黒タイツがダメなワケ 校則とのたたかい

黒タイツがダメなワケ 校則とのたたかい
あなたの会社にストッキングの色まで指定する規則が、もしもあったらどう思いますか?
そんな規則、本当にあるの?と思うかもしれません。
でも、あるんです。
それは会社ではなく、ある高校の校則。
「校則だから、しかたないんじゃないの」
「昔からそんな問題はあるって」
そんな声も聞こえてきそうですが、ちょっと事情が違うようです。
(岐阜放送局記者 吉川裕基)

謎のルール

ある日のこと、1本の電話がありました。
「寒冷地の高校で、生徒たちが黒いタイツをはかせてほしいと学校に訴えているんだけど、なかなか認めてくれない」
状況が飲み込めなかった私。

さらに話を聞くと、その高校では女子生徒は “ベージュ色に限って認める” という校則があるため、黒はダメだというのです。

寒いからタイツくらい認めれば、いいんじゃないか。
校則で決められているなら、それなりの理由があるのでは。
そもそも校則でタイツの色まで決めるの?

そう思った一方で、ふと中学時代の記憶がよみがえりました。
それは、私たちのクラスで “黙食” と呼んでいた「謎のルール」。
昼食を黙って食べるというものです。
「楽しく話しながら食べたい」という生徒の声に、教師は「黙って食べろ」と一喝。
何かがおかしいと思いながらも、「先生の言うことには従っておいたほうがいい」「その程度のことで怒られるのもばかばかしい」と、多少の違和感があったことを思い出しました。

見た目が不自然なんです!

岐阜市から北におよそ100キロ。飛騨の山々に囲まれた高山市。
冬は気温が氷点下となり、積雪は数十センチに達します。
この山あいの町に、黒タイツはダメという校則に「異議あり」と、声を上げた生徒が通う県立斐太高校があります。
卒業式のあと、生徒たちが制服のスカーフなどを川に流す「白線流し」で知られる130年以上の歴史がある進学校です。
迎えてくれたのは、生徒会の中心メンバー3人。

私は率直に聞いてみました。
「なぜ、ベージュが嫌で黒のタイツにこだわるの?」

女子生徒の1人が即答しました。
「ベージュのタイツは見た目が『もも引き』みたいでダサい」

確かに…。
オシャレでなくても、ダサい格好は嫌だという気持ちは、私にも理解できます。
でも、氷点下の中、多くの生徒は靴下だけで登校していました。
寒さを我慢するほど、“ベージュ” は嫌なのかと驚きました。
生徒手帳に校則が書かれていました。

女子生徒の服装について「白いソックスの下にベージュのストッキングをはいてもいい」と規定されています。
そのうえで、ストッキングだけでなく「ベージュのタイツとスラックスを防寒用に着用してもよい」となっているそうです。
女子生徒
「ストッキングじゃ寒いし、タイツは見た目が不自然。スラックスは、取扱店にあったとしても1着1万円ほどもするので、簡単には買えない」
見た目や健康への心配、さらには経済的な負担。
生徒たちが理不尽だと感じる理由はわかりました。
そして彼女たちが校則を変えたいと訴えているのには、これとは別の理由がありました。

理不尽に立ち向かう

写真は、女子生徒の1人が、大学ノートに校則を変える決意をつづった文章です。
『冬場の女子生徒の黒タイツ着用。これまで真っ当な手順を踏んで戦ってきましたが、子どもの力だけでは限界があると感じました』
生徒たちの切実な思いが感じられるこの文章は、保護者に協力を求めるためのものでした。

話は、ことし2月までさかのぼります。
▽作戦1:実態調査
生徒会が、まず着手したのが学校では全く見かけない「スラックス」の実態調査です。
生徒への聞き取りでは、大半が校則にスラックスの記述があることを知りませんでした。
さらに、驚くべきことに高校近くにある2つの制服取扱店では、学校の指定するスラックスが売られていないことも分かりました。
ところが、この調査結果をぶつけて改めて黒タイツを認めてほしいと申し出たところ、学校側が出した答えは「NO」でした。
「(ベージュのタイツを)嫌だからはきたくないは、主観の問題」という回答でした。

