知っておきたい「標準治療」とは違う「代替医療」とは

知っておきたい「標準治療」とは違う「代替医療」とは
「血液にオゾンを入れてがんを治療」「重曹殺菌と食事療法でがんは自分で治せる」抗がん剤や手術、放射線治療など、標準的な治療とはまったく異なるこうした治療法。「代替医療」と呼ばれ、とくにネット上で話題になり、次々に違うものが出てきます。治るのならば、なんでも試したいという患者さんも多いと思います。こうした医療、どうつきあっていけば良いのでしょうか。
(科学文化部 記者 水野雄太)

SNSで話題 “血液クレンジング”に批判と反論

ことし10月に投稿されたあるツイート。

「血液クレンジングなる医療をおすすめされたんだけど」

このツイートをきっかけに「血液クレンジング」が話題になりました。

100ミリリットルほどの血液を体の外にいったん取りだし、殺菌や漂白に使われる酸素の同素体「オゾン」を入れて体に戻すというものです。

ブロガーのはあちゅうさんや歌舞伎俳優の市川海老蔵さんなど、過去に何人もの著名人が受けたなどと、投稿をしていることが注目されました。

「血液クレンジング」を行っているクリニックのウェブサイトを見てみると、「血行の改善」「免疫の活性化」によって、さまざまな効能がうたわれています。

▽全身や筋肉の疲れの改善▽肩こり▽頭痛▽疲労▽冷え性▽関節リュウマチ▽ねんざ、それに▽がん▽血管にかかわる病気▽アトピー性皮膚炎など。

健康保険の効かない自由診療のため、1回数万円、全額自己負担です。

ネット上では、専門家などから「血液を体の外に出して体内に戻すだけなので安全だと思うかもしれないが、細菌に感染するリスクが高いのではないか」とか、「科学的根拠がない」といった批判が相次ぎました。

衆議院の厚生労働委員会でも取り上げられ、厚生労働省の医政局長は「自由診療で広がっていると言われているが、効果・リスクは確認できていない」と答えています。

血液クレンジングを行っている医師らでつくる「日本酸化療法医学会」の理事長は、取材に対して、「年間に全国で7万回近く行われていて、これまで患者さんの安全にかかわるような事態は報告されていない。ドイツ語では効果を示す論文が出ている」などと反論しています。

「重曹殺菌でがんは治る」とうたう新聞広告

「血液クレンジング」への批判が続くなか、11月には、別の“治療法”が批判の対象となりました。
11月12日朝、朝日新聞の紙面に大きく掲載された広告。

イタリア人医師「シモンチーニ博士」が開発したという、『重曹殺菌』と『真・抗酸化食事療法』を使えば、がんは自分で治せるとうたう本の広告です。

胃がん、大腸がん、肝臓がん、子宮がん、乳がん…。あらゆるがんが治せるという触れ込みでした。
直後から、医師らが「科学的根拠のない医療行為を宣伝する広告は掲載すべきではない」と一斉にSNSに投稿。

科学的な裏付け「エビデンス」がなく、国が法律で禁じる“虚偽や誇大広告”にあたる可能性もあると厳しく批判しています。

朝日新聞が声明「十分な検討を行うべきでした」

ツイッターの投稿は大きく拡散。

2日後、朝日新聞は、当該の“医師”が医学界から追放されたにも関わらず、その後、患者を死なせ、禁錮刑を受けたと現地メディアが報じていることを確認したと発表。

「媒体として十分な検討を行うべきでした」「掲載の判断にあたっては、内容に応じて慎重なチェックに努めてまいります」とする声明を出しました。

「代替医療」がん患者の半数以上が試みた経験

これ以外にも、「ビタミン療法」「免疫療法」「サプリメント」など、「代替医療」は数多く存在し、新聞やテレビ、ネット上に“患者の体験談”とともにあふれています。

この「代替医療」について、がん・感染症センター東京都立駒込病院の鈴木梢医師は、全国の緩和ケア施設で亡くなったがん患者の家族、およそ450人を対象にした調査を2016年に行いました。

その結果、がんと診断されてから亡くなるまでに、サプリメントや温熱療法、ある種の免疫療法など、なんらかの「代替医療」を試みた人は、全体の53%に上っていました。

「代替医療」には一部、保険適用されているものもありますが、多くは全額自費負担の「自由診療」です。

国が科学的な根拠(エビデンス)に基づいて安全性と効果を確認している「標準治療」とは異なり、「代替医療」は、日本では広く認められている「医師の裁量」に基づいて行われています。

「命はお金に換えられない」追い詰められる中で…

どうして、多くの患者が「代替医療」を受けるのか。

3年前、夫をスキルス胃がんで亡くした轟浩美さんのケースを紹介します。

夫の哲也さんは科学的根拠のある「標準治療」を受けましたが、がんは手の施しようがないほど進行しました。

轟さんは「なにかしてあげなくては」という思いから「代替医療」に走ったと言います。

海藻由来の成分「フコイダン」の錠剤、高濃度ビタミンCの点滴、しいたけエキス、にんじんジュース、「血液クレンジング」も…。

がんに効くという触れ込みのものを、ネットで調べたり、知人からすすめられたり、ときには医師に紹介されたりして、さまざまな「代替療法」を試み、総額800万円以上かかりました。

