知られざる“KOL”の世界 中国とつながるカリスマとは?

知られざる“KOL”の世界 中国とつながるカリスマとは?
スマホのネット中継で日本の宝飾品を中国に売る?ちょっと怪しくも聞こえる話ですが、真面目なビジネスなんです。実は今、中国ではこのネット中継通販、いわゆる「ライブコマース」が急拡大していて、日本の地場産業でも巨大市場に挑戦しようという動きが出ているんです。現場で動いているのは「KOL」と呼ばれる“カリスマ”とも言える人たち。日本ではあまり知られていないその世界をのぞいてみると…(甲府放送局記者 山下忠一郎)

舞台は渋谷のマンション… そこにいたのは!

冬のある日、日も暮れた時刻に私が訪ねたのは、東京 渋谷区のとあるマンション。NHKの放送センターから歩いてわずか15分程度の場所にあります。
建物の一室に足を踏み入れると、そこにいたのは、スマートフォンのカメラで商品を撮影しながら、誰かに向かって説明を続けている中国人らしき女性。

女性は、「キー・オピニオン・リーダー」、略して「KOL」と呼ばれる仕事をしています。画面の向こうにいる中国の消費者とインターネット中継でつながり、業者の代わりに商品を売り込んで、売り上げに応じて手数料を受け取ります。
このKOL、中国には50万人以上、日本でも少なくとも1000人が活動していると言われています。それぞれが個人、あるいは会社に所属しながら活動を続けています。

この日、取材したのは、来日7年、都内で暮らす20代の中国人女性。販売のコツとして何が重要かを語ってくれました。
KOLの中国人女性
「まずは買い手に自分のファンになってもらって、友達のような関係になってもらうこと。そして、自分自身が1つのブランドになって信頼してもらうことです」
彼女自身はKOLとしては活動歴1年未満の「駆け出し」だそうですが、中には一度に数十万人とつながって発信するKOLや、10分間でドライヤーを7万台以上売ったKOLなど、カリスマもいるそうです。

「偽物をつかまされたくない」背景に中国の社会事情も

中国では路上などで普通に偽物の商品が販売されているケースもあることから、「ネット通販で売られるものであれば間違いはないだろう」と、日本以上にネット通販での取り引きが浸透し、消費者から信頼されています。
そしてネット通販からさらに進化したネット中継通販「ライブコマース」。先日、私が訪れたスタジオを運営しているのは渋谷のベンチャー企業「ロクトーナ」です。

ライブコマースでは、中国のネット通販大手「アリババ」グループのサービス「淘宝網」を利用します。ロクトーナは、商品を売ってほしい業者と、発信したいKOLをマッチングさせる事業を行っています。
ロクトーナ 根本光事業本部長
「ライブコマースの最大の特徴は、KOLと買い手が双方向でコミュニケーションできる点だ」
KOLがネット中継を続ける間、彼女のスマホの画面には、「もっと商品をアップで見せてほしい」といった要望のほか、「大きさはどれぐらいですか?」、「本物ですか?」、「ほかの色のものはないですか?」といった質問がチャットで、中国の消費者からリアルタイムで次々に寄せられていました。
5年ほど前に始まったライブコマースは、現在では年間の流通金額が10兆円を超えるとされています。「偽物をつかまされたくない」という中国の消費者の心理を背景に、双方向でやり取りができるネット中継の仕組みが支持されているようです。

活用する動き 地方でも

このライブコマースを積極的に利用しようという動きが、日本国内の地場産業でも出てきています。それが山梨県の宝飾産業です。

山梨県は、かつて水晶が採掘され、石を磨く技術が継承されてきた歴史から、今でも宝飾品の製造が盛ん。宝飾品の出荷額は平成29年まで30年連続日本一です。しかし、バブル崩壊以降、国内市場は縮小していて、山梨県の出荷額はピークに比べて、4分の1にまで激減しています。
そこで、新たな販売手法を利用して中国の巨大市場に活路を見いだそうとしています。このサービスに目を付けたのは、山梨中央銀行。中国の事情に詳しい担当者が県内の宝飾業者に利用を積極的に呼びかけました。そしておよそ40の業者がライブコマースの利用を決め、すでに実際に渋谷のスタジオから中国に販売している業者もあります。

これまでも香港で開かれる見本市に出店して中国のバイヤーに販売していた宝飾業者もいましたが、ライブコマースなら、それほど費用も手間もかからないと言います。

甲府市で90年以上続く宝飾品業者の4代目 大森崇寛さんも、ライブコマースの活用を決断した1人。これまでは見本市の出店費用が負担となり、中国市場に出られなかったそうですが、ライブコマースにチャンスを見いだしています。
宝飾品業者 大森崇寛さん
「ライブ配信で、より何万人何千人の方にご覧頂ける、こうした形で、中国の巨大なマーケットに挑戦できるのはとても魅力的な話です」
また、宝飾業者はこれまでは見本市を通して売る場合、バイヤーとしか接点を持てなかったそうですが、ライブコマースならエンドユーザー、つまり最終消費者と直接つながって生の声を聞くことができるので、商品の手応えをそのつど、知ることができます。新たな商品づくりのヒントとなる情報も得られるそうです。
山梨中央銀行コンサルティング営業部 米山真史さん
「宝飾業者が潤うことで、地域経済にとっていい影響があると思っています。宝飾品で成功の道筋ができれば、ワインや織物といったほかの地場産業にも展開させていきたい」と話していました。

広がるのか?今後は…

KOLによるライブコマースを仲介する「ロクトーナ」は、近く甲府市に新たなスタジオを開設する予定で、山梨県の宝飾業者にとって利用しやすい環境が整います。

さらに、ことし春には次世代の通信規格「5G」の商用サービスもはじまります。これまで以上に商品を鮮明な画質で紹介でき、日本のよいものを中国人にどんどん知ってもらうことで、ビジネスチャンスはさらに広がっていくことが期待されます。

中国で広がる「ライブコマース」が苦境にあえぐ地場産業の救世主になるのか、ほかの地域産業にも広がっていくか今後も注目していきたいと思います。
甲府放送局記者
山下忠一郎
青森局、大阪局などを経て現在甲府局に勤務