世田谷一家殺害事件 現場の住宅取り壊しを遺族に打診 警視庁

世田谷一家殺害事件 現場の住宅取り壊しを遺族に打診 警視庁
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東京 世田谷区で一家4人が殺害された事件の現場の住宅について、屋内の状況がすべて証拠化されているほか、建物の老朽化も進んでいるとして警視庁が遺族に取り壊しを打診していることが分かりました。遺族からは解決を見ないまま現場が姿を消すことになり犯人逮捕まで残せないかという声が聞かれています。
平成12年の大みそか、東京 世田谷区の住宅で会社員の宮沢みきおさん(当時44)の一家4人が殺害されているのが見つかり、警視庁は現場を証拠として保全するため住宅を取り壊さずにきましたが、事件は未解決のまま来月末で19年となります。

警視庁によりますと、住宅内の状況はすべて証拠化し、必要な捜査書類を作成しているほか、3D動画でも再現していて、今後、住宅を保全しなくても捜査に影響はないとしています。

また、住宅は老朽化が進み、外壁の亀裂や屋内の雨漏りなどが確認され、壁の落下や家屋の倒壊によって通行人などがけがをする可能性があるということです。

このため、警視庁は、住宅の取り壊しについて遺族に打診し、話し合いを進めていて、今後、遺族の意向を踏まえて取り壊しの実施や時期などについて決めるとしています。

宮沢さんの義姉・入江杏さん「現場を残してほしい」

一方、遺族からは解決を見ないまま現場が姿を消すことになり犯人逮捕まで残せないかという声が聞かれています。

宮沢みきおさんの妻、泰子さんの姉、入江杏さん(62)は、犯人が逮捕された時に事件を起こした理由を問うため現場を残してほしいとしています。

宮沢さん一家と2世帯住宅の隣どうしに住んでいた入江さんは「子育てのことなど妹がいちばんの相談相手で、一つの大家族のように助け合う大切な仲間でした。思い出の家は事件の現場になってしまい、19年間、心に刺さったとげのような存在です」と話しています。

入江さんは、5年前に現場に入った時のことが忘れられないといいます。

「子どもたちの色鮮やかなかわいい洋服がかかっていたり、お皿に入ったお菓子もそのままになっていて、生活の息吹と4人の気配があり、時間が止まっていると感じました。家に入るのはとてもつらかったですが、やはり現場があるからこそ肌で感じられるものがありました」と振り返ります。

そのうえで「警察は人手をかけてきちんと現場を保全してくれているとありがたく感じました。朝起きて『もしかしたらきょうは』と事件の解決を願わない日はありません。警察の方々には現場を見て、解決への思いを新たにしてほしいです」と話しています。

ことしに入って、警視庁から住宅の取り壊しを打診され、協議を続けてきましたが、今はまだ決断できないといいます。
「取り壊しの話を聞いた時、虚脱感のようなものと同時に、令和の新しい時代への移り変わりを感じて、つらかったです。来年で20年になるのを前に、どのように事件を解決に導いていくのか、新たな課題がつきつけられた気がして、4人によい報告ができるのか、不安が込み上げてきました。老朽化という事情は理解できないわけではないですが、4人がどうして亡くならなければいけなかったのか、何もわからないのが現状で、見逃している大切な何かがあるかもしれないのに、取り壊してしまって本当にいいのだろうか。簡単にいいとは言えません」と話しています。

入江さんは老朽化について、どの程度、倒壊の危険があるのか、証拠保全の必要がなくなったと考える理由、なぜこの時期の取り壊しなのか知りたいといいます。

入江さんは「犯人を何としても捕まえて4人が一生懸命、暮らしていた場所を見せて、なぜひどい事件を起こしたのか、かわいい子どもまでどうして手にかけたのか聞きたい。そのためには思い出がつまった現場をとどめておかなければいけないと思います。地域の方々に迷惑がかかると言われると本当に申し訳ないと、揺れる気持ちもありますが、事件解決のため、もう少しお力添えくださいと、お願いするのが私の責任です。4人が発することができない声、流すことのできない涙のために、どうすればあの現場を少しでもとどめていけるのか考えていくことが大切だと思います」と話しています。

入江さんは「単純に“賛成”“反対”と対立するのではなく、最終的な判断をする際にはどこかで切り捨てざるを得ないという決断を遺族個人にゆだねられ、しいられるのは耐えがたいことです」と話しています。

