僕らが“ちんじょう”したわけ

僕らが“ちんじょう”したわけ
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「思いっきりサッカーがしたい」

東京に住む小さな子どもたちの、切実な願いです。
その願いをかなえようと、導き出した手段が「議会への陳情」。

子どもたちがみずから考え、奮闘した300日。その日々を再現しました。
(首都圏放送センター記者 戸叶直宏)

突然のサッカー禁止令

僕は、板橋区に住む悠真(ゆうま)。地元の公立小学校に通う6年生だ。サッカーが大好きで、週末は所属しているサッカークラブの練習に参加している。平日の放課後も、同級生の栞人(かんと)や大誠(たいせい)たちと、8人くらいでサッカーをして遊ぶのが日課だった。

そう、あの日までは…。

ことし2月12日。下校したあと、いつもと同じようにサッカーボールを持って家を出た。自転車で向かったのは、旧板橋第三小学校。僕が生まれる前(平成14年)に廃校になった小学校のグラウンドだ。約束していなくても、ここに行けば誰かしらいる。毎日、飽きもせずに暗くなるまでボールを蹴るのが、何よりの楽しみだった。グラウンドに出ようとしたとき、いつも見かける男の子が座りこんでいた。
「どうしたの?」
「もう、ここでサッカーできなくなるんだって」
「え…うそだろ?」
『ボールの使用はできなくなりました』

貼り出された白い紙にこう書かれていた。
「旧第三小のグラウンドは、野球とサッカーが同時にできるくらい広くて、僕らにとっては、思いっきりボールを蹴ることができる貴重な場所。ここが使えなくなるなんて、最悪だ…」
児童相談所を建設する工事の影響で、グラウンドは白い壁で半分くらいのスペースに仕切られた。それでボール遊びが禁止されたのだ。

「とても悩んでおります」区長への手紙

旧第三小の校舎には、ボランティアセンターが入っている。顔なじみの職員の神元さんに文句を言った。

神元さんは、「うーん、不満があるなら、区に伝えるしかないよ」と困り顔だ。
「区に伝えるって…」
とりあえず栞人たちと区役所に行ってみることにした。首都高・板橋ジャンクションの近くにある区役所は、北館と南館があり、北館は13階まである大きな建物だ。どこに行けばいいんだろう?

窓口にいた職員に恐る恐る事情を説明すると、「区長への手紙」という制度があると教えてくれた。
「区長に直接お願いできるなら、一発じゃん」
文章は勝手に浮かんできた。夢中になって、みんなで思いの丈をびっしり書いた。
「ぼくたちは、小学5年生です。ぼくたちはボール遊びを、やる事ができなくなってしまったのです。その事から、ぼくらはとても悩んでおります。あたらしい公園などを作ってもらえれば、こうえいです。日本はとても狭い国です。しかもその中の、東京に、そのような場を作れなど、とてもむずかしい事です。だけどぼくらは、サッカーをしたいのです。おねがいします!!!」
それからおよそ1か月後、区長からようやく返信が届いた。期待して封を開けると、自分たちの手書きのものとは違い、機械で書かれた紙が1枚。
「ボール遊びができる公園は15か所あります」

「小学校の校庭を開放していますが、安全のため柔らかいサッカーボールでないと使えません」

残念な気持ちでいっぱいになった。
「低学年の子に当たったら危ないので、校庭では柔らかいボールしか使ったらいけないことになっている。そのことはもちろん知ってる。だからこそ、これまでのように遊べる場所をつくってほしいとお願いしたのに、全然答えになってないじゃん」

パス回しの日々

しかたないので、区長の手紙で紹介された近くの公園で練習することにした。でも、ボールで遊べるのは、フェンスで囲まれたスペースだけ。以前のグラウンドに比べると、広さは6分の1くらいしかない。

しかも、近所迷惑になるからと、フェンスにボールをぶつけないよう注意書きまで。思いっきりボールを蹴ることもできなければ、試合形式の練習もできない。

大誠も「フェンスに当てちゃうと、近所の人から『静かにしてもらえますか』って怒られるし、ちょっと怖いよな」って言うし、結局できるのはパス回しくらいだ。

遊び場ない?自分たちで調べてみた

4月。僕たちは6年生になった。

ほかにボールで遊べる場所はないのか。放課後の時間を使って、近くの公園を自転車で回ったり、区役所に電話をかけたりして、調べてみることにした。それでわかったことがいくつかあった。

