就職氷河期世代の叫び ~女子学生は今

就職氷河期世代の叫び ~女子学生は今
非正規の職を転々とした今、彼女たちは正社員を積極的に目指す気持ちにはなれないといいます。多くの学生が思いどおりの就職ができなかったバブル崩壊後の就職難の時代。女子学生の就職活動は男子に輪をかけて厳しいものでした。彼女たちが直面した数々の困難とは。(社会部記者 福田和郎)
~文系私立女子大卒・慶子さん(仮名・46)の場合~
・都内の私立女子大学で家政学を学ぶ。
・現在は病院で非常勤のソーシャルワーカーとして勤務。
・神奈川県で1人暮らし。

最初に直面した男子学生との違い

(慶子さん)「大卒の女性にはほとんど就職先はなかった時代ですね。大卒の女性の採用は控えるみたいな感じでした」
「大卒の女性」そう慶子さんは何度も口にしました。就職試験で強みになるはずの大卒の学歴が、むしろマイナスになったといわんばかりに。

今から23年前の平成8年。慶子さんが大学を卒業した当時、世の中にはバブル崩壊後の不況の嵐が吹き荒れていました。大卒の求人倍率は1.08倍。過去2番目に低い年でした。

まず直面したのが男子学生との情報格差。まだインターネットが普及する前の時代、企業の採用情報は、大手人材会社などがまとめた分厚い冊子で得るのが一般的でした。大学3年生の秋ごろ、ダイレクトメールのように大量に送られてきたという冊子。しかし、慶子さんの元には1冊も届かなかったといいます。
(慶子さん)「なんだったんでしょうね、あれは。兄には結構来ていましたし、同級生の理系の男子とかはあったと思います。でも私には1冊も来なかった。私たちが高校生の時には女子大生ブームで、高校を卒業して大学生になったら女子高生ブームでした」
言いたいことは何となく分かりました。高校生の時も、大学生の時も、ずっとスポットライトは当たらなかった。そして大学を卒業しても…。

慶子さんは第2次ベビーブーム、いわゆる団塊ジュニアと呼ばれる世代です。人数が多いことに加え、大学進学率が大きく上昇。特に女子の進学率は初めて3割を超え、大卒女子は、バブル崩壊後の10年で2倍に増えました。

急増した“大卒女子”たちは就職氷河期という不運な巡り合わせで正社員の限られたパイをめぐって激しい競争にさらされたのです。

今でも覚えている光景があるといいます。バブル経済まっただ中に就職した先輩たちは就職活動でジーンズOK、スーツはピンク。
一方、自分たちはというと、黒、紺、グレーのスーツを着て集団で面接を受け、ふるいにかけられる。それを目の当たりにした時、就職への意欲も自信もしぼんでいったと言います。
(慶子さん)「その時の私には真っ黒の世界はびっくりでした。そういうことをしないと仕事には就けないんだと。私にはそこをかき分けていくのは無理だと」
結局、採用試験を受けたのは1社のみ。面接で「4年制の子はことしは採っていない」と言われ、あっさり就職を諦めてしまいました。

大学卒業後に専門学校へ

大学を卒業後、好きな編み物を学ぶため専門学校に進学。卒業後は毛糸屋などのアルバイトをしながら食いつなぎようやく就職が決まったのは27歳の時でした。

ニット製品の企画という、まさにやりたかった仕事でしたが、今度は過酷な長時間労働が待っていました。
(慶子さん)「涙が止まらない状態でした。終電近くまで働き、朝も早い。残業はかなり多かったです。その中でもっとおもしろいアイデアを出せとけなされる。自分が好きなことを仕事にしているので『やれるでしょ』と」
9年間、働いたもののうつと診断され、休職しようとしていたやさき、社長から突然「明日から来なくていい」と退職を強要されました。この時、30代半ば。同じ業界で働くことはもう考えられなくなっていたと言います。
(慶子さん)「若い人の感覚を求められることが多いんですよ。働いていたところの社長も1歳でも若い人をって」

この先、自分の心配だけしているわけにはいかない

その後、慶子さんは社会福祉士などの資格を取得し、6年前に都内の病院で非常勤のソーシャルワーカーとして働き始めます。この頃、知り合った男性と結婚しましたが去年、がんで先立たれ、再び1人に。

今、いちばん心配なのは80代の両親と、子どもの頃の事故の影響で高次脳機能障害がある兄のことです。まだ介護の必要はありませんが近い将来、自分が家族を支えなければならない日が来ると感じています。

生活するだけで精いっぱいですが、それでも正社員を目指して転職活動をしようという気持ちになれないといいます。
(慶子さん)「国は働ける人を増やしたいと思って『氷河期世代の正社員を増やす』と言っているのだろうけどこの年になると親や配偶者に何かあったりすれば週5日フルタイムで働くのが難しくなる。しかも年収は30代、40代がピークでそれからは下がっていく。それが社会の評価なんですよね。そうした中で正社員で何をやらせたいのかなって思いますね」
~理系専門学校卒・加奈子さん(仮名・46)の場合~
・専門学校で当時人気だったバイオテクノロジーを学ぶ。
・現在、非正規でトリプルワーク。
・埼玉県で1人暮らし。

専門学校卒はもっと厳しい?

