羽生結弦の現在地 そして未来へ

羽生結弦の現在地 そして未来へ
その視線は、力強く鋭い時もあれば、優しく穏やかな時もある。
発することばは、常に真摯(しんし)だ。
聞き手の問いかけを正面から受け止め、みずからの考えを正確に表現しようとする。
そのことばは、時に私たちをハッとさせ、時に深く考え込ませる。
イタリア・トリノでのグランプリファイナルを戦い終えた羽生結弦選手。今シーズンの彼のことばから「羽生結弦」の現在地と、少し先の未来を探る。
(スポーツニュース部記者 田谷亮平)

“羽生結弦になれない-”

今シーズン羽生は、たびたび、幼い頃に思いをはせた。
9歳の時の“自信の塊”みたいだった自分が、今の羽生結弦を励まし続けている。そして今の“泥臭い自分”が、その思いに応えようとしていると。
「子どもの頃、心から好きで自信があることにすごく素直でいられた。
その時の自分に“お前、まだまだだろ”と言われている。
僕の根源にあるのは、本当に自分の心からやりたいこと、自信を持てるものをスケートで出したいということ。
今の大人になった自分と、小さい時に何でもできると思っていた自分が融合したら、最終的に“羽生結弦だ”と言える。
それが僕の理想像ー」
「本当に泥臭い人間で、昔から、器用に自分の中で納得できるというところまでぱっとできる人間ではなかった。
何回も何回も積み重ねて、磨き続けて、何とかここまでやってきている。
究極に磨ききれた羽生結弦っていうのを、自分では想像はできるけれど、体現はできていない。
なかなか羽生結弦になれないなと思いながら過ごしている」

“圧倒的に強い自分でー”

羽生はオリンピック連覇を達成しながらも、常に成長を目指し、高いモチベーションを維持して自分と向き合い続けている。
そのモチベーションの根本にあるものは、何なのだろうか。
「結局、勝ちたいのだと思う。
(昨季の)いちばん大きな試合である世界選手権で負けてしまって、そこそこ自分も出し切れたと思う状態でフリーでも勝てなかった。
その悔しさが今、自分のモチベーションになっている。
その悔しさを、なんとか晴らしたい。
圧倒的に強い自分でいたいと常に思っている」
「自分の夢は、ソチの金であり、ピョンチャンの金であり、そこから先を描いていなかった。
いま本当にこうやって強くなろうと、現役として最強でありたいと圧倒的でありたいと思えるのは、皆さんの期待のおかげ」

“プレッシャーがあるから…”

リンクに立ち、戦い続けることには苦しさが伴う。
オリンピック連覇を成し遂げた選手であれば、そこに周囲からの大きな期待やプレッシャーが加わる。
だが、そのプレッシャーがあるからこそ、苦しさに向き合うことができると言う。
「つらくて、逃げたいとか、こぼしかける時もある。
本当につらい、これ以上の努力はできないと思うくらいまで追い込むので、できなかったときにやっぱり苦しくなる。
それでも、その苦しみを越えてでも、ノーミスしたいと思ってしまう。
その原動力が周囲の期待なんだと思う」
「期待に応えなければ、という責任感みたいなものも、ものすごく強いし、なんとか応えたいと強く思ってしまう。
だからこそ、つぶされそうになることも多々ある。
結局、試合ではやるっきゃないって思ってやってるけれどー。
苦しくなるということはプレッシャーだと思う。
ただ、そのプレッシャーがあるから、それに応えたいとすごく思えるのだと思う」

“王様のジャンプ”

今月のグランプリファイナル。ショートプログラムで2位の羽生は、フリーを翌日に控えたリンクで、突然、4回転アクセルの練習を繰り返した。
試合では、世界で誰も成功していない4回転アクセル。
着氷はできなかったが、その高い壁に挑む姿勢こそ、幼い頃の自分自身そのものだった。
「ショートプログラムを終えた時点で、ネイサン・チェンに勝つのは難しいだろうと思っていた。
すると幼い頃の自分が、今の自分を見たときに“胸を張って自分がここで何かをやったのか”と言われているような気がした。
何かしら、ここで残せる何かをと考えたときに、4回転アクセルを決めることを思いついた」
4回転アクセルへ語る口調に、フィギュアスケートへの誠実な思いがにじんだ。
「演技構成点を頑張ったとしても、今の得点に5点加わるくらいだと思う。5点くらいであれば連続ジャンプを難しくすれば、もらえる点数なのかもしれない。
ただ、やはり、それでは僕の中でスケートをやる意味にならない。

自分にとって4回転アクセルは“王様のジャンプ”だと思う。
4回転アクセルをやったうえで、ジャンプだけでなく、フィギュアスケーターとして完成させたいという気持ちは強い」

羽生結弦の“ことばの力”

グランプリファイナルは優勝を逃したが、羽生が世界のトップスケーターであることにゆるぎはない。
多くの人が彼のことばに耳を傾けるようになり、ひと言の重みも増している。
彼自身は“ことば”について、どう考えているのだろうか。
「試合前に音楽を聞くと、歌詞の力、音の力がものすごくあるんだと常に感じている。
歌詞がすっと入ってきて、それが力になったり、重しになったり、悲しくなったり、楽しくなったり、いろいろあると思う。
その力を感じているからこそ、自分自身もことばにはすごく気をつけなければならないと思っている」
「自分のインタビューを聞いてくださる方も、テレビを通して見てくださる方も、取材している皆さんも、そうした人たちを悲しくさせるようなことは言う必要はない。
その人たちを最終的にハッピーに、幸せに、前を向くきっかけになるようなことを言うようにしていれば、実際に自分の耳に入ったときにも、自分が前を向ける。
そのことをすごく常に考えている」
「結局、表現者なんですかね。
ことばで表現しきれないからスケートが好きなんだと思います、僕は」
失うことのない高いモチベーション。
羽生は次のステップを見据えている。
(敬称略)
スポーツニュース部記者
田谷亮平