地獄を否定した悪魔 そのわけは?伝説のバンドKISS秘話

地獄を否定した悪魔 そのわけは?伝説のバンドKISS秘話
アメリカの伝説のロックバンド“KISS”が半世紀の歴史に幕を下ろす。最後の来日公演が始まった。それを前にベースとボーカル担当のジーン・シモンズさんが、ハリウッドの音楽スタジオでNHKの単独インタビューに応じた。
私はKISSを初めて聴いた35年前のことも思い出しながら、ロック界の巨人に質問を繰り出していった。
インタビューは40分間に及んだ。
(ロサンゼルス支局長 及川順)

悪魔が地獄を否定?

KISSといえば、独特のメイクや衣装が特徴だ。
そして、4人のメンバーはそれぞれキャラクター設定がされている。シモンズさんは「地獄からやって来た悪魔」
また、KISSのアルバムの邦題にはおどろおどろしいものが多い。「地獄からの使者」「地獄の叫び」「地獄の軍団」という具合に「地獄」の連発だ。
そんな「悪魔」のシモンズさんが突然意外なことを口にした。
「KISSは『われわれは地獄から来た』などと言ったことは一度もない。それは誰かがそう書いただけのことだ」
これはどういうことなのか。
一瞬頭の中が白くなり、次の質問がすぐに出てこなかった。
しかし、さらに話を聞いていくと、発言の真意がわかった気がしてきた。

健全な悪魔?

話は、ギターとボーカル担当のポール・スタンレーさんとのコンビが半世紀も続いている理由に及んだ。
「2人はコインの表裏のように完全に違う人間だ。われわれはあらゆることで一致しない。しかし、お互いを尊重することでは一致している。机には4つの脚があるが1つでも外れたら机は壊れてしまう。チームこそが、ほかのあらゆることよりもずっと大事なんだ」
しかし、ロックバンドには、2人の中心人物が仲たがいをした結果、活動が停滞し、最後には解散に追い込まれてしまう例も多い。

2人の間にもいろいろあったとは想像するが、結局は、ほかのバンドと何が違ったのか。
シモンズさんは、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーさんとキース・リチャーズさん、ビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーさんのコンビを挙げ、彼らのことも知っているとしたうえで、こう語った。
「とてもいい質問だ。ドラッグも酒もたばこもやらないことが重要だ。それが私が70歳になった理由だよ。顔の前に手を置いても、私の手が震えることはない。心身ともに実直であれば、自分以外の人が自分と同じように一生懸命ものごとに取り組んでいることが理解できる」
ロックミュージシャンというよりは、まるで学校の先生のような発言だ。
実直なプロフェッショナルであり続けなければ、第一線に残ることはできないというシモンズさんの信念を私に伝えることが、地獄を否定した理由の1つだと解釈した。
ただそれだけではないと思う。
アメリカ生活4年目で私なりに感じるのは、この国では、健康、健全、明るさなどという要素がとても重視されているということだ。
KISSというバンドのビジネスにも、例えば、家族で野球の大リーグ観戦に行くのと同じような健全性の要素が必要だとシモンズさんは考えていて、そのことを強調したかったのではないかと受け止めた。

魔法の時間

KISSは派手なパフォーマンスも売り物だ。
シモンズさんは、火を吹くなどの激しいパフォーマンスでファンの目をくぎづけにしてきた。
いまさらながら、派手なステージにこだわる理由も聞いてみた。
「交通渋滞でも、国際政治でも、つきあっている彼女に怒られたことでも、あらゆる嫌なことを忘れられる魔法の時間にしたい」
「アルバムは何百時間でも何千時間でも聴ける。しかし、コンサートは2、3時間だけなのにチケットはアルバムより高い。だからこそ歌舞伎のように最高のスペクタクルにしたいんだ」
しかし、さすがのシモンズさんでも派手なパフォーマンスを続けるのは容易ではないようだ。
そして、年を重ねたことがKISSが引退する理由だと語る。
「KISSを続けるのは簡単ではない。20センチのヒール、18キロの衣装を身にまとい、5キロのベースで演奏する。75歳まではとてもできない」
KISSにはノーメイクで活動していた時期もある。
私がKISSに出会った1980年代がまさにそうだった。
シモンズさんは、そのような形でのバンドの継続も考えたそうだ。
アメリカでもイギリスでも長寿のバンドは多いし、KISSがノーメイクでステージに立つことになっても支持するファンは多いはずだ。しかし、シモンズさんはこう言い放った。
「演奏だけしているバンドを見に行っても、退屈だ」
最高のスペクタクルを見せられない以上は、KISSではないというのが、シモンズさんらの出した結論だった。

気さくなロック界の巨人

あっという間の40分間だった。
撮影機材の片付けを終えてスタジオの外に出ると、車の運転席で私たちに手を振るシモンズさんの姿があった。
そして、ロック界の巨人はみずからハンドルを握ってスタジオを後にした。
ステージでは「悪魔」のシモンズさんは、オフではとても実直で気さくな人だった。
この実直さこそ、KISSが半世紀にもわたって活動を続けてきた原動力の1つだと感じた。
ロサンゼルス支局長
及川順

平成6年入局
政治部、アメリカ総局(ニューヨーク)などをへてことし6月からロサンゼルスに