仕分け人を、やってみた!

仕分け人を、やってみた!
「仕分け人やってみませんか?」
ええっ!? 仕分けってあの「2位じゃダメなんですか?」っていうアレですか?

突然、シンクタンクから依頼を受けた。仕分けといっても、対象は国の事業ではなく、市の公共施設のようだ。
「課題をあぶり出すのが目的。これまでの経験から気づいたことを指摘してほしい」
国の事業仕分けは自分で取材したこともあるし、できることはあるかもしれない。
二つ返事で、やってみることにした。
(相澤祐子)

納めた税金の使われ方、知ってますか?

私が住んでいるのは、東京都中央区。
政治を取材してきた記者としては、どういう主張を持つ人が区長を務めているかは、知っている。

でも、中央区が税金でどんな施設を造り、どう運用しているかは、正直すべて把握しているわけではない。みなさんは、どうだろうか。

国の「事業仕分け」が始まったのは、私たちが国に納めた税金(所得税など)が適切に使われているかをチェックするためだ。私も民主党政権時代の仕分けを取材した。
事業の点検は重要なことだと、自民党政権に交代してからも、「行政事業レビュー」という名前で続けられている。
でも、それならば、住民税や固定資産税を納めている自治体についても、同じようなチェックが必要ではないだろうか。

そういう観点から、いま各地の自治体で「仕分け」的なチェックが相次いで行われている。今回、私に声をかけたのは、自治体と連携してそうした「レビュー」の運営に協力しているシンクタンクだった。このシンクタンクが関わっただけで、昨年度と今年度これまでにのべ34の自治体でレビューが開かれている。

「ハコモノ」ちゃんと使われている?

参加することになったのは、千葉県君津市のレビュー。
「君津まちづくりプロジェクト」として、公共施設の課題を洗い出すという。いわゆる「ハコモノ」の検証だ。なぜ、それが必要なのか。
君津市は県南部に位置し、大手製鉄関連企業が立地した昭和40年代以降、人口が急増。市は当時、将来人口を15万人と想定して、公共施設などを集中して整備した。市の公共施設は全部で253施設あるが、その50%以上(総延床面積で)が、昭和55年以前の建設なのだ。
しかし、市が作成した上のグラフが示すように、人口は平成10年前後に9万人を超えたのをピークに、減少。去年12月現在の人口は8万4000人で、想定は大きく外れた。
最新の推計では、2030年代半ばには君津市の人口は7万人を切り、2040年代には6万人を切るとされている。
(国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)』)

老朽化した「ハコモノ」の維持管理、修繕、更新のために費用がかさむ。とはいえ、人口減少と少子高齢化で、税収の伸びも期待できない。何が必要で何がムダなのか、いま真剣に考えておかなければ、住民の「重荷」になっていくのは目に見えている。君津市が抱えているのは、多くの自治体が共通して直面している課題だろう。

今回、住民基本台帳から無作為抽出した3000人に案内を出し、応募のあった104人などが、メンバーとして議論に参加することになった。住民協議会とセットになった試みが、ほかのレビューと違うプロジェクトの特徴だ。

まずは外部の専門委員で

とはいえ、議論の土台となるよう、課題を洗い出しておく必要がある。
このため、まずは外部から招かれた「専門委員」が市の職員と議論することになった。

その1人として、国の事業仕分けの取材をした私にも、声がかかったようだ。
議論は今月11日と12日の2日間に行われた。テーマとなったのは、以下の施設だ。

1月11日
【A班】スポーツ・公園施設(13施設)/市民文化ホール(1施設)/資料館(2施設)/市営住宅(9施設)
【B班】公民館等(11施設)/行政施設(6施設)/図書館(7施設)

1月12日
【A班】産業、観光施設(13施設)/保健、福祉施設(10施設)
【B班】コミュニティセンター(5施設)/保育園(13施設)/子育て支援施設(1施設)/放課後児童クラブ(3施設)

「子育て施設なども対象なので、適任じゃないかと思って」と言われて参加した私は、12日B班の担当になった。

ここで洗い出された課題をもとに、2月と3月に住民協議会が開かれる。協議会での議論の結果は、それぞれの施設の見直し計画に反映されるので、ミスリードしないようにしなければ。責任重大だ。

