中国 100倍成長のEV市場に異変

中国 100倍成長のEV市場に異変
急成長を続けてきた中国のEV=電気自動車市場に今、異変が起きています。ことしの夏以降、月ごとの販売台数が前年を下回る状況が続き、通年でも前年割れの懸念が出ています。巨大EV市場、中国で何が起きているのでしょうか。(中国総局記者 吉田稔、広州支局記者 馬場健夫)

レクサスEV発表~相次ぐ新型EV

11月に中国南部の広東省で行われた広州モーターショー。次世代のコンセプトカーなどが多く出展される北京や上海でのモーターショーと異なり、各メーカーが実際に販売するモデルを多く出展することから、各社の販売戦略がより如実に表れる商業色の強いモーターショーと言えます。その広州モーターショーのことしの主役もEVでした。
まず、注目を集めたのが「トヨタ自動車」です。高級ブランド「レクサス」のEVモデルを世界で初めて公開しました。長年、ハイブリッド車で培ってきたモーターの制御技術などを最大限いかしたと言います。
「高級車市場は堅調に推移すると見ている。中国は車の電動化に最も積極的な国であり、レクサス初のEVを発表するのにふさわしい場所だ」
一方、アメリカの「テスラ」は、上海の工場で製造を始めたEVを展示しました。上海工場はテスラ初の海外工場で、地元政府も「中国の自動車市場開放の象徴」として強く後押ししています。「特斯拉(=テスラ)」のロゴが入った「上海製」の車で中国市場の攻略にさらに力を入れる構えです。
地元メーカーも負けてはいません。広州の「小鵬自動車」は、2020年春の発売を目指す新型セダンを披露しました。
時速100キロに達するまでの時間は4.3秒。1回の充電で650キロ走ることができるという高い走行性能を売りにしています。創業からわずか5年のこのメーカー。これまでも、音声認識機能付きのAIを装備し、カーナビなどほとんどの操作を音声でできるEVを投入し、注目されていました。

100倍成長のEV市場に異変

各社がしのぎを削る中国のEV市場。しかし今、異変が起きています。中国政府はEVやPHEV=プラグインハイブリッド車などを成長産業の柱と位置づけ、購入に手厚い補助金を支給し、支援してきました。その結果、2012年には1万2000台余りだったEVなどの販売台数が、去年は125万台余りと、実に100倍に急成長しました。それが、ことし夏以降、一変しています。7月の販売台数が前年同月比でマイナスに転じると、10月にはマイナス45.6%とほぼ半減となりました。11月も40%以上の落ち込みとなり、通年でも前年割れに陥る可能性が高まっています。
その理由が補助金の削減です。中国政府はEV産業に手厚い補助金を支給してきましたが、実はその規模を年々縮小しています。支給額を減らすだけでなく、1回の充電で一定の距離を走行できなければ補助金の対象から外すなど基準も厳格にし、性能の引き上げを図ってきたのです。「補助金漬け」では産業は育たないということを理解し、メーカーの体質強化を促しています。さらに、ことし6月下旬には、中央政府(国)と地方政府がそれぞれ支給してきた補助金のうち、地方政府分を原則廃止。さらに、性能基準を引き上げた上、額も絞り込んだのです。その結果が、7月以降の大幅な販売減少につながっています。

訪れるとう汰の波

このため業界のとう汰も始まっています。中国でEVやPHEVメーカーとして登記した会社は500近くあると言われています。このうち実際に車を製造したのは60社ほど。さらに45社は生産台数が1万台に満たない状況です。補助金目当てで参入したものの、採算が合わず撤退していくケースもあるのです。
11月中旬、北京から南東およそ150キロにある、天津郊外の自動車工場を訪ねました。ここは北京に本社のある自動車メーカーがEVなどの生産ラインとして2016年に建設しました。敷地面積は30ヘクタール以上。地元メディアによりますと、年間45万台の生産能力があります。しかし、平日の日中にもかかわらず工場に人気はなく、正門横の詰め所に数人のガードマンらがいるだけでした。
敷地の裏にまわると数百台ともみられる完成車が野ざらしにされ、中には窓が割れたり、タイヤがパンクしたりした車も何台もありました。工場にとどまっていた会社関係者の男性に話を聞くと、「工場はだいぶ前に操業を停止した、取材には応じられない」と言葉少なに話すだけでした。

会社のホームページなどによりますと、この会社は2000年にガソリン車の製造・販売を開始。2016年にEV事業に参入し、セダン型や小型のモデルを販売していました。ただ、この2車種とも発売2年目には補助金の対象から外れてしまっています。このため販売実績が急速に落ち込み、事業を維持できなくなったとみられます。これについて、中国の自動車業界に詳しい専門家は次のように話しています。
「中国政府は2020年までにEVの購入補助金を廃止する方針だ。さらに、EVの製造ライセンスを引き締めるなど規制を強め、弱いメーカーをとう汰していくとみられる。中国のEV市場には日本やドイツの有力メーカーが本格的に参入してくる。今後、中国の地場メーカーは再編を迫られることにもなるだろう」

事業の多角化を進めるEVメーカー

生き残りをかけた競争が激しくなるなか、独自の取り組みを進めるメーカーも出ています。「中国のシリコンバレー」とも言われる広東省深セン(※土偏に川)に本社がある「BYD」です。BYDは2020年中に、トヨタとEV開発の合弁会社を作ることで合意するなど、中国を代表するEVメーカーです。そのBYDが今進めているのが「事業の多角化」です。
本社を訪ねた際、驚いたことが2つありました。1つ目は、街中を走るタクシーやバスのほとんどがBYD製のEVであること。2つ目は、本社工場にモノレールが走っていることです。敷地内の建屋や宿舎の間を縫うように、全長4.4キロの実験線が敷かれています。
モノレールには、EVで培った電気制御やモーターの技術がいかされ、5年間で50億人民元(約800億円)を投じ、1000人余りの技術者が研究開発にあたりました。地下鉄に比べて建設コストは5分の1、工事期間は3分の1に削減できると言い、大気汚染や交通渋滞に悩む都市への売り込みを図っています。これまでに100都市以上の関係者の視察があり、すでに寧夏回族自治区の銀川に導入されています。今後はブラジルやフィリピンなど、海外営業も強化する方針です。

このほかにも、空中の軌道の上をタイヤで走る小型バスのようなタイプも開発し、社内の従業員の移動用に運行しています。乗り心地はスムーズで、自動運転の技術が導入され、改札は顔認証技術も使われていました。都市交通事業を、EVに並ぶ事業の柱にしようという本気度が伺えました。
「このモノレールを世界各国で走らせたい。今後は電池や太陽光発電、LED、スマートフォンの委託生産など総合的に手がけていきます。未来は明るいですよ」
BYDはもともと、電池メーカーとして創業していて、今後は強みである電池の技術を生かして事業の多角化を進める方針です。

自動車販売の落ち込みと補助金削減の影響で、世界最大のEV市場、中国では競争が激しさを増しています。生き残りをかけた各社の独自の取り組みが、今後も加速しそうです。
中国総局記者
吉田稔
平成12年入局
経済部で財政や貿易などを取材
広州支局記者
馬場健夫
平成19年入局
秋田局、名古屋局を経て国際部
おととし7月から広州駐在