健康・命を守るために~SNSの医療情報に注意~

健康・命を守るために~SNSの医療情報に注意~
自分や家族の健康に不安を感じたとき、病気の可能性や治療法をSNSや検索サイトで調べる人は多いのではないでしょうか。
しかし、インターネット上には、真偽や根拠が不確かな医療情報がまん延しています。そうした情報を鵜呑み(うのみ)にし、その結果、適切な治療から遠ざかってしまう人たちの存在が、いま大きな問題となっています。
不安や焦りが大きいと、誰もが陥ってしまう危険があります。
私たちは、命と健康を守る情報をどのように見極めたらいいのでしょうか。
わが子の健康に関する情報をSNSなどで調べ、戸惑った経験がある、子育て真っ最中のディレクター2人が現場に入りました。
(社会番組部 竹内はるか・映像センター 清水希理)

目についたのは、危険を強調する情報

「なんてばかなことをしてしまったのか、子どもたちに対して申し訳ない…」
初めてお会いした日、山本亜希子さん(仮名)は、涙で声を詰まらせました。ネット上にあふれていた「ワクチンが危険!」という情報ばかりを信じてしまい、次男が3歳になるまで、国が接種を推奨している「四種混合」や「水痘(水ぼうそう)」などのワクチンを接種させませんでした。

根拠が不確かな医療情報 なぜ信じてしまう?

山本さんはIT企業で働き、全国を飛び回るキャリアウーマンでした。自らを「もともとは慎重な性格」と話す山本さん。
インターネットで情報を得る際には、複数のサイトを見比べるなど、リテラシーも身につけていると考えていました。

そんな人が、なぜ根拠が不確かな医療情報に惑わされたのか。

山本さんは長男の出産後に子育てしやすい環境を求めて、見知らぬ土地へ引っ越しました。その後、夫が地方に単身赴任することに。山本さんは退職を余儀なくされ「孤独な子育て」が始まりました。
不安を抱えていた山本さんは、地域とのつながりを作ろうと、子育てサークルに参加し始めました。
その友人たちとSNS上でもつながったところ「ワクチンは危険」「添加物が入っていて身体に悪い」などという情報が頻繁に流れてくるようになったのです。

山本さんの長男はアトピー性皮膚炎だったため、食べ物や皮膚に触れるものには人一倍気を遣っていました。
そんな山本さんにとって「ワクチンに添加物」という情報は、衝撃的でした。
「ワクチンは危険なのかもしれない…」
山本さんは、動揺しました。
更なる情報を求め、インターネットで「ワクチン 危険」と検索してみると、「ワクチンの水銀で自閉症になる」「ワクチンは製薬会社の陰謀」などといった誤った情報や、ワクチン接種による副反応の危険を強調する情報がヒットしました。

山本さんは、次第にこうした情報を信じるようになっていき、次男にはほとんどワクチンを接種させませんでした。

ワクチンの安全性は?

ワクチンを忌避する人たちがよく問題にするのが、「有害な添加物が含まれる」ということです。
ワクチンの添加物は、ワクチンの中で細菌などが繁殖することを防いだり、品質を安定させたりすることを目的に加えられています。
たとえば、水銀化合物の「チメロサール」。アメリカのCDC=疾病対策センターによると、「チメロサール」は抗菌作用がある保存剤で、体内に蓄積されにくく、「エチル水銀」と「チオサリチレート」に分解されて素早く排出され、これまでに安全上の問題を引き起こした証拠はないとしています。
「水銀」という響きだけで恐ろしいと感じる人も少なくないと思いますが、「エチル水銀」は、かつて水俣病を引き起こした原因物質の「メチル水銀」とは別物です。
ワクチンを打たないまま感染症にかかると、重症化したり後遺症が残ったり、最悪の場合死亡することもあります。

