あなたと、つながりたい。アバターで。

あなたと、つながりたい。アバターで。
ビールを片手に、「乾杯!」。でも、その乾杯相手は“アバター”。遠隔地にいる店員の身ぶり手ぶりに合わせてCGキャラクターが動き、客と会話をする“アバター店員”がいる飲食店が、東京に登場しました。
「アバターと話すってどういう感覚なの?そもそも楽しいの?」そんな疑問から取材をしてみると、人とのつながり方の新たな可能性を発見しました。(映像センターディレクター 中野貴世)

アバターの中身は日本各地にいる人々

ある日、東京・中野で飲んでいた私。飲食店が並ぶ道を歩いていると、あるスタンドバーがにぎわっていました。
でもお客さんが話している相手は、壁…?と思いきや、壁にはモニターがあり、画面にはCGキャラクターが!

店の紹介には「アバターと気軽に話せる」と書かれています。
後日、改めて取材に訪れると、何回も通っているという常連客に出会いました。こちらの男性は、5時間以上アバター店員との会話を楽しんだこともあるそうです。
常連客の男性
「人見知りで、直接顔を見ながら話すのは緊張してしまうけど、アバターを通せば気軽に話せます」
うーん、そうなのか。私も、早速アバター店員に接客してもらいました。

こちらは「博多マルコ」さん。その名のとおり、住んでいるのは福岡・博多だそうです。
私「ご年齢は…?」
マルコさん「秘密!でも、年金受給者よ~」

マルコさんの軽快なトークと身ぶり手ぶりに合わせて、アバターが動きます。私が話をすると、相づちもしっかり打ってくれています。
なるほど。初対面の人と話すときは、話題を考えたり、相手の顔色をうかがったりして気を遣うことが多いけど、コミカルなキャラクターが相手なら、少し会話のハードルが低くなる気が…。これは体験してみないとわからない感覚かも。

そのアバター店員との会話のポイントは、「肉声」。見た目はCGでも、声は変えずに会話することで、「人と会話をしている」感覚を残しているんです。

身近な人には話せないけど、誰かに聞いてほしい。そんな悩みを相談するお客さんもいて、中には、恋愛相談をして涙を流した女性もいたそうです。

アバター×コミュニケーション

この店のオーナーに話を聞いてみました。高崎裕喜さん(48)。大手広告会社などを経て、2017年にベンチャー企業を設立しました。IT技術などを使って人々の暮らしを豊かにしたいと、現在はアバターを用いたコミュニケーションツールの開発などを行っています。
高崎裕喜さん
「みんなが健康的に暮らす社会にしたいと、学生時代は医師を目指していました。人が生き生きと暮らすには、孤独にならないことが重要だと考えています。ひきこもりや単身世帯など、社会的に孤立する人が増える中、自分はソーシャルデザイナーとして、人と人がつながるきっかけを作りたいんです」
このお店は、「アバターを相手に、人はどれだけ打ち解けられるか?」を検証するための場でもあるそうです。

ひきこもりや単身世帯が増えている、と話してくれた高崎さん。確かに、内閣府が去年公表した調査では、40歳から64歳までの「ひきこもり」の人が推計61万人に達することが明らかになりました。ひきこもりの期間が30年以上という人もいて、長期化の傾向も浮き彫りになっています。

それ以外にも、単身世帯や1人暮らしの高齢者など、誰かと話す機会を持ちづらい人が増えています。

見た目、年齢などの壁を無くしたコミュニケーションの手段を提案して、一人でも孤独な人をなくしたいというのが高崎さんの願いです。

アバターで働き方改革?!

さて、お店のモニターには、次のアバター店員が現れました。
「ふだんは…、高知県須崎市で漁師をしています!」
なんと!こちらは漁師との兼業アバター店員。店頭には、実際に須崎市で水揚げされたお魚が。たまにアバター店員として店頭販売を行っているんだそうです。

お客さんも刺身をつまみに、ふだんは話せない漁師さんとの会話を楽しみます。
アバター店員として働く感想を聞いてみると。
「東京に住んでいなくても東京のお客さんと話せるし、どんな格好をしていても接客できるので、すごく楽しいです!」とノリノリの答えが。

現在、アバター店員として登録されているのは約40人。年齢は19歳から70歳までで、経歴も、学生や会社員から、主婦などさまざまです。

住んでいる場所は東京、大阪、高知、福岡など全国各地に。
「仕事から帰宅して化粧をとってからでも副業できる」
「高齢者でも、福岡に住んでいても、見た目を気にせず東京の人を相手に接客を楽しめる」

アバター店員の話を聞いて、リモートワークの新しい形も見えてきました。

アバター×福祉の実現へ

オーナーの高崎さんは、今後、アバターバーでの検証を踏まえて、北海道の社会福祉法人と協力して、特別養護老人ホームで暮らす高齢者のアバターが若い世代と会話をする取り組みや、埼玉県の高校でアバターを活用したカウンセリングなども行っていくということです。
また、スマホ用に開発したアバター対話アプリを使って、全国各地の高齢者と子どもたちがつながるイベントを企画しているということです。

この記事を読んで、「直接顔を合わさないで会話するなんて、寂しい世の中になったもんだ」と思う人も、ひょっとしたらいらっしゃるかもしれません。しかし私は取材を通して、「新しいテクノロジーには、生身の人間が楽しく生き生きと暮らせるようにする可能性があるんだ」という、ポジティブな感想を持ちました。

アバターバーで客として飲むもよし、店員になって見知らぬ客との会話を楽しむもよし。新しいコミュニケーションの姿、ちょっとワクワクする気がしませんか?
映像センター
中野貴世
平成21年入局
宮崎局、福岡局を経て報道局映像センターでニュースの制作などを担当
おまけの動画です。
アバターとのトーク。恋愛相談もあるようです。