しかし、期待した効果は見られず、夫の体調は悪化し、「どうしてこんなことをしてしまったのか」という後悔が残ったと言います。
轟浩美さん
「『命はお金に換えられない』といろんな人から言われ、なんでもやらなくちゃいけないんだとしか考えられなくなっていきました。まったく疑問を抱かず、『効果がないのは、量が足りないから』と言われて、どんどんお金をつぎ込んでいました」「主治医の先生は、誠実に『標準治療』の限界をデータをもとに説明してくれていたと思います。しかし、お金を払いさえすれば、最先端の良い治療を受けられると思ってしまったのです」

「患者に寄り添わない医師にも問題」

患者が「代替医療」に走る背景として、医療者側の問題を指摘する人がいます。新聞広告の問題を提起した日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之教授です。

勝俣教授は、医療機関で受ける「標準治療」は、科学的根拠に基づき、現時点で最も効果が確認された医療で、「松竹梅でいうと、松だ」としたうえで、次のように指摘します。
日本医科大学武蔵小杉病院 勝俣範之教授
「治療を進める中で、これ以上治療法がないということが起こりえます。そのときに患者さんが『代替医療』を受けるというと、もう診察しない、という医師までいます。積極的な治療から痛みを取るケアへの段階に移るときには、患者や家族はつらい思いをしていることも多いので、冷酷に見えると思います」「『代替医療』に無関心な医師も多く、正確な情報発信を行う意識を多くの医師がもつ必要があると思います」
たしかに、血液クレンジングについて取材を始めたとき、多くの学会関係者や現場の医師は「コメントに値しない」「詳しくわからない」など、無関心な反応が多い印象でした。こうした対応で、患者や家族が不安に陥っていく現実があると感じました。

「医療行為の根拠調べているサイトを参考に」

「代替医療」を批判するだけでは、問題は解決しないと指摘する専門家もいます。

「代替医療」について研究してきた島根大学の大野智教授は、たとえば、血液クレンジングについても健康被害が出ないかぎりは、すぐに問題があるとは必ずしも言えないとしたうえで、次のように指摘します。
島根大学 大野智教授
「批判によって、その療法を受けている患者が、医師などに相談しにくくなると、実態がつかめなくなり、大きな問題が起こったときにも、表になりにくくなってしまう」
大野教授は、患者や家族が受ける医療を決める際に、科学的な根拠に基づいているか知ることが重要だとして、あるサイトを紹介してくれました。
「コクラン」のウェブサイト(https://www.cochrane.org/ja/evidence)
 NHKのサイトを離れます。

世界中の専門家が論文を検証して、医療行為に科学的な根拠があるか調べているサイト「コクラン」です。わかりやすく日本語に訳しているページがあります。すべての「代替医療」について検証されているわけではありませんが、参考にはなります。
「統合医療」情報発信サイト(https://www.ejim.ncgg.go.jp)
 NHKのサイトを離れます。

厚生労働省の事業で、「代替医療」などの情報の見極め方や海外の情報などをまとめたサイトです。
「がん情報サービス」のウェブサイト(https://ganjoho.jp)
 NHKのサイトを離れます。

がんの治療については、国立がん研究センターが運用する「がん情報サービス」。がんの種類ごと、進行度によって、科学的根拠のある治療がまとめられていて、参考になると紹介してくれました。

まずは「標準治療」理解を そのうえで「代替医療」判断を

自分や家族が難しい病気で治療の選択肢がなくなったときなどに、効きそうに思える“治療法”が提示されれば、「何でもしたい、してあげたい」という気持ちになるのは人情だと思います。

そんな「代替医療」にどう向き合い、つきあえばよいのでしょうか?

進行がんの夫のために、さまざまな「代替医療」を試した轟浩美さん。轟さんはいま、がん患者家族の会の代表として、科学的な根拠に基づいた医療を知ってもらおうと活動し、患者・家族と専門医の間をつなごうと、疑問や不安を話しあうイベントを開いています。
轟浩美さん
「国が不適切な医療に目を光らせて、規制をすることはもちろん必要だと思いますが、それだけでは不十分です。患者とその家族、そして将来その立場になる一般の人たちが “標準治療” “科学的な根拠のある医療” とは何かということを しっかり理解する必要があると思います」「イベントでお話しすると『標準治療がどういう治療なのか初めて分かった』『並の品質の医療という意味だと思っていた』という方もいます。『代替医療』が精神的な支えになるという人もいますので、私たち自身が理解を深めていき、そのうえで代替医療を受けるかどうか判断できるようになればいいと思います」
科学文化部 記者
水野雄太