破綻10年 再び拡大路線?JALはどこへ

破綻10年 再び拡大路線?JALはどこへ
経営破綻してから10年がたった日本航空。3500億円もの公的資金の投入など、国の手厚い支援を受けての経営再建は、当時、その必要性について大きな議論を呼んだ。無理やり延命しても、再び破綻するのではないかと懸念する声もあったが、会社は、再建から次のステージを目指し始めた。日本航空は、この10年でどう変わったのか。そして、どこに向かおうとしているのか。(経済部記者 加藤ニール)

“親方日の丸”からの脱却は?

「親方日の丸の体質、当事者意識や責任感の欠如、もう1つは採算性の欠如が、経営陣のみならず、社員にもあった。当時と比べると、いまは、より現場の意見が聞けるような体制になっている」(赤坂社長)
日本航空の赤坂祐二社長は、この10年をこう振り返る。会社更生法の適用を申請して経営破綻したのは2010年1月19日。負債総額は、2兆3200億円と事業会社としては過去最大規模だった。

公的資金の投入など手厚い支援を受けて、自力ではできなかった赤字路線からの撤退や全従業員の3分の1に当たる1万6000人のリストラを断行した。希望退職のほか整理解雇も行う痛みも伴った。

2度目の破綻は許されない---事業規模の縮小とともに、もう1つ進めたのが、企業体質の改革だ。かつての日本航空は、経営陣と現場の距離が大きく離れ、社員にとって経営は遠い存在だった。また、パイロットや客室乗務員、整備士など、部門が異なれば、別会社だというくらい縦割り意識が強かったという。
こうした企業体質を根本から変えないと再生はできないと、京セラ創業者の稲盛和夫氏を会長として招き、体質改善を進めた。

その柱は、社員を小さなグループに分けて、採算性を明確にする「アメーバ経営」と、社員一人一人に当事者意識やチームとしての一体感を持たせる「意識改革」だ。破綻当時を知る客室乗務員は、改革によってコスト意識が浸透したと語る。
「機内に持ち込む荷物は、シャンプーや化粧品の重さまで意識して、少しでも機体を軽くして燃料費を安くするように荷物を減らした。機内で使う紙コップも1ついくらするのかを書き出し、自分たちが使うものには名前を書いてむだづかいをやめた」(高原さん)
こうした取り組みの結果、業績はV字回復。経営破綻から2年8か月というスピードで、東京証券取引所に再上場を果たし、公的資金も返済した。意識改革のための研修は、いまも続けられている。ただ、その一方で、取材をしていると、取引先などからは、「親方日の丸の体質はまだまだ抜けきっていない」という声も聞かれる。

再び拡大路線!?

日本航空は破綻後、50を超える不採算路線から撤退。事業規模は、国際線で4割、国内線で3割縮小した。実は、破綻から10年を経た今も、路線の数は、破綻前の水準に戻っていない。

その背景には、日本航空が、規模よりも利益を重視した経営を行ってきたこともあるが、国の手厚い支援で再建を進めたため、新しい路線の開設などは、一時、事実上の制限がかけられていたことがある。

この10年、航空業界を取り巻く状況は大きく変わった。LCC=格安航空会社が台頭。外国人旅行者が急増し、去年は3188万人と、10年でおよそ5倍に膨らんだ。
こうした中、ライバルの全日空は、着実に路線を拡大。国内線を運航する会社としてスタートした全日空が、今では国際線の数で日本航空に大きく差をつけている。

日本航空はこのまま「縮小均衡」を続けていくのか。赤坂社長は、破綻から10年に合わせて開いた会見で、「緩やかな路線の拡大」を目指すと語った。かつて不採算路線が経営破綻の要因の1つとなったことから、着実に採算がとれる路線を見極めつつ、緩やかに路線を拡大し、増え続ける外国人旅行者の需要を取り込む戦略だ。
国際線では、ことし3月から羽田空港と欧米を結ぶ便を中心に10余りの路線を新たに開設する。さらに、低価格が売りのLCCにも参入。5月に運航を始める「ジップエア トーキョー」は、世界でもまだ数が少ない長距離路線のLCCとして、新たな市場の開拓をねらう。国内線は、破綻前に比べて依然少ない状況だが、増加する外国人旅行者を地方に呼び込もうと、増やしていく方針だ。

次の成長は イノベーションが鍵

しかし、この10年、徹底的に浸透させてきた「採算性」の意識が、今後の成長に向けて、逆に弊害になっている面もあるという。
「会社は、いま再建から成長の段階に移った。ところが、社内には今までになかった、新しい価値を創造したり、チャレンジする人材が足りていない。持続的に発展していくためには人材をどう育成するのか、現在の会社に足りない部分だ」(赤坂社長)
このため立ち上げたのが、「イノベーションラボ」。客室乗務員や整備士など部門を超えた若手社員から、アイデアを持つ人材を集め、「次なる一手」を探る“実験場”だ。AI=人工知能や、5Gなどの最新の通信技術、ロボットなどを活用した、新しいサービスの開発に取り組んでいる。
ベンチャー企業と共同開発を進めるVR(バーチャルリアリティー)を活用した装置では、ハワイ旅行を疑似体験できる。専用のゴーグルをつけると、ハワイの砂浜を歩いているように、映像や音声が流れるだけでなく、現地の花の香りも感じることができるのが特徴だ。
装置には、扇風機やミストを噴出する機器も取り付けられ、海辺に近づく映像に合わせて波しぶきや風を感じられるよう工夫されている。こうして旅行気分を味わってもらうことで、実際にハワイに行ってみたいという新たな旅行需要を生み出すのがねらいだ。
一方、空港で接客に当たるロボットは、空港のスタッフがコントローラーを使って遠隔で操作する。ロボットに取り付けられたカメラやマイクを通して、利用客と会話もできる。人手不足が深刻となる中、会社では、在宅勤務の社員が遠隔操作で接客するなど、柔軟な働き方につなげたい考えだ。

信頼は回復したのか?

破綻から10年。業績が回復した日本航空は、失った信頼も回復することができたのか?それには疑問符が付く事態が起きた。相次ぐパイロットの飲酒問題だ。国土交通省は、日本航空に対して去年10月、異例となる2度目の事業改善命令を出した。

これについて赤坂社長は、「再生プロセスで社会の信頼を少しずつ回復してきたと感じていたが、がくっと信頼を失った。10年たった今も、多くの方にご迷惑をおかけした、そういうことを決して忘れずにこれからも精進していきたい」と話した。

さらに、忘れてはいけないのが、35年前の日航ジャンボ機墜落事故だ。取材を通じて親交のある遺族の1人は、飲酒問題について「時間が経過する中で、意識の緩みがあるのではないか」と嘆いていた。

日本航空の関係者が破綻10年を振り返るとき、たびたび口にしたのは、「鶴の恩返し」ということばだ。破綻時の支援への感謝の気持ちを忘れずに、社会に貢献していくことを意味している。現在、社員の半数は、経営破綻後の入社となり、ジャンボ機墜落事故に至っては、ほぼ全社員が直接は知らない会社となった。だからこそ、こうした過去と「鶴の恩返し」を決して忘れてはならない。
経済部記者
加藤ニール
平成22年入局
静岡局、大阪局を経て
現在、国土交通省担当