“黒いタイツがいい” という生徒。
それを「主観の問題」だというのなら、“ベージュがいい” というのも同じように「主観の問題」になるはず。

生徒たちが、なぜ黒のタイツにこだわるのか。
その理由は、理不尽さを訴える生徒に対して、この校則がある意味を説明できない学校側の姿勢への不信感だったのです。
▽作戦2:アンケート
生徒会は諦めません。
学校側を説得する次の方法は、生徒や保護者へのアンケート。校長が「黒タイツを何人が求めているか分からない」と言っていたのを逆手にとる作戦です。
そもそも校則を改正する手続きは明文化されていません。そのため黒タイツ着用の是非や、出身中学で黒タイツが認められていたかどうかなどをアンケートで聞き、計1300人余りが答えてくれました。
その結果、黒タイツの着用に賛成は9割近く。
中学校では、1校を除いて黒タイツが認められていたことも分かりました。
冬の寒さを心配する保護者たちからは「子どもたちの体を思いやっていただきたい」と校則改正を求める声もあがりました。

学校側「NO」の理由は…

「これはいける」
ことし7月、生徒会は、客観的な事実を積み重ね、自信満々で再び校長に校則の改正を求めました。

ところが、2か月もたってようやく返ってきた答えは、またしても「NO」でした。
「見た目については主観の問題」
「防寒対策には、ベージュのタイツもある」
校長は従来の説明を繰り返したと言います。
校長
「やっぱり紺のセーラー服、紺のスカート。そして白のソックス。これが斐太高校の制服ですよというふうにずっと見てきたし、見られてきた。周囲の高校は、紺だったり黒のタイツだったりするので、それとの区別というか。斐太高校はこうだっていう、そこへのこだわり。それを覆すだけの理由が出てこなかった」
生徒会女子生徒
「手順を踏んで最大限やったのに納得いかないし、憤りを感じました」
「私たちの意見ってなんだろう、というのが本心です」
そして、生徒たちが最後に望みを託したのが、交渉の中で学校側が約束していた保護者や卒業生を交えた会議でした。
女子生徒は、切実な願いと、これまでの「戦い」の経緯をつづった文章をまとめたのです。
思いは、保護者や卒業生に届き、会議では全会一致で黒タイツを容認。
これをきっかけに学校側の姿勢が一変しました。
校長
「保護者の意見、さらに同窓会の意見を交えて出てきた意見なので、当然重く受け止めたい。ベージュである必要性はないだろうということで、OKに転じました」

校則って何?

本格的な冬が近づく11月中旬。黒いタイツをはいて登校する斐太高校の生徒の姿がみられました。
生徒会の要望から半年余り。
違和感や理不尽さと正面から向き合い続けた末に得た “成果” でした。

一方、高校生たちが数か月にわたって必死で変えようとしていた校則は、「こういうものという認識」で変えられなかったり、「保護者や同窓会の意見」で、180度変わったりする何ともフワッとした “決まりごと” なのか。

あふれる校則への疑問

実は、生まれながらの髪の毛の色を染めるよう強制させたり、柄の入った下着を没収させたり、課外活動を強要させたりするなど理不尽な校則、いわゆる “ブラック校則” がある学校の話題はネット上にあふれています。

専門家「背景に “学校まかせ” 」

校則問題に詳しい名古屋大学の内田良 准教授は、今回のケースについて、次のように指摘します。
「実際に黒タイツをはいて、生活している人がたくさんいるわけで、世の中で当たり前のように認められていることが、学校の中で認められていないのはおかしい」
また、厳しい校則の背景には、さまざまな問題を “学校まかせ” にしている地域の目があるといいます。
「夜遊びの子どもたちがいると地域の人が学校に連絡してくる。学校外の時間のことは、本当は住民や警察が対応するべきなのに、学校に全部丸投げしている。先生たちは、地域の目を非常に気にしていて、子どもの身なりを整えて地域の目に触れさせれば、学校が子どもをちゃんと指導しているとアピールできる。 “厳しい校則” が学校にとっていい効果を持っているわけなんです」
そのうえで、内田准教授は次のように指摘しました。
「昔から決まっているからというのでは、上から降りてきたルールをそのまま受け止めるだけの生徒になってしまうので、常に、このルールが必要かと考える生徒を育てるのが、教育の仕事だと思います」