そこに伴う「悲しみ」を支える社会の仕組みが大切だとしていて、入江さんは、毎年12月にイベントを開いています。

かつては事件の追悼の集いとしていましたが、今では参加者とさまざまな悲しみや苦しみを共有し、その向き合い方について一緒に考えるきっかけ作りの場にしているということです。

ことしは12月7日に千代田区の上智大学で、14日には港区の「ビジョンセンター田町」で開催し、“喪失”をどう記憶にとどめていくのか参加者に問いかけたいとしています。

母 節子さん 揺れる思い…

宮沢みきおさんの母 節子さん(88)は、ふたつの不安の間で揺れる胸のうちを明かしました。

さいたま市に住む節子さんは、みきおさんの妻 泰子さんが仕事をしている間に孫のにいなちゃんと礼くんの面倒をみるため、8年間、現場の住宅に通い続けていました。

節子さんは「おもりに来てほしいと頼まれ、二つ返事で引き受けました。私自身も楽しみで通っていたんです。午後1時に来てと言われると、その時間ぴったりに着くように向かいました。そうすると、私を待っていたにいなと礼が家から出て飛んでくるんです。2人を連れて近くの公園を散歩したり、ごはんを食べさせたりして、あの家は私にとって思い出のつまった家です」と当時を振り返ります。

警視庁から住宅の取り壊しを持ちかけられたことについて「あの家が危険だと言われると心にぐさっときますが、もしけがをする人が出たらと思うとすごく心配になります」と話しています。

その一方で「現場がなくなると事件が風化し、社会から忘れられて情報も入らなくなるのではないか。私がいちばん望んでいるのは犯人の逮捕です。どうしてあんな事件を起こしたのか知りたい。家があれば現場検証もできるので、せめて逮捕までは家を残しておきたいという思いがあります。倒壊の危険への不安とのせめぎあいで、なかなか判断がつきません」と揺れる胸のうちを語りました。

住民「取り壊しやむをえない」「事件の風化心配」

現場近くの住民からは、老朽化による住宅の取り壊しはやむをえないという声があった一方で、事件の風化を心配する声も聞かれました。

毎朝、住宅の前を散歩で通るという80歳の男性は「住宅の前を通るといつも事件のことを思い出します。この前の台風では周囲の木も結構折れていたし、自然災害をまともに受ければ壊れてしまう可能性があると思います。住宅はだいぶ傷んでいそうなので老朽化によって取り壊すというのはやむをえないのではないかと思います」と話していました。

近くに住む57歳の女性は「住宅の前を通るたびに本当に悲しく痛ましい事件だと思っています。お子さん2人と私の子どもが同い年だったので一生が奪われたと思うと何とも言えない気持ちです」と事件について振り返りました。

そのうえで「人が住んでいないので傷むところがあると思いますが、犯人が捕まったときに現場で説明させたいという遺族の気持ちはよく分かるので残したほうがいいのではないかと思います。すべてがなくなってしまったら事件が風化するのではないかと心配なので、もし全体を残すのが難しいなら事件が未解決だということが分かる何かを現場に残すということも考えてみてもいいのではないでしょうか」と話していました。

取り壊し打診 これまでの経緯

警視庁は、事件のよくとしの平成13年11月、住宅を証拠として保全する必要があるため、遺族に対し取り壊しを延期するよう求めました。

その後、住宅内に残されていた犯人のものとみられる指紋や血の痕などの遺留品をすべて集めて証拠化し、現場の状況についても必要な捜査書類の作成を済ませてきたということです。

周辺では住宅が取り壊されるなど、現場の状況が変わってしまったため、当時の家の周りの様子や住宅の屋内を3D動画で再現する取り組みも進められてきました。

こうした証拠化がすべて終わったことから、警視庁は住宅がなくなったとしても今後の捜査に影響はないとしています。

また、住宅は築29年となり、警視庁が視察したところ、外壁の亀裂や屋内の雨漏りなどが確認され、壁の落下や家屋の倒壊によって通行人などがけがをする可能性も出てきたということです。

さらに現場には、警備上の理由から24時間態勢で警察官が配置され、19年間、欠かすことなく警戒にあたってきたほか、5年前からは外壁が落下してしまうのに備えて住宅を取り囲む防護ネットを設置する対応をとってきたということです。

今回、現場の証拠化がすべて終わったことや、老朽化が進む住宅への対策を進めるため、警視庁は、ことし3月から住宅の取り壊しについて遺族に打診し、東京都も加わって話し合いを進めていて、今後、遺族の意向を踏まえて取り壊しの実施や時期などについて決めるとしています。