広くて芝生のある公園
 午後4時半で鍵が閉まるため、放課後だとほとんど遊べない。
野球グラウンド
 団体の予約で90%以上が埋まっている。しかも当日に大人の付き添いが必要。
廃校になった別の小学校のグラウンド
 火曜と木曜は団体が使用。他の日は鍵がかかっていて入れない。
「みんなも言ってたけど、ホームページではボール遊びできるって書いてあるのに、看板を見ると禁止されていたり、利用時間が短かったりと、本当に不便だ」

議会へのお願い“陳情”

そんな僕らの相談に乗ってくれたのが、旧第三小のボランティアセンターにいた神元さんだ。
ボランティアセンター元職員 神元幸津江さん
「いつも元気よく遊んでいたのを見ていたので、本当に困ってるんだなと思った。彼らの思いを大事にしながら、どうサポートすればいいか考えた」
毎月のように神元さんと打ち合せをした。
「低学年の子どもやお年寄りは、サッカーボールがぶつかったら危ない」
「じゃあ、どんなルールがあれば、みんなが納得できる?」
「僕たち子どもの意見なんて、区役所には聞いてもらえる?」
その中で言われたのが「陳情してみたら?」だった。
「ちんじょう」…?
紹介してもらった区議会議員が、仕組みを教えてくれた。陳情の流れはこうだ。いちばん偉い議長が「陳情書」を受理したあと、まずは委員会で審査。それを通過すると、本会議で正式に認められるかどうかが決まるのだそうだ。
みんなで話し合いを重ねて、11月に書き上げた陳情書。

1.公園の利用終了時間を午後4時半から5時半までに延長してください
2.野球グラウンドをもっと一般にも開放してほしい
3.廃校になった校庭を利用できるようにしてほしい

ほかにも、野球やサッカーができる場所を増やしてほしいという意見も盛り込んだ。
「大人の力を借りたけど、自分たちの思いはちゃんと盛り込んで書けた」

区議会の委員会で…

板橋区議会に初めて出された小学生からの陳情。12月3日と4日、委員会で審査が行われた。さまざまな意見が出たそうだ。
「スペース確保の問題や、乳児や就学前の保護者など立場が変われば、当然、主義主張も変わっていく。幅広い視野で考えなければならない」

「そもそも老若男女が公園には集まるので、どういう基準で、どういう理由でルールが決まっているのか検証するべき」

「校庭の場合は、1年生から6年生までが、いろんな遊びをしているので、バットは使えないなど一定のルールは必要」
たしかに公園やグラウンドはみんなのものだ。僕らのような意見の人もいれば、反対の意見の人もいる。だから住民の代表の人たちが不公平にならないように決めるのが議会なんだって。

僕たちが勝ち取ったもの

審査の結果は、旧第三小で伝えられた。
「認められたら、『採択』で、また話し合うのが『継続』で、だめなら『不採択』だっけ?」
「そう。じゃあ、発表します。まず、1つ目の公園の時間延長、、、『採択』!」
「えっ…」「イ、イエーイ!!」
みんなで抱き合った。泣きそうになっていた。
僕たちが勝ち取ったもの。

1.公園の利用時間は春から秋にかけては夕方5時半までに延長
2.廃校の校庭は水曜日は利用可能に

野球グラウンドの一般開放については、「継続」で話し合われることになった。
板橋区子ども政策課 雨谷周治課長
「限りあるスペースを、子どもたちの遊び場に集中的にあてるのはなかなか難しく、公園であれば地域の住民の方との合意形成、スポーツ施設であれば登録団体との調整など課題はありますが、遊び場を充実させられるように、協議しながら進めていきたい」
「大人はこうやって話し合って決めているんだと知ることができた。行動しなければ現状は変わらなかったと思うので、がんばってよかった」
遊び場がなくなってから308日。僕たちの“戦い”は終わった。

もうすぐ中学校に進学するので、放課後にサッカーをする機会は減るかもしれない。でも、少しでも後輩たちのためになったのならやってよかったと、ちょっと誇らしくなった。
NHKでは、「子どもの遊び場」に関する当事者の声やさまざまなご意見を募集しています。NHKニュースWEBの中にある「ニュースポスト」というサイトがあります。こちらに投稿してください。
首都圏放送センター 記者
戸叶直宏
福岡局 横浜局で事件を担当した後、現在はマイノリティーをめぐる問題や事件の被害者保護、教育問題などをテーマに幅広く取材。趣味は合気道。