魅力度1位の函館から人が消える?!

魅力度1位の函館から人が消える?!
新鮮な海の幸に、「世界三大夜景」とも言われる絶景。多くの観光客を魅了する北海道函館市で、ある異変が起きています。「行ってみたい、住んでみたい」と羨望のまなざしを向けられているはずの函館の異変とは。キーワードは…「子育て世代」。 (函館局記者 川口朋晃)

観光は大盛況だけど…

年間500万人以上が訪れる函館。外国人観光客は毎年過去最多を更新し、民間の調査会社が毎年選ぶ「市町村魅力度ランキング」では、札幌や京都といった大都市を抜いて2年連続で1位を獲得。国内外から高い人気を集めています。

近年は、増え続ける外国人観光客や北海道新幹線の札幌延伸などを見据え、ホテルの建設ラッシュも進み、現在公表されている建設計画だけを見ても、再来年までに10棟以上のホテルが開業し、部屋数にすると約3000室増加する見込みです。

でも、それとは裏腹に、民間の信用調査会社が行っている「市民の幸福度ランキング」を見ると全国の中核市の中でワースト3位。観光客と住民、それぞれに映る「函館」の評価に大きな差が生じているのです。

どんどん、人が出ていってしまう…

そして、今、函館は「人口減少」という深刻な問題に直面しています。

総務省の調査では、去年、人口が3571人も減少。その数は北海道内で最も多くなりました。さらに、転出者が転入者を上回る「社会減」も1300人と全国で3番目に多くなっています。
人口減少のスピードは速く、この10年間(2009年~2018年)で約3万人も減りました。「住んでみたい、行ってみたい」と人気のはずの函館からどうして人がいなくなるのか?

疑問を感じていると、取材中に市民から「『子育て世代』が隣のまちに引っ越している」という声が聞こえてきました。

総務省が発表している住民基本台帳のデータを調べてみると、函館に隣り合う北斗市と七飯町に移り住んだ人の数は毎年1000人以上、過去5年間では5605人にも上っていることが分かります。さらに40歳未満のいわゆる「子育て世帯」で見ると、全体の66%余りを占めていました。

さらば函館 そのワケは?

実際に北斗市に移り住んだ人に話を聞くことができました。3人の子どもを育てている塚田知歩さん(34)。函館を離れた理由は「子どもの医療費」だといいます。

10年前、長女をみごもったのをきっかけに自治体の子育て支援策を調べたところ、隣り合う北斗市では、高校卒業まで医療費が無料になると知り、引っ越しを決断したと話してくれました。

その後、次女が感染症にかかり、1週間ほど入院したときも、入院費や薬代を全て自治体が負担してくれたことで、安心して治療を受けられたということです。

塚田さんは子育てが終わるまでは北斗市に住み続けたいと考えています。
「函館に住んだ方が交通の便とかやはり良いと思う。だけど医療費の面を考えると、『無料』にはかなわない。子どもが小さいうちは北斗市から離れる気はないです」(塚田知歩さん)

子どもの医療費 住むまちで大きな差が

子どもの医療費助成制度。これには近隣自治体と函館では大きな開きがあります。北斗市と七飯町では家庭の所得に関係なく、子どもの医療費を高校卒業まで全額負担しています。
一方の函館市。所得や子どもの年齢によって支援が異なります。3歳未満は初診料を一部負担すれば、入院や通院費などは無料。3歳以上は市民税が非課税の世帯に限って中学生までは無償。市民税が課税されている世帯では、所得に応じ一部負担しなければなりません。

子育て世代は、この差をどう思っているのか。函館市内に住んでいる子どもをもつ母親らに話を聞いてみると…。
「引っ越す人がいると聞くし、子どもの医療費が無料になるのは、うらやましいなと思う気持ちもある」

「子どもが小さいと結構病院行くことが多いので、できれば負担してもらえるとありがたいなと思います」

衝撃の調査結果も

子育て世代に選ばれるためには、どのようなサービスを行うべきか。その参考にしようと、函館市はあるアンケート調査を行いました。

市内に住む子どもがいる4035世帯に聞いたところ、「子どもに医療機関を受診させなかったことがある」と回答した保護者のうち、実に22%が「お金がなかった」としています。子どもの医療費の負担が家計に重くのしかかり、治療を受けられないケースが少なくないという実情が浮き彫りになりました。

危機感を強めた工藤寿樹市長は「日本一の福祉都市を目指す」と宣言し、福祉政策に力を入れる考えを示したものの、新たな政策を打ち出すことができるほど市の財源に余裕はありません。
要因の1つが年々膨らむ「観光関連予算」です。外国語看板の設置や海外へのプロモーション、市営駐車場の維持管理、さらに増加するクルーズ船に対応するための岸壁整備などに多額の費用が…。全国有数の観光地だからこその、いわば「必要経費」に頭を悩ませているのです。

こうした状況を打開しようと導入を試みているのは、いわゆる「宿泊税」。観光に関わる経費は、ホテルなどの観光産業から収入を得て賄おうというのです。

子育て支援、充実させます!でも…

こうした模索の一方、函館市は、来年8月から子ども医療費の助成を一部拡充することを決めています。それでも、近隣自治体のようなサービスを行うのは難しいといいます。
「子育ての経済的な負担を軽減するよう、さまざまな意見が市に寄せられています。財政事情などによって近隣の自治体と取り組む施策に違いがありますが、まずは、比較的医療費のかかる幼い子どものいる家庭や、所得の低い世帯などへの支援を広げようと考えています」(函館市子ども未来部 佐藤ひろみ部長)

人口争奪よりも“役割分担”を

全国的な人口減少が続く中、各地の自治体どうしで激しさを増す「人口争奪戦」。

人口減少問題に詳しい青森公立大学の飯田俊郎教授は、「働く場所」と「住む場所」といったように、自治体が役割分担するなど発想の転換が必要だと指摘しています。
「今の子育て世代は『○○市、○○町』という街の名前に強いこだわりがなく、自分たちにとって最もいい場所を探るケースが多い。だからこそ、それぞれの自治体は近隣との勝ち負けを競うのではなく、互いに連携して都市圏をつくっていくという姿勢に転じるべきだ」(青森公立大学 飯田俊郎教授)
取材で子育て世代の話を聞いていると、「函館から離れたい」と考えているのではなく、「函館に近い道南には生活の拠点を置きたい」という思いを持っている人が多いと感じます。

生活する中で日頃から函館市や北斗市、七飯町といった街の境目を意識して暮らしているわけではありません。道路や川を挟んでいるだけで、受けられる行政サービスに大きな差が生まれる。この“不公平感”が問題の根本にあると思います。

日本全体の人口減少に歯止めがかからない中、自治体のあり方そのものを問い直す時代がやってきているのかもしれません。