議論はこうして進んだ

12日午前9時50分、まずは市内に5つある「コミュニティセンター」についての議論が始まった。

進行役は、君津市の関係者ではない。なんと神奈川県逗子市から招かれた、市民協働部次長だった。ほかの自治体の人が議論をリードするなら、しがらみなく、話ができるだろう。
外部専門委員は、私のほかに、シンクタンクから2人と、岡山県倉敷市の教育委員会から1人で、計4人。対するは、君津市市民生活課の職員だ。

会場では私たちの議論を30人余りの市民参加者が聞く。

事前に、それぞれの公共施設の建物や面積、施設概要、維持管理費、利用状況などが書かれた資料をもらっていた。
ただ、ざっと目を通しただけでは、書かれている数字が相応なのか、そうでないのかの判断が、私にはつかない。不安を抱えたまま、議論はスタートした。

そもそも「コミュニティセンター」って…

コミュニティセンターの概要について、市側の説明が終わると、進行役が担当課にこう聞いた。

「昨日、公民館や行政センターの議論をしましたが、これから議論するコミュニティセンターも、基本的に貸会議室とか、市民のサークル活動で利用するという意味では、公民館とその部分は変わらないという意味でいいでしょうか」

そうそう、そもそも「公民館」と「コミュニティセンター」の違いって何?
みなさん、意識して利用したことありますか?

改めて、君津市ではどういう違いがあるか、見てみよう。
「公民館」は教育委員会が設置し、管理運営も教育委員会が行っている。「社会教育主事」の資格を持つ職員がいて、そこで開く催しの相談に乗ったり助言をしたりしている。

一方の「コミュニティセンター」は、市民生活課が設置し、運営は住民で作る委員会に委託している。市の職員の常駐はない。
運営の形は違っても、市民が会合などを開く時に利用するという点では、どちらも同じ。何か違いはあるのだろうか…

そう考えて資料を眺めていると、気になる点を見つけた。

コミュニティセンターの部屋ごとの稼働率だ。30%以下も多く、中には0%という部屋も複数ある。
「公民館」の一般的な稼働率と比べると、低いという印象だ。

何か原因があるのだろうか。「運用上で改善すべき点がある」のか、それとも「整理を考えるべき施設」なのか、これは、点検の対象にするべきだと考えた。

稼働率100%の「温泉」!?

なるほど、稼働率ひとつを見ても、点検すべき課題は見えてくるのか。

そう考えながら調べていると、ある施設の一室が目についた。

「浴室 利用率100%」
100%って!?
昭和58年に建てられた一番古いコミュニティセンター。浴室があり、しかも温泉だという。市民なら1回200円で利用できる。へぇと思ってスマホで調べると、浴室が利用できるのは正午から4時まで。
ん?4時までとは中途半端な時間…例えば仕事から帰った親が子どもを誘ってこの浴室を利用する、という使い方はできない。施設そのものの開館時間は午前9時から午後5時まで。何かもったいないなぁと思い、手を挙げて質問をした。

「コミュニティセンターは午後5時で終わらなければならない決まりはあるんですか? 例えばこの浴室、稼働率100%なら、利用時間が4時間に限られているのはもったいないと思ったのと、もし逆に、リピーターが何度も使っているから100%になっているだけだとすると、地域の人たちのコミュニティ醸成のために広く利用してもらうという施設の趣旨からは反しているのではないかと」
市の答えはこうだった。
「要望もあることはありますけれども、実際午前9時から午後5時で閉めさせていただいています。ただ市長が認めたものに関しましては、夕方どうしても使いたいということであれば、承認を得て使うことは可能です」

施設は人口が多い住宅地にある。税金で運用しているのであれば、短い時間に施設に行ける一部の人だけが入浴できるというのはどうなのだろう。ほかにもニーズがあれば、もっと広く利用できるよう検討してもいいのではないだろうか。

そのほか、公民館を合わせた14館の、市内での配置が適正なのかとか、指定管理者制度で地元の人たちがつくる委員会に管理運営を任せていることがどう効率的なのか、などの質問が出た。

