検証!「リクナビ」問題

検証!「リクナビ」問題
就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の了解をとらずに、いわゆる「内定辞退率」を算出し、企業に販売していた問題。12月4日、政府の個人情報保護委員会は、リクルート側に2度目の勧告を行うとともに、データを購入する契約をしていた37の企業にも指導を行いました。内定辞退率を算出した企業、購入した企業。いずれも就職人気ランキングの上位に並ぶような大企業ですが、なぜ、学生の個人情報を軽く扱っていたのか。改めてこの問題を検証しました。(経済部記者 嶋井健太)

踏み込んだ「違法」の判断

AIの技術を使って内定辞退率を算出し、企業に販売していたリクルートキャリア。まずはこのビジネスのどこに問題があったのか、当局から違法だと指摘されたところを中心に見ていきます。

リクルートキャリアは、2019年2月までは、「cookie」と呼ばれる電子情報を使い、個人を特定しないようにして企業に内定辞退率を販売していましたが、3月以降は、個人データを直接やり取りする方法に切り替えました。

政府の個人情報保護委員会は、3月以降のリクルートキャリアと企業との個人データのやり取りで学生本人の同意を得ていなかったケースがあったと指摘。

また、3月以降に個人データの扱い方を変更した際に法律面での適切な検討を行わず、個人データを安全に管理する対策をとっていなかったとして、これらの対応が個人情報保護法に反するとしています。
さらに、個人情報保護委員会は、会社が個人のプライバシーに配慮したと説明していたことし2月までの企業側へのデータの提供方法についても、企業側が学生のIDなどを分析すれば、簡単に個人の特定ができたとして、法の趣旨を逸脱した極めて不適切なサービスを提供したとしています。無断で個人データを企業に提供された学生の数は2万6060人にのぼりました。

こうした個人情報保護委員会の判断について、個人情報保護の問題に詳しい中央大学総合政策学部の宮下紘 准教授は、次のように話しています。
宮下紘 准教授
「3月以降のサービスについては、システム変更に伴うある種の過失という指摘だったが、それ以前のサービスについては、意図的に学生の同意を取らない仕組みを作り、辞退率のスコアを作成したという故意的なところまで踏み込んだといえる。従来、個人情報は提供元で識別できるかどうかが判断の基準とされていたが、今回、提供先で識別できても法の趣旨を潜脱したと指摘した。まさに法の網目をくぐったスキームでcookieを使ったことを指している。個人情報保護委員会がこのような処分をしたことはなかったので、リクナビ側としては、不意打ちをくらったと受け止めたのではないか」
一方、厚生労働省は、さらに踏み込んで、仮に学生本人の同意があったとしても内定辞退率を予測し販売するサービスそのものが職業安定法に違反すると判断しています。

「ガバナンス不全」の実態

そもそも学生の「内定辞退率」という特異なサービスはどのように生まれたのか。会社によると、内定辞退率のアイデアが出たのは2017年の夏ごろ、就活関連のビジネスを手がける担当者の会議の中でした。

このアイデアが次第に営業や商品企画、システム開発などさまざまな部門に共有され、「局所的に連携を繰り返す形で検討が進んだ」といいます。現場のアイデアがあれよあれよという間にサービスの実現に向けて動いていく。ベンチャー精神を尊重するボトムアップ型の意思決定プロセスだといえば聞こえがいいですが、そこには現場の暴走を許す危うさが潜んでいました。

親会社のリクルートやリクルートキャリアの説明の中で、私は「責任者不在の検討体制」ということばに注目しました。責任者不在?いったいどういうことなのか。

両社によると、アイデアが生まれた当初から、商品の全体像を把握して判断を下すべき責任者が設置されておらず、学生の個人データやプライバシーの問題をどう扱うべきか、責任をもって判断できる人がいなかったといいます。
リクルートはグループ会社が新しいサービスを開発する際には、通常、ビジネスの全体像を理解している責任者を配置しているということですが、今回は新規事業の研究開発として位置づけられていたことから、責任者が不在だったということです。

さらに、最後のとりでとなる法務部門も機能していませんでした。リクルートキャリアの法務部門は、親会社の法務部門に十分な相談もせず、簡単にゴーサインを出してしまったのです。

これについてリクルートキャリアは、本来必要なチェックや決済のプロセスをふむことなく、サービスが提供された根本には「ガバナンスの不全」があったと総括しています。

イノベーションの模範生が…

リクルートグループといえば、社員に新しい事業への挑戦を促すなど起業家精神を重視する企業として知られています。
創業者の江副浩正氏が残した「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」ということばそのままに「SUUMO」や「じゃらん」「ホットペッパー」といった個人向けのさまざまなサービスを展開。企業内起業を生み出すビジネスモデルは、日本企業のイノベーションの模範とされていました。

こうした成功体験が緩みや現場の暴走を生んだということはないのか。これについてリクルートキャリアは、責任者不在で商品化を進めたのは今回のケース以外には確認されていないとしたうえで、次のように話しています。
「今回の問題が『現場の暴走』に起因するとは捉えておりません。本来あるべきフローや社内決済のプロセスを踏むことなくサービスが提供されるガバナンスの空白地帯が存在してしまった『ガバナンス不全』にあったと考えています。リクルートの企業文化を失わずに、ガバナンスを強化していくことが大変重要なテーマであると考えております」

なぜ?名だたる大手企業が

一方、今回の問題で個人情報保護委員会は内定辞退率を購入する契約をしていた自動車メーカーや総合商社など、大手の37の企業に対しても、個人データを外部に提供する際の法的検討などが不適切だったとして、是正を求める指導を行いました。

不適切だと指摘された大手企業の対応とはどのようなものだったのか。NHKは内定辞退率を購入していたと公表している企業に対して、アンケート調査を行いました。

回答があった22社のうち、「個人情報保護法や職業安定法に照らして適正かどうか事前に検討したか」という質問に対して、「リクルートキャリアから適正だと伝えられた」と答えた企業が10社。「検討」すらしなかった企業も1社ありました。
宮下紘 准教授
「こうした企業への指導は異例だが、指導を受けた37社は、本来、学生から同意をとる責任があったと考える。今回は、企業がAIなど技術の利用に躍起になるあまり、技術と倫理の融合がうまくいかなかった象徴的なケースと言える。そもそもユーザーがどう思うかを考え、人間中心の哲学に徹すれば大きな間違いは基本的に起きない。今回も学生の立場に立てば圧倒的大多数が拒否するサービスであることに気付くことができたはずだ」

ユーザー目線の経営を徹底できるか

リクルートグループは、弁護士などの専門家からの助言を踏まえて個人データの取り扱い方を定めた指針をつくるなど、再発防止に努めるとしています。

しかし無断でデータを使われた学生や専門家などからは、内定辞退率をどのように計算していたのかなど重要な問題について、会社側の説明は不十分だという指摘も出ています。

さらに会社が経営責任をどう明らかにするのかも焦点となります。NHKの取材に対し、リクルートキャリアは経営幹部などへの処分について、社内の規定にのっとり検討しているとしています。

リクルートがユーザー目線の経営を徹底し、信頼を回復できるかが問われています。
経済部記者
嶋井健太
平成24年入局
宮崎局、盛岡局を経て経済部
現在、流通業界を担当