銀行マンが副業!? 働き方改革がもたらす新たな可能性
ことし6月、ある地銀が行員の副業を容認するという発表が注目を集めました。銀行員といえばお堅いシゴトの代表格。その銀行で、しかも地銀で、なぜいま副業なのか。理由を取材すると、人口減少などで疲弊する地域経済を活性化させるヒントが見えてきました。(福島放送局記者 樽野章)
異例の副業容認、その背景は?
「えっ、地銀で副業!?」副業を容認したのは、福島県の東邦銀行です。経済分野の取材を担当する私は、この話を最初に聞いた時、とても驚きました。なぜなら東邦銀行は総資産5兆8500億円余り、118の店舗網を持つ福島県のトップバンクです。全国のほかの地銀を調べても、副業容認に踏み切るところは見当たりませんでした。そのねらいはどこにあるのか。私は北村清士頭取にインタビューを申し込みました。
北村頭取
「今回は一定の条件のもとで思い切って副業の容認を決断した。人口減少やマーケット縮小でわれわれの営業基盤もそう大きくなるとは期待できない。今までの本業に取り組むと同時に、新たな事業領域に進出し、業績に結び付けていくことが大きな使命だと思っている」
「今回は一定の条件のもとで思い切って副業の容認を決断した。人口減少やマーケット縮小でわれわれの営業基盤もそう大きくなるとは期待できない。今までの本業に取り組むと同時に、新たな事業領域に進出し、業績に結び付けていくことが大きな使命だと思っている」
北村頭取は、年を追うごとに金融機関をめぐる経営環境が厳しくなっていることを指摘し、新たな発想が生まれる仕掛けを行内に整える必要があったと語ってくれました。
歴史的な低金利や人口減少による市場の縮小。全国の地銀が同様の問題に直面するなかで東邦銀行が選んだのが副業の容認でした。銀行の枠にとらわれず、行員一人一人が本業以外で何ができるのか、真剣に考えてほしいという経営陣の思いがそこにはありました。
歴史的な低金利や人口減少による市場の縮小。全国の地銀が同様の問題に直面するなかで東邦銀行が選んだのが副業の容認でした。銀行の枠にとらわれず、行員一人一人が本業以外で何ができるのか、真剣に考えてほしいという経営陣の思いがそこにはありました。
副業で何をするの?
とはいっても、誰でも自由に副業を始められるわけではありません。副業を希望する人は申請書を提出し、月に1度、どんな業務を行ったか人事部に報告しなければなりません。これまでに副業の申請をした人はおよそ10人でその数はさらに増える見通しです。
私はその1人、馬場貴裕さん(38)に話を聞きました。仙台出身の馬場さんは、関西の大学を卒業後、まず大手の信託銀行に入行しました。そして地元東北に貢献したいという思いから、4年前、東邦銀行に転職しました。
信託銀行での経験をいかし、遺産の分配を代行する「遺言信託」など高齢者向けのサービスを主に取り扱ってきました。みずからの専門性を銀行で発揮してきた馬場さんがなぜ副業に取り組むのか、その理由を尋ねたところ、将来の銀行員の姿がどうなっていくか考えるようになったことが大きかったと話してくれました。
信託銀行での経験をいかし、遺産の分配を代行する「遺言信託」など高齢者向けのサービスを主に取り扱ってきました。みずからの専門性を銀行で発揮してきた馬場さんがなぜ副業に取り組むのか、その理由を尋ねたところ、将来の銀行員の姿がどうなっていくか考えるようになったことが大きかったと話してくれました。
馬場さん
「環境変化が早い世の中で、そもそも金融って何でしょう、銀行員って何でしょうと問いかけられる社会になっていくと思う。そのとき自分に何ができるのか、あなたにはどんな価値があるのかと、問われた時にこんな引き出しもありますと発信できる人材になっていきたい」
「環境変化が早い世の中で、そもそも金融って何でしょう、銀行員って何でしょうと問いかけられる社会になっていくと思う。そのとき自分に何ができるのか、あなたにはどんな価値があるのかと、問われた時にこんな引き出しもありますと発信できる人材になっていきたい」
“希少性”で生き残り
そんな馬場さんが目をつけたのが、「SDGs」に関するセミナーの講師になることです。最近聞くようになったこのSDGsということば、「貧困の撲滅」や「住み続けられるまちづくり」など、国連が定めた世界全体で達成を目指す17の目標のことです。その目標達成に向けて新たな技術開発などが進むことで世界全体で12兆ドルもの巨大な市場が生まれるという推計もあることから、いま国内の企業の間で関心が高まっています。
馬場さんは、都心だけでなく、福島のような地方でもSDGsに対する企業の関心が高まるとみて、ビジネスマン向けのセミナーを開こうとしています。セミナーに参加する生徒たちに人脈を広げ、さまざまな発想に触れることができれば、それが新たなビジネスにもつながり、銀行の仕事にもフィードバックできると考えているのです。
取材の中で馬場さんが繰り返し口にしたのが、“希少性”ということばでした。いくつもの専門性を持ち、専門分野で他の人に負けないようになることで生き残りを図ろうという強い思いを感じました。
馬場さんは、都心だけでなく、福島のような地方でもSDGsに対する企業の関心が高まるとみて、ビジネスマン向けのセミナーを開こうとしています。セミナーに参加する生徒たちに人脈を広げ、さまざまな発想に触れることができれば、それが新たなビジネスにもつながり、銀行の仕事にもフィードバックできると考えているのです。
取材の中で馬場さんが繰り返し口にしたのが、“希少性”ということばでした。いくつもの専門性を持ち、専門分野で他の人に負けないようになることで生き残りを図ろうという強い思いを感じました。
馬場さん
「これからの時代は“希少性”みたいな考え方が大事だと思う。人と同じことができても意味がないと思うし、自分が社会で希少な存在になることが会社への貢献にもつながる思う」
「これからの時代は“希少性”みたいな考え方が大事だと思う。人と同じことができても意味がないと思うし、自分が社会で希少な存在になることが会社への貢献にもつながる思う」
副業がもたらす新たな可能性
馬場さん以外にも、手話の通訳者として副業を始めている行員や、生まれ育った地元で子どもたちに英語を教えたいという行員、趣味で土日に行っている草野球の審判を副業にしたいという行員もいます。
もともと地方銀行は地元を代表する企業で、優秀な人材が集まった“人材の宝庫”ともいえる組織です。これまでは銀行の枠を越えてその能力を発揮することができませんでしたが、副業容認でそれが可能になりました。
人口減少によって急速に活力が失われていく地方にあって、銀行員が本業以外でも活躍し、地域経済を少しでも上向かせることができるのか、働き方改革がもたらす新たな発想に期待したいと思います。
人口減少によって急速に活力が失われていく地方にあって、銀行員が本業以外でも活躍し、地域経済を少しでも上向かせることができるのか、働き方改革がもたらす新たな発想に期待したいと思います。
福島放送局記者
樽野 章
平成24年入局
室蘭局、札幌局を経て
福島の地域経済や原発被災地を取材
樽野 章
平成24年入局
室蘭局、札幌局を経て
福島の地域経済や原発被災地を取材