知らなかった「青年館」

最終盤、私たちも市側も、予想もしていなかったことが浮かび上がった。

公民館とコミュニティセンター以外に、住民が集まれる場所があるのかどうか、という議論をしていた時だった。

「青年館!各自治会に、自治会の人なら使える青年館という施設があります」

議論を聞いていた市民のほうから、声が上がった。
えっ、そうなの?隣の委員と、思わず顔を見合わせてしまった。

その後、市に調べてもらったところ、市内には208の自治会があり、そのうち184が「市政協力員」を置いている。184のうち9割弱が、「青年館」や「自治会館」などと呼ばれる施設を持っているのだという。
建物は自治会が所有しているが、修繕や改築、新築の要望があれば、規定に則って市が補助金を出すのだという。選挙の際、公民館などが近くにないところでは、投票所として使われることもあるというのだから、立派な「公共的」施設だ。公民館やコミュニティセンターの活用を考える上で、これらの施設も合わせて検討することができるのではないか、と思った。

しかし、「青年館」は議論のたたき台になる資料には載っていなかった。つまり、今回、市民を交えて議論をしていなければ、俎上(そじょう)にのぼならなったかも知れない。早速、レビューを開催した意義が現れたと感じた。

学童クラブ、誰が運営するの?

午後は、私に声がかかった大きな理由である、子どもや子育て施設がテーマになった。

中でも議論になったのが、「放課後児童クラブ」いわゆる学童クラブのことだ。

昨年末、NHKでも、「学童保育の利用者が129万人余で過去最多を更新し、空きを待つ待機児童も1万8000人と、これまでで最も多くなった」というニュースを放送した。
私はいま、2歳5か月と0歳5か月の2人の子どもを育てている。

保育園のママ会をやると、子どもが小学生になったときに放課後どこで見てもらうか、という話題が頻繁に出る。保育園にいる間は、子どもを夜まで見てもらえるが、小学校に上がったとたん、学校の授業終了から午後5時、6時、7時くらいまでを子どもがどこで過ごすのか、というのが大問題になるからだ。いわゆる「小1の壁」である。

「放課後児童クラブ」は、市内に14。今回の対象となったのは、学校の敷地内に専用の施設がある3つだ。
クラブの設置は民間などが行い、市はそこに補助金を出しているのだという。
議論の大きなテーマになったのが、この放課後児童クラブの需要を、行政側がどう考えているか、ということだった。
「現在学童クラブを運営している学区については、申し込みの人数は毎年把握しています」
「必要数とすれば、各小学校でひとつのクラブは設置できているかなと思っています」

私はこう尋ねた。
「君津市に関して言えば、申し込みは毎年把握していて、現時点では待機の状態になっている子はいないというふうに考えていいのですか?」
「今年度分については待機はいないというふうに報告は受けているんですけれども、ただ来年、再来年になってくると需要もどんどん増えてきますので。対策をしなくてはいけなくなるとは思います」と担当者。

単純に考えれば保育園を利用していた人たちがそのまま上がり、放課後児童クラブを利用することになるのだが、将来の見込み数も含めて、この日、行政側からは具体的な数字は出てこなかった。

ところが、市民からこんな声が上がった。
「市は、放課後児童クラブの要望に沿って全箇所あるとおっしゃっていましたが、無いです。清和地区には(施設ではなく、学童クラブそのものが)無いです。私、保育園が終わって、学童、当然行かせようと思っていました。『無い』って聞いて、市に相談したら、『無いところは基本、市では関わらない』と。民間やNPO法人とかで設立してやっていただかないと、と。『今ある学童は全部そうやってますので、新しく設置というのは考えてません』、って言われました。もし市のほうで、もう間に合っているという感覚でいらっしゃるんだとすると、地域差があるんです」
私の隣に座っていた倉敷市教育委員会の専門委員は、こう引き取った。
「学童クラブは、早いところでは30年くらい前にできて、働いている人の親御さんが、学校の隅の空いてるところで、ちょっと子どもたちを預けて私たちが見るから、みたいなの が最初だったんですよ。お金も持ち寄って、自分たちでちゃんとやるから、学校にいさせてくれというところから始まって。しかし、社会状況も変わってきて、皆さん思われているように、たぶんちゃんと見直す時なんだと思います。学童クラブが行政としてやるべき事業にもなってきているかな、と」

