2020年 世界を制するのは中国?アメリカ?それとも…

2020年 世界を制するのは中国?アメリカ?それとも…
5G、デジタル通貨、自動運転、量子コンピューター。ことしも新しい技術を使った製品やサービスがいろいろ出てくるでしょう。主導するアメリカ企業は日本では「GAFA」で知られますが、本国アメリカでは「ビッグテック(巨大テクノロジー企業)」などと呼ばれています。しかし今、注目されているのは、中国版「ビッグテック」の台頭。“覇権国家”アメリカと“新興国家”中国の覇権争いの行き着く先は?相次いで来日した3人の“知の巨人”のことばから、2020年の世界を考えます。(経済部デスク 飯田香織)

デジタル決済で負けるアメリカ

米中の相互依存の関係を2007年に「チャイメリカ(China+America)」と評したイギリス出身の歴史学者ニーアル・ファーガソン氏(55)。去年12月、「チャイメリカは死んだ。第2次冷戦が始まった」と主張しました。

新たな冷戦を象徴するテクノロジーの分野で、AIなどではアメリカが今なお優位だとしながらも、金融の根幹とも言えるある技術では中国企業のほうが技術的にすぐれているといいます。それはデジタル決済です。
(ファーガソン氏)
「アメリカに対する中国の挑戦で特筆しなければならないのは、中国経済の大きさに加えて、中国の巨大テック企業の技術がすぐれている点だ。とりわけアリババやテンセントなどのスマホを使った決済技術は目を見張るものがある」
「一方、アメリカにとって今、最大の弱みはデジタル決済だ。中国の中央銀行は国境を越えるデジタル通貨(デジタル人民元)を目指していて、実現すればアメリカのドル支配を脅かすだろう。AIや量子コンピューターではまだアメリカが優位だが、ことデジタル決済技術については巨大市場で実装できる中国のほうがすぐれている」
デジタル決済分野でアメリカが出遅れている理由として、ファーガソン氏は、アメリカが金融制裁に依存しすぎたことを挙げます。
2000年代、ブッシュ政権下で米財務省は、イラン政府が自国の国有銀行を利用してテロ組織へ活動資金を送ったとして金融制裁を発動したほか、北朝鮮の資金洗浄に関与した疑いがあるとしてマカオにある銀行(バンコ・デルタ・アジア)の口座を凍結。ドルの決済ができなければ世界のどこの銀行であっても事実上ビジネスができないため効果は覿面(てきめん)でした。その後も積極的に金融制裁に踏み切り、過去の成功体験から抜け出せないというのです。
(ファーガソン氏)
「米政府は『金融制裁』に依存しすぎていて『金融制裁は核兵器よりも威力が強い』として既存システムを変えたくない。アメリカは既存システムを握っていることがかえって不利になっていて、デジタル通貨の開発で出遅れている。アメリカの金融規制は1970年代の古いシステムのままで、既存の銀行システムを守るためのものだ。この分野でアメリカが中国を打ち負かす近道はフェイスブックが計画するデジタル通貨『リブラ』を使うことだ。しかし、フェイスブックはあまりに信頼されていない。アメリカが推進するにはほかの担い手が必要である」
「冷戦は40年続いた。新冷戦も40年程度続くだろう」と予想するファーガソン氏。「東西冷戦のころは簡単だった。自主的に西側陣営を選ぶか、脅されて東側陣営に入るか、そのどちらかしかなかった。アメリカは金融で覇権を握るかぎり、各国に圧力をかけ中国ではなくアメリカを選ぶように迫るだろう」として、5Gなどテクノロジーの分野でアメリカ陣営と中国陣営に割れていくといいます。

中国たたきは一過性ではない

アメリカで中国たたきが強まったのはトランプ大統領が誕生して以降ですが、アメリカによる中国強硬姿勢は、一過性の現象ではないと主張するのは、著書「米中戦争前夜」で知られるアメリカの政治学者のグレアム・アリソン氏(79)です。
(アリソン氏)
「アメリカの安全保障の専門家はアメリカが冷戦に大勝利したあと、一極集中時代が到来すると考えていたが、その後、米中の相対的な力関係に何が起きたか。大きな構造転換だ。歴史的に見て1つの国がここまでのスピードで、ここまであらゆる分野で台頭したことはなかった。覇権国家=アメリカが得意だと思っていたテクノロジーなどの分野に、新興国家=中国が出てくることでアメリカでさらに警戒感が強まるだろう。今の中国たたきをトランプ大統領のもとの一時的な回り道とみるのは幻想にすぎない。このあと選出される野党民主党の大統領候補はトランプ大統領以上に『中国強硬派』となるだろう」
アメリカの世論調査を見るとその兆しがあります。米調査機関「ピュー・リサーチセンター」が2019年に米国内の1503人を対象に行った意識調査で、中国の印象を「好ましくない」と回答した人は60%(前年は47%)、反対に「好ましい」と回答した人は26%(前年は38%)でした。ファーガソン氏が米中の相互依存関係を意味する「チャイメリカ」を打ち出した2007年から様変わりです。当時は、この調査で中国の印象が「好ましい」と42%が答えていて、39%の「好ましくない」を上回っていたのです。

テック企業が国家に取って代わる

一方、中国がアメリカに取って代わるのではなく、アメリカや中国の巨大テック企業が国家に取って代わろうとすると予測するのは、フランスの経済学者で思想家のジャック・アタリ氏(76)。フェイスブックが主導する「リブラ」は、巨大テック企業が国家の権力までを担おうとする予兆だといいます。
(アタリ氏)
「このままでは、世界はリーダー不在の状態になる。中国は内向きであり、世界を支配しようとしているわけではない。実際、みな聴きたいのはアメリカの音楽であって中国の音楽ではない。中国をライバルに仕立てがちだが、中国は普遍国家を目指しているわけではなく、アメリカが抱いていた目標とは違う」
「そうなると待ち受けているのは破滅的な状況=カタストロフィーだ。アメリカが世界的な責任を負うことから逃避し、かと言って中国がその空白を埋めるわけでもない。米GAFAや中国版GAFA(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイなど)といった巨大テック企業が国家に取って代わる可能性がある。その場合、社会的にも経済的にも政治的にも世界は混とんとした状態になるだろう」

注目のファーウェイ裁判は1月20日

世界を制するのは、アメリカか、中国か、あるいは国家ではなくテック企業なのか。2020年、さっそく注目の動きがあります。

5Gの通信設備で世界を席巻せっけんしようとし、米中対立の象徴となっている中国ファーウェイ。スマホの出荷台数(世界全体)でことし、韓国のサムスン電子を抜いて首位になると言われています。国内の「愛国消費」が貢献しているにせよ、企業として確実に存在感を増しています。
そのファーウェイの孟晩舟副会長(創業者の娘)の身柄を、逮捕されたカナダから逮捕を要請したアメリカに引き渡すかどうかの裁判が1月20日にカナダで始まります。

1月15日に米中の貿易交渉の第1段階の文書に署名するというトランプ大統領は、中国との交渉に有利になるならば副会長を材料に使う姿勢を示してきました。テクノロジーをめぐって覇権争いを続ける米中の関係を見る上で、ひとまずこの裁判から目が離せません。
経済部デスク
飯田香織
平成4年入局
ワシントン支局、ロサンゼルス支局などで勤務
アマゾンやツイッターのCEOから米閣僚、レディー・ガガまでインタビュー多数