらず、他社の技術も積極的に受け入れるようになっている証左がCVCの増加だ。

こうした積極的な動きがどのようなイノベーションにつながり、日本の技術やサービスが世界に受け入れられるようになるのか、注目したい。
国際部記者
曽我太一
平成24年入局
札幌局などをへて国際部
スタンフォード大学で客員研究員として、デジタル技術について研究した