学童クラブを必要とする家庭は主に共働き世帯なわけだから、核家族も増えている中で、『必要なら保護者で運営団体を作ってくれ』というのは、酷な話だろうと思う。倉敷市の専門委員が言うよう、社会状況が変わったのなら、それに対応することも考えていいのではないか。

このほかにも、子供の貧困問題もある現状では、利用料も民間に任せるのではなく、利用料が支払えない家庭には行政が手を差し伸べなくてはならないのではないか、とか、行政がきちんとニーズを把握して、きちんと制度設計をした方がよい、という指摘も出た。

従来の取り組みでは足りない

今回、各分野の施設について、会場で議論を聞いた市民が、施設の総量などについて見直しが必要だと考えるかどうか評価をした。この回は、施設の総量・配置の見直しが必要が27、現状維持が7で、唯一、放課後児童クラブについては総量を増やしたほうがいい、という結果になった。

そして次は2月と3月、住民協議会で住民同士での話し合いが行われる。

取り組みの狙いを、君津市の石井宏子市長はこう話す。
「かつては新日本製鐵(現・日本製鉄)が来たと同時に街ができて、地方交付税の不交付団体となり、経常収支比率も低かったから、自力でいろいろできたんですね。しかし今、他の市町村と同じように人口減少が著しく、地域によっては高齢化率が高くなり、地域ごとの課題も違って、ということを考えると、今ある公共施設をもう一度どうビルドアンドスクラップするかをしっかり考えていきたい。使っている市民の皆さんととにかく対話をしないと、その答えは出てこないと思ったんです」

しかし、市はこれまでも、パブリックコメントや住民説明会などで、市民の話を聞いてきたのではないだろうか。
「それでは足りないです。パブリックコメントにご意見をくださる方は限られていますし、説明会をしますといってきてくださる方も、興味関心のある方ばかりです。公共施設をこれからどうしましょう、という話をするときに、頻繁に利用する人が集まれば、『使っているから』というだけの議論になってしまいます。今回は、参加者を住民基本台帳から無作為抽出し、市内から広く参加してもらうということに加え、そこで役所と市民の新しい関係性が構築できます。そこが今、君津市にとってとても必要なことだと思っています」
参加した市民の側はどう考えているのか。終了後、話を聞いてみた。
「私たちからすれば、施設に行って同じサービスを受けているつもりでも、今回、説明で出てきた課の方もその都度違うし、縦割りとはこういうことか、ということがはっきりしました。だから、本庁舎内での人件費とか、事務の無駄もいっぱいあるんじゃないかなと思いました」

「市が、あるものを『こう使おうと思います』というのを住民説明会する頃には、ほぼほぼAと決まっていて、住民の話を聞いても、A‘くらいにしかならない。住民のニーズと市の思惑との乖離(かいり)を埋められないという、これまでのやり方はやめましょう、住民の方から声を上げるようなものを作りましょうというのを、たぶん市としては考えているのだと思います。そういう姿勢自体は評価できるのかな」

私自身、実際に参加して市の説明を聞くと、疑問がたくさん浮かんできたし、会場に集まった市民の個別具体的な声を直接聞くことができて、非常に興味深かった。

多くの人は、決して安くない住民税などの税金を払っているはずなのに、行政サービスについて見直したり、意見したりする機会は少ない、あるいは、ほとんどないのではないかと思う。

買い物をする際、付いている値段に納得してものを買うように、地域の行政サービスが見合ったものかどうか、一度、チェックしてみたらどうだろうか。そして、おそらく行政の側も、時代の変化に合わせてサービスをどう見直すか、より多くの住民の意見や関わりを求めているのだ。
国際放送局記者
相澤 祐子
平成14年入局。長野局を経て政治部へ。30年7月に国際放送局に異動。政治取材を海外へ発信。