“危険な遊具”1万基 なぜ?

“危険な遊具”1万基 なぜ?
子どもたちが遊ぶ、公園の遊具。
過去に作られ、安全基準を満たしていない遊具が、今も多く使われているって知っていますか?
NHKが取材した結果、重大な事故につながるおそれがあることがわかった後も、全国の公園で使われている「危険な遊具」が少なくともおよそ1万基あることがわかりました。
一方で、保護者からはできるだけ遊具を使えるようにしてほしいという声も。難しい課題が浮き彫りとなっています。
(遊具取材班 記者 鈴木博子・佐々真梨恵・目見田健・野田綾)

放置された“危険な遊具”

ことし10月。長野県飯島町の公園で、回転式の遊具が突然倒れて、遊んでいた小学生7人がけがをしました。
回転する軸が根元から折れたのです。
町は、この遊具がことし1月の定期点検で構造上、安全に問題があるとして「修繕が終わるまで、使用を禁止すべき」と報告を受けてました。
しかし、対策がとられないまま遊具は、そのまま使い続けられていました。
町の担当者
「構造上の危険があるという点検業者からの指摘について認識が甘く、劣化も進んでいないから、次年度の計画の中で修繕などの対応をすればいいと考えていた」

まさか自分の子どもが…

「娘が顔中、血だらけで家に帰ってきたので、事故にでもあったのかと思ってパニックになりました」
公園で長女がけがをした京都府長岡京市の母親(46)に話を聞くことができました。
7年前、当時3歳の長女が祖父と近くにある公園に遊びに行ったときのことです。女の子が滑り台で遊んでいたとき、付近で「何か」につまずいて転倒。さらに滑り台の近くには、地中に埋まった大きな石が一部だけ露出していて、顔をその石に打ちつけたのです。
女の子は、おでこを4針縫うけがをしました。
女の子に「けがをしたときの記憶はある?」と聞いてみたところ「こけておでこに固い物があたったことはなんとなく覚えてる。痛かったという記憶はないけど、おじいちゃんが驚いて騒いでた」と話していました。女の子の記憶は鮮明ではないものの、おでこには、今も当時の傷痕が残っていました。
母親は「『まさか自分の子どもが』と思いました。そこまで大きなケガではなかったのでよかったですが、重大な事故になっていたらと思うと怖いです」と話していました。

いずれも構造に危険の可能性

長岡京市は、この事故を受けて、地面から露出していた滑り台の基礎とその近くにあった大きな石を撤去しました。
市は「子どもの転倒の原因が判然としないものの露出していた滑り台の基礎につまずいた可能性も否定できない」と判断したということです。
長野県と京都府でそれぞれ起きた2つの事故の共通点は、遊具が「老朽化」や「劣化」など、利用者が見て危ないとわかるものではなく、そもそもの「構造」、遊具のつくりに危険性があった可能性があるということです。

「危険な遊具」とは

遊具メーカーなどで作る「日本公園施設業協会(JPFA)」は、平成14年に「遊具の安全に関する規準」を作成しました。
これを使って遊具の形状や構造を見る「基準診断」などで点検を行い、「命の危険や重い障害につながる事故のおそれがある」と判定されたものを今回、「危険な遊具」だと考えました。
例えば、この滑り台は「手すり」と「階段」が危険と指摘されました。
どちらも、隙間に首が挟まってしまい、宙づりの状態となってしまう可能性があるため、命を落とすおそれがあるとされました。
土台の部分は、コンクリートが露出しているため、頭をぶつけるなどして、大けがをするおそれがあるということです。
平成14年より前に作られ、この安全基準を満たしていない遊具が、現在も各地の公園で使われているのが現状です。
日本公園施設業協会の担当者
「自治体の担当者が参加した講習会などで、遊具の安全性の確保に向けた点検の強化や、危険性がわかった場合の修繕・撤去など、対応の徹底を引き続き呼びかけていきたい」

12年間で133件

遊具での事故はどれほど起きているのか。
公園の遊具で遊んでいた人が死亡、または全治30日以上のけがをした事故や、そうした結果を招くおそれがあった事故について、国土交通省はその概要を報告するよう、公園を管理する自治体に求めています。
NHKでは国土交通省に情報公開請求を行い、平成19年度以降、国に報告があったすべての事故について、その内容を分析しました。
その結果、昨年度までの12年間に全国37の都道府県で、合わせて133件の事故が起きていたことが分かりました。
▽死亡事故:1件
平成20年、愛知県豊田市の公園で、ブランコで遊んでいた小学2年生の女の子が誤って転落。戻ってきた台座が頭に当たって死亡
▽大けが:76人
骨折や指の切断といった大けが
事故の内容
▽遊具が倒れたり、壊れたりしたことによる事故:52件(約4割)
▽露出していたボルトやくぎ、それにコンクリートの基礎部分に体の一部をぶつけ、けがをした事故:9件
国土交通省の担当者
「不十分な点検が原因とみられる事故も起きていることから、点検が確実に行われるよう指導するとともに、危険な遊具については自治体が撤去したり、改修したりするための費用を支援し、事故を防ぎたい」

