メディアの“呪い”は解けるのか

メディアの“呪い”は解けるのか
幼い頃に夢中になったアニメの主人公の女の子はスタイル抜群、下着が見えそうなミニスカート姿でした。でも大人になってから、そのキャラクターの年齢が中学生だったと気付き、少し違和感を抱きました。そんな中、ある同僚の何気ないことばにハッとさせられました。「私たちの番組の出演者は、男性のほうが多いと思う」私自身、そういう視点で番組を見ていなかったこと、自分も無意識のうちにステレオタイプがあったのではないかと考え、取材を始めました。(国際部記者 伊藤麗)

女性の描かれ方めぐり相次ぐ”炎上”

最近、アメリカの健康器具メーカーの動画広告が“炎上”しました。

夫からエクササイズ用のバイクをプレゼントされた女性が、1年にわたってトレーニングに励む様子を撮影し、その記録を夫と鑑賞するというもの。

クリスマス商戦をねらった広告でしたが「支配的な夫がやせている妻に無理やりダイエットさせている」「性差別だ」などとSNS上で批判が相次ぎ、この企業の株価が一時、15%下落する事態となりました。
調査会社「イプソス」が去年(2018年)、日本を含む28か国で1万4700人を対象に広告に関する調査を行いました。

その結果、76%の人が、広告は人々の価値観を形づくるのに大きな影響力を持っていると答えたほか、64%が男女の役割に対する固定的な表現をもっとなくすべきだと考えていることがわかりました。
メディアとジェンダーの問題に詳しい専門家は、欧米では1960年代からステレオタイプにはまった表現をやめようという動きが出始め、日本でも1970年代半ばごろからメディアにおける女性の描写を問題視する活動があったといいます。
「いまだに男女の役割を固定化するような表現がなくならないのは、メディアの作り手側の世代交代が進んでも、かつて炎上した時の反省が十分に継承されておらず、同じことを繰り返しているからではないか」

アカデミー賞俳優が立ち上がる

アメリカには、メディアでどのように女性や男性が描かれているのかを分析している研究所があります。

世界中の映画やテレビ番組、広告の登場人物の出演時間やセリフの長さなどを調べ、客観的なデータに基づいて性差別を助長するようなステレオタイプの表現をなくそうと呼びかけています。
設立者は、映画「テルマ&ルイーズ」などで知られるアカデミー賞俳優のジーナ・デービスさんです。デービスさんは、娘と一緒に子ども向けのテレビ番組を見ているうちに、女性キャラクターと男性キャラクターの描かれ方の違いが気になったといいます。

男性に比べて、女性の登場人物の人数が少なく、女性が映っている時間やセリフの長さが短ければ、“女の子は男の子ほど大切ではない”というメッセージを送ってしまうのではないかと、デービスさんは考えたのです。
しかし、デービスさんのこの考えを裏付けるデータや研究がなかったため、15年前、みずから研究所を立ち上げました。

女性は男性の“半分”

12月、この研究所のマデリン・ディ・ノーノ所長が来日しました。
国立女性教育会館が主催するセミナーで講演したディ・ノーノ所長は、女性が世界の人口のおよそ半分にもかかわらず、エンターテインメントやメディアでは、女性が登場する機会は限られていると訴えました。

そして去年、国際NGOと共同で、日本やアメリカなど世界20か国で、興行成績の高かった56本の映画に出てくる1859人の登場人物を分析した結果を紹介しました。
▽登場人物とセリフの長さを男女で比べるといずれも女性は33%で、男性の67%に対しておよそ半分。

▽登場人物のうち、女性が政治家や経営者などのリーダー的な立場として描かれるのは27%と、男性の42%より大幅に少なく、そのうえ、リーダーとして描かれる女性は、より露出の多い服装や、性的な対象として強調して描かれる傾向にあることがわかりました。

一方、広告はどうでしょうか。

去年(2018年)、世界23か国の133の広告を分析すると、▽登場した人物のうち、女性は全体の40%、▽露出の多い洋服を着ているケースが男性よりも3倍、多くなっていました。

ディ・ノーノ所長は、女性が性的に描かれることで、それを見る少女たちの自尊心の低下につながることを懸念しています。
「女性に主体性がないような描かれ方は『有害なステレオタイプ』だ。男女の不平等が強調されて取り上げられることに対して、男性は神経質になっている。だからこそデータや事実を示すことで、身構えることなく議論ができると考えている」

誰がカメラの後ろにいるのか?

では、メディアにおける男女の平等をどう実現し、男女のイメージや役割を固定化するような表現をなくすにはどうしたらいいのか。

ディ・ノーノ所長は、まずは作り手から変わるべきだと指摘します。
「制作において誰が決定権を持っているかということが大切。カメラの後ろ(制作側)にいる男女の比率が5:1なら、スクリーンに登場する女性も少なくなるでしょう。現状を改善する1つの方法は、制作者や脚本家、決定の場にもっと女性を増やすことだ」

変わろうとするメディア

こうした中、世界ではメディアが変わろうとする動きも出ています。

イギリスの広告基準協議会は、ことし6月から、テレビやインターネット、SNSにおいて、男女の職業や役割などに対する固定観念や、性的に強調した表現などの広告を禁止しました。
さらに、イギリスの公共放送BBCは、番組に出演する男女の割合を同じにすることを目指すために、去年4月に「50:50プロジェクト」を導入。
当初からこのプロジェクトに参加している66の番組のうち、女性の割合が半数だった番組は、はじめは27%でしたが、1年後には、74%にまで増えました。

“自己反省”

今回の取材で、ある専門家のことばが印象に残りました。

その専門家は、シンデレラや白雪姫などディズニー映画のプリンセスたちが、去年、上映されたある作品で、男性に助けてもらい、頼って生きていると思われていることに疑問を投げかけるシーンを引き合いに出し、こう指摘しました。
武蔵大学・国広陽子名誉教授
「製作者側が、過去の自分たちのプリンセスの描き方を批判的に見ている。時代によって人間の価値観は変わっていくもので、メディアはそれぞれの時代の価値観や表現を自己反省的に見つめ、これからの発信に生かすことが必要ではないか」
自分の発信するものが、時代の多様性を映し出しているのかと問い直す取材になりました。そして、これはジェンダーの問題だけではなく、人種や障害者、性的マイノリティーなどの描かれ方にも当てはまります。

メディアに携わる一員として、時代によって変わっていく価値観を敏感に感じ取りながら、自分の発信に生かしていかなければならないと感じました。
国際部記者
伊藤麗
民放記者を経て平成27年入局。盛岡局から国際部に異動しアジア・オセアニア担当。