ワクチンの普及によって、感染症の発生数は減少しています。
国立感染症研究所の資料によりますと、たとえば、はしかは、かつては年間10万人以上がかかり、子どもを中心に年間1000人以上が亡くなる病気でした。日本国内では1966年にワクチンが導入された後、患者数は年々減っていきました。
国立感染症研究所によりますと、すべての患者を報告する仕組みが始まった2008年には、ワクチンを十分受けていなかった10代を中心にはしかが広がっていて、患者数は1万1013人に上りました。
その年には、無料でワクチンを受けられる対象の年代を広げる対策が取られ、患者数は、5年後の2013年には232人に減りました。その後も2008年に比べて、95%以上減少した状態が続いています。

しかし、ワクチン接種によって副反応が起こる可能性があるため、「100%安全」だとは言えません。
はしかについて言うと、一般に多く接種されている、はしかと風疹の混合ワクチン(MR)の接種回数は、2013年4月からことし8月末までに合わせて1662万回あまりで、このうちの418件、率にすると0.0025%に発疹や発熱、けいれんなどの副反応が出たと厚生労働省に報告されています。

このように、ワクチンによって感染症にかかる人を減らせるというベネフィット(利益)と、ワクチンによる副反応というリスクを天秤にかけると、ベネフィットの方が大きいということで、厚生労働省は、多くの感染症についてワクチン接種を推奨しています。

「孤独な子育て」頼りはネット情報

今回私たちは、山本さん以外にも過去にわが子にワクチンの接種をさせなかった経験がある複数の人たちに話を聞きました。

全員に共通していたのは「初めての子育て」「親が遠方や夫が多忙などにより、孤独な子育て」であること。
そして「わが子の健康を心から願う親たち」であることでした。

子どもの健康に関して不安を感じたときに、頼りにしがちなのが手軽に情報を検索できるインターネットです。
話を聞いた人の中には、フェイスブックやインスタグラム、ツイッター、個人のブログなど、専門家の意見ではなく個人の体験を参考にしているという人もいました。

どう見極める?SNSの医療情報

補完代替医療に詳しい島根大学医学部附属病院臨床研究センターの大野智教授は、SNSなどで医療情報を見る際に注意すべき点としていちばん大事なのは、自分が誤った判断をしうることを自覚することだと指摘します。
そのうえで「自然なものは身体によく、人工的なものは身体に悪い」などと、ものごとの白黒をつけたり、単純化したりしている情報は注意が必要だと言います。
また人は感情が揺さぶられると正常な判断ができなくなります。
「感情」に訴えるような情報も要注意です。
2つの例を紹介してくれました。
ひとつは「希望系」。病気に悩んでいる人に希望を与えるような情報です。「××だけ飲めば病気が治る」「××さえすれば、病気知らず」といった情報には注意が必要です。
もうひとつは「恐怖系」。命に関わることを突きつけて脅迫するような内容で、「××を食べると病気になる」「××をすると死ぬ」といった情報です。

また大野教授は「子どもや妊婦、将来世代に害をもたらす」「死、病気、けがの恐れがある」などといったケースでは、人はリスクを過大視してしまう傾向にあるという研究も紹介してくれました。

SNSも上手に使って!

一方でSNSの情報も、使い方を誤らなければ、子育ての強い味方だとSNSでワクチンなどに関する情報を発信してきた小児科医の森戸やすみ医師は考えています。
森戸医師
「お子さんが小さいとわざわざ本を読んで調べるのは難しい。そんなとき、SNSは簡単に情報を得られるとても便利なツール。だから上手に使えばいいんじゃないかと思います」
そのうえで森戸医師は「疑問や不安を感じたら、直接医師に相談してほしい」と話していました。

SNSやインターネットの情報は、手軽で便利である反面、使う側の知識やリテラシー、そして感情に左右されます。
こうした点を踏まえて、情報に踊らされるのではなく、うまく付き合っていくことが求められていると感じました。
社会番組部 ディレクター
竹内はるか
映像センター 映像制作
清水希理