就職難に直面していたのは大卒女子だけではありません。専門学校や短大卒の女性たちもまた厳しさと闘っていました。

加奈子さんが専門学校を卒業したのは平成6年。植物が好きで、学校で学んだバイオテクノロジーの知識を生かしたいとメーカーの研究職を希望していました。まだ求人倍率は底を打つ少し前でしたが、就職活動を始めるとすぐに学歴の壁を痛感したといいます。
(加奈子さん)「専門学校ってだけではじかれて、面接まで残っても『ちょっとうちじゃ無理』みたいな感じで鼻で笑われて、大卒の人ばかりが採用されていくんですよね」
およそ50社に応募しましたが、「何を学んだか」よりも「どこの学校を卒業したのか」ばかりが重視される現実。結局、卒業までに内定を得ることはできませんでした。

実家との折り合いが悪かった加奈子さんは卒業後、非正規でトリプルワークをしながら1人暮らしを始めます。花屋のアルバイト店員や旅行会社の契約社員など、どれもバイオテクノロジーとは直接関係ない仕事ばかりでしたが、選んではいられなかったといいます。
(加奈子さん)「契約社員の募集ですら、当時は大卒の人たちが降りてくるんですよね。私たち(専門学校卒)が就くような仕事に。だから仕事は全く選ばなかったですね。低賃金で食いつなげるくらいの仕事で」
そうしたぎりぎりの生活を30代半ばまで続けたころ、転機が訪れます。結婚して生活に余裕が生まれたのです。改めて正社員を目指そうと決意。非正規の仕事を辞めて60社ほど採用試験を受けまくり、ようやく1社、事務職での採用が決まりました。
初めての正社員、張り切って臨んだものの、求人の内容とは全く違う飛び込み営業やチラシ配りをさせられ、月の残業は160時間を超えることも。それでも、給料は手取りで16万円ほどしかありませんでした。
(加奈子さん)「ブラック企業だった。時給に換算してみたら1000円切ってました。当時、『この年齢の女性を雇っているだけでもありがたく思って』と言われてじゃあ派遣でいいやと思いましたね」

自治体の求人は“蜘蛛の糸”

その後、離婚。そして再び、非正規のトリプルワークで1人暮らしをする生活に戻りました。収入は合わせて月に22~25万円。休みはほぼありません。厳しい暮らしですが加奈子さんもまた正社員を目指すつもりはないといいます。
(加奈子さん)「私の学歴や職歴からいくと、そこそこ給料がもらえる仕事に就く可能性は果てしなくゼロに近いと思っています。いい給料の求人だと大卒以上なんですよね。氷河期世代を対象にした自治体職員の募集も年齢がすでにオーバー。ああいう求人をみると芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を思い出します。私たちって罪人なのかなって」
ことしに入って全国の複数の自治体が氷河期世代を対象にした求人を出しました。大きな反響を呼び、応募者が殺到したことを私たちは前向きなニュースとして伝えました。それを「蜘蛛の糸」のように感じていたとは…。
確かに採用されるのはどこも数人。50万人とも言われる非正規で働く氷河期世代からすればチャンスをつかむことができるのはほんの一握りにすぎません。

この話を聞いた翌日から加奈子さんは2週間連続で仕事だと話していました。就職活動をしようにも時間も金銭的余裕もない。そんな状態が、25年前から続いているのです。
(加奈子さん)「氷河期はずっと続いています。怒れる人ってそれまで怒る体力を残していたんですよ。私たちは最初から絶望の中から始まったので、怒ることもない。諦めしかないです」

正社員を目指すことだけが解決策なのか

今回、2人の女性から話を聞いて、必ずしも正社員を目指すことだけが解決策ではないのではないかと感じました。

年齢を重ねれば、病気や親の介護などさまざまな理由でフルタイムで働けなくなることもあります。そもそも正社員でフルタイム、週5日働かなくてはダメなのか?非正規と正規の賃金はどうしてこんなにも差があるのか?氷河期世代の正社員化だけでなくほかにも改善すべき課題があると感じています。

引き続き、就職氷河期世代について取材をしていきます。皆さんの声を聞かせてください。