突然の迷惑相続、その実態は

突然の迷惑相続、その実態は
ある日突然、身に覚えのない相続の案件に巻き込まれてしまう。見知らぬ不動産や多額の借金の相続人であると突然連絡があり、調べてみると全く交流がなかった親族からの相続だった。そんな経験をした人が相次いでいるという話を聞きました。インターネットで調べてみると、確かに「突然やってくる相続」「負の相続」といったことばとともに悩み相談の事例がたくさん紹介されています。どのようなケースがあるのか。そして背景に何があるのか、取材しました。(経済部記者 寺田麻美)

突然の相続、その実態は

まず、取材したのが相続の悩みを抱えた人が向かう先、弁護士や司法書士、相続コンサルタントです。高齢化社会が加速し、大相続時代とも言われるいま、相続対策や相続をめぐるトラブルについてひっきりなしに相談があるといいます。そして予想通り、「突然の迷惑相続」の事例も増えているそうです。こうした相続問題のプロが実際に対応したあるケースを紹介します。

ことし春、千葉県に住む70代の男性のもとに、ある自治体から一通の手紙が届きました。見知らぬ土地の固定資産税が未納になっていると知らせる督促状でした。
そして、督促状には、数十年会っていなかった伯母の名前が…。
不思議に思った男性が自治体の担当者に電話をかけてみると、「伯母にあたる方が亡くなられ、住んでいた土地の固定資産税が未納になっています。調べたところ、あなたが法定相続人となっています」と告げられたそうです。

男性が伯母が亡くなったことを知ったのはこのときが初めて。もちろん自分が相続人になっていることも知りませんでした。

さらに詳しく聞くと、伯母は7年前に自宅の火災被害で亡くなり、その後は、隣に住む遠縁の女性が代わりに固定資産税を支払っていたということです。しかし、その女性も最近亡くなり、固定資産税を払う人がいなくなったことから自治体が法定相続人をたどり、男性のもとに督促状が届いたということでした。

その後、この男性は、督促状で求められた固定資産税を全額支払い、この土地を相続。ただ、その土地には火事で焼けた空き家がそのまま残っているほか、崖に面していて、なかなか売れる見込みがないとのこと。固定資産税もかかり困っているといいます。
なぜ男性は、交流がなかった伯母の相続人となったのか。男性の親族関係と相続の順位を図であらわしてみます。
男性の伯母は独身で子どももいなかったため、法定相続人は第2の順位にあたる伯母の父母になりますが、すでに死亡。このため伯母の兄弟姉妹に相続されることになりますが、伯母の弟である男性の父親も亡くなっていたため、その子で伯母からみるとおいにあたる男性が相続人となったのです。

実際、こうしたケースはどのくらいあるのか。東京・八重洲で相続のコンサルタント業務を手がける曽根恵子さんに話を聞きました。
「全く交流のなかった親族の相続人だと告げられ、困っているという相談が最近増えていると感じています。相談案件のうちだいたい10件に1件がこうした内容です。この中で多いのは、親族との関係が疎遠で財産の状況もわからず、迷惑な資産を押しつけられて悩んでいるという相談です。独身世帯や子どもがいない世帯が増える中、今後もこういった相談は増えるのではないでしょうか」

相続が精神的な負担に

こうした「突然の相続」は金銭的な面だけでなく、精神的な面でも負担になることがあります。次に紹介するのは幼いころに両親が離婚し、その後1度も会っていなかった父親の相続人になった20代の女性のケースです。
女性は、両親の離婚後は母親に引き取られて育てられました。しかし、ことし7月に、女性のもとに突然、1通の内容証明郵便が届きます。父親の仕事に関係した未払い金、300万円近くを払ってほしいと、ある会社の弁護士が送ってきたものでした。父親が亡くなり、子どもにあたるこの女性が相続人になったとして未払い金の支払いを求めてきたのです。

女性は父親が亡くなったこと、そして生前にどのような仕事をしていたのかも知りませんでした。このケースで相談を受けた司法書士法人「オーシャン」の担当者は、「女性は『相続放棄』をして、この負債からは逃れることができましたが、記憶にも残っていなかった父親の存在がこのような形で姿を現し、日常生活がかき乱されたということがある。こうした相続案件は精神的な負担も非常に大きいものだ」と話していました。

増える相続放棄も背景に

私たちは、「身に覚えがない突然の迷惑相続」が増えている理由を探るため、大阪市にある司法書士法人ABCを訪ねました。代表司法書士の椎葉基史さんは、その理由の1つに相続放棄が急増していることをあげました。
(椎葉さん)
「地方の田畑や山林などの資産を引き継いでも、負担のほうが大きいとして、都会に住んでいる人が、地方にある親の財産の相続を放棄したいという相談が増えています。こうしたケースでは親族間での相続放棄が連鎖し、結果として身に覚えのない遠縁の相続が突然回ってくることにつながっています」
実際、相続放棄の申し立ては、増加の一途をたどっています。平成元年にはおよそ4万件だった申し立ての件数が、平成30年にはおよそ21万件にのぼり、この30年間でおよそ5倍に増えているのです。
相続放棄による負の遺産のたらい回しともいえる問題。トラブルを防ぐには、何が必要か再び椎葉さんに聞きました。
「いまは親族が一堂に会するという機会も少なくなり、親族との関係が疎遠になっている人も多い。ましてその資産状況については全く分からないという人がほとんどだと思います。こうした中で借金なら相続を放棄するが、不動産であればとりあえず相続し、扱いについてはあとで考えればよいという人もいます。しかし、このような対応をとると、相続したあとでトラブルに見舞われることも多く、初動で適切に行動できるかどうかは本当に重要です。1人で悩まずに専門家のアドバイスを聞き、負担を抱え込まないようにしてもらいたいです」

「突然相続のリスク」理解も必要

親戚づきあいが疎遠になっても、相続は、血縁関係をたどって舞い込んできます。家族には元気でいてほしいので相続について話題にするのはちょっとという人も多いと思いますが、突然の相続にひそむリスクを理解しておくことも必要だと感じました。

今回取り上げた「ある日突然迷惑な相続」。わたしたちは今後も取材を進め、近々放送を予定している「クローズアップ現代+」でお伝えしたいと考えています。
経済部記者
寺田 麻美
H21年入局
高知放送局を経て財務省、流通業界などを担当
現在は消費の現場から相続まで幅広い分野を取材