全国の自治体に独自調査

「危険な遊具」は、全国にどれほどあるのか。
国や自治体が管理する都市公園の遊具について、昨年度から年1回の点検が法律で義務づけられました。
NHKは、ことし9月から10月にかけて全国の県庁所在地や中核市、政令指定都市、東京23区の合わせて106の自治体に遊具を点検した結果などをアンケート調査し、95の自治体から寄せられた回答を集計しました。
その結果、業界団体の基準に基づいて構造上の安全性を点検していたのは67の自治体で、合わせておよそ9万基の遊具のうち、17%にあたる1万5300基余りが「命の危険や重い障害につながる事故のおそれがある」と判定されていたことがわかりました。
さらに、このうち66%にあたるおよそ1万基は、そのまま使われ続けていました。
こうした遊具では、滑り台の手すりなどの隙間に子どもの首が挟まったり、鉄棒などでコンクリート製の基礎が地面から露出し落下した際に、頭を強く打ったりする危険性が確認されました。
使用を継続していた39の自治体にその理由を複数回答で尋ねました。
「利用者の利便性を考慮した」:26自治体
「予算措置が困難」:21自治体
「どのように対応するか決まっていない」:5自治体
「使用禁止にする義務がない」:3自治体
国土交通省は、公園を管理する自治体などに示した遊具の安全確保に関する指針の中で「生命に危険を及ぼす、重度又は恒久的な障害をもたらすなどのおそれがある危険は、早急に取り除く」としています。
今回の結果について、国土交通省は「危険性に応じて使用中止や修繕など、適切な措置を講じるよう求めたい」としています。

“一斉に使用禁止” 戸惑いも

岡山市では、ことし3月から5月にかけて465か所の公園にあるおよそ700基の遊具を一斉に使用禁止にしました。
いずれも点検の結果、構造上や劣化による危険性がわかった遊具で全体のおよそ40%にあたります。
公園にあるすべての遊具が使用禁止になった公園も19か所ありました。
岡山市は利用者の安全を最優先に考え「事故を未然に防ぐという観点から使用禁止に踏み切った」ものでしたが、住民からは思わぬ反応がありました。
公園を利用する保護者
「近所の公園で滑り台が使えなくなって、息子もがっかりしている」
「遊具が使えないことを知らず、『立ち入り禁止』と書かれていて驚いた。早く知らせてほしかった」
多くの遊具が一斉に使えなくなったことや、その周知が遅れたことから戸惑いの声があがったのです。

使えないまま半年以上

使用禁止から半年以上がたち、改めて岡山市内の公園を巡ってみました。
11月22日現在、撤去や修繕が完了している遊具は6割ほど。
多くの親子連れでにぎわう公園で話を聞くと、近所の公園の遊具がまだ使えないことから、車で20分以上かけてやってきたという人もいました。
公園を利用する保護者
「子どもは遊具で危ない思いをしながら危険を学んでいくものだから、ここまでする必要はない気がする」

独自の判断で使用継続も

一方で、すべての遊具を使用禁止にしない自治体もあります。
東京 中野区では昨年度、500基ほどの遊具について点検を実施。その結果、3割にあたるおよそ160基の遊具が危険性があると判定されました。
中野区は、一斉に使用禁止にすれば修繕などが終わるまで長期間遊具が使えなくなることから、区民に大きな影響が出ると考えました。そのため、これまでの日常的な点検を踏まえ、すぐに事故につながる危険は少ないと独自に判断した遊具は、そのまま使い続けることにしたのです。
このため来年度中に撤去・修繕の工事が始まるまで、そのまま使われ続ける遊具もあります。
公園を利用する保護者からは、段階的な措置に比較的肯定的な声が聞かれた一方、「目に見えない危険がある遊具で子どもだけを遊ばせるのは怖い。そのまま使える期間はなるべく短くしてほしい」という母親もいました。

新しい遊具決定に住民の声を

中野区では危険性がわかった遊具のそばに「手すり等の隙間が広く、頭部や胴体を挟み込む恐れがある」などと看板を設置して住民に情報を周知したうえで「遊具の入れ替え意見を募集します」と新しい遊具の候補を写真やイラストで示しています。
調査員を公園に派遣するので、直接意見を聞かせてほしいとも書かれていました。新しい遊具に住民の声を反映しようという取り組みです。
安全でより利用しやすい公園を目指したいとしています。

点検結果を公表し地域で議論すべき

遊具の事故防止に取り組む団体「いんふぁんとroomさくらんぼ」の松野敬子代表理事は、次のように指摘します。
松野敬子代表理事
「危険な遊具はすぐに撤去すべきだが、子どもの成長のために、遊びの中の危険をどこまで許容するのかは、保護者や地域によって考え方が違う。ただ、それを判断するために、自治体は点検の結果を公表すべきで、そのうえで遊具を撤去するのか、使用を続けるのか自治体と住民がきちんと話し合って決めるべきだ」

遊具の安全 どう考える

今回の取材でわかったおよそ1万基の「危険な遊具」が全国の公園で使われ続けているという実態。
遊具の危険性を取り除きながらも地域の遊び場も確保しなければならない、難しい課題だと感じます。

ただ、取材を通じて感じたのは、このことが住民の間にほとんど知られていないということでした。自治体は点検の結果をきちんと公表し、そのうえで遊具の安全について自治体と住民が話し合っていくことが求められていると思います。

「危険な遊具」については、14日放送の「おはよう日本」の中で、詳しくお伝えします。また、遊具の安全性について私たちは引き続き取材を進めていきます。
皆さまからの情報提供をお待ちしています。
高松放送局 記者
鈴木博子
岡山放送局 記者
佐々真梨恵
ネットワーク報道部 記者
目見田健
ネットワーク報道部 記者
野田綾