“介護輸出”が日本の超高齢社会を救う!?

“介護輸出”が日本の超高齢社会を救う!?
日本食、ゲーム、アニメ…さまざまなメ-ド・イン・ジャパンが輸出され、海外で高い評価を得ていますが、今、中国や東南アジアでニーズが高まっているのが、日本式の“介護サービス”です。青森県では、4000キロ以上も離れたベトナム・フエに介護サービスを“輸出”し、日本の介護現場の慢性的な課題の解決にもつなげようというある取り組みが始まっています。その動きを追いました。
(青森放送局むつ支局 記者 佐野裕美江)

若者は都会を好む…

青森県むつ市にある特別養護老人ホーム「みちのく荘」。この施設では10年ほど前から介護福祉士を目指す外国人材を受け入れています。これまでに17人の外国人を受け入れましたが、今働いているインドネシア人1人を除き、みな辞めてしまいました。
私が取材したベトナム出身のファン・バン・ズイーさんもその1人でした。4年前に介護を学ぶために来日したズイーさんは、12人の高齢者を担当するなど施設にとって欠かせない存在でした。しかしこの春、介護福祉士の試験に合格したことをきっかけに、ベトナム人の友人が多くいる横浜市の介護施設に移ることになりました。
「ここ(むつ市)は若い人が少ないし買い物もできないです。もっとにぎやかなところ、便利なところで働きたい」

発想の転換で勝負

ただでさえ、慢性的な人手不足に陥っている介護業界。生活環境や待遇面で勝る都市部の施設に人材が集まる中、地方の介護事業者がいかにして人手を確保していくかは、事業の存続にかかわる深刻な問題です。

この施設を運営する社会福祉法人が導き出した答えが、海外から継続的に人材を呼び込むための仕組みづくり。長く勤めてもらえないなら「短期でも、途切れることなく働き手を確保できればよい」と考えたのです。
「雪が降る、寒い、東京から遠いという青森のハンデがあります。長く定着してくれなくても、5年なら5年で、かわるがわる人が来てくれるようになればよいのかなと」

答えはベトナムにあり

中山さんはその仕組みづくりとして、ベトナム中部の都市フエにある国立病院と提携し、日本式の介護サービスを提供する施設の運営に乗り出すことになりました。

病院の一角を改修して、100床規模の高齢者施設を設置。3年後をめどに“日本式の介護施設”として、本格的に運営を始める計画です。
病院で働く現地の職員に病院に籍を残したまま来日してもらい、数年間ずつ、中山さんの法人が青森で運営する施設で介護を学んでもらうことにしています。そうすることで、常時、一定数の外国人材を確保しようというのです。
全国における同様の事例について厚生労働省に訪ねたところ、「社会福祉法人は、国内の福祉ニーズに応えるべく設立されていて、海外で介護施設を運営する例は極めて珍しい」とのことでした。
果たして、うまくいくのか。文化や慣習の異なる国での介護事業には、さまざまなリスクが伴うように思えます。

しかし、今、国内の介護業界は人手不足による倒産が相次ぐほどの事態に陥っています。2025年には、34万人の介護人材が不足するという国の推計も出ている中、「座して死を待つよりは、出でて活路を見いだす」という中山さんの強い意志を感じました。

ベトナムでも進む高齢化

中山さんはこのほかにも、ベトナムのフエにある短期大学とも提携し、介護人材の育成事業を2017年から始めています。中山さんが、このようにしてベトナムでの事業に力を入れるのには、急速な経済成長と同時に進行するベトナム国民の高齢化が背景にあります。
国連が公表しているデータによりますと、ベトナムではおととし、全人口に占める65歳以上の割合が7%を超えました。2035年にはその倍の14%を超える「高齢社会」を迎えると推測されています。
日本は現在、高齢化率が28%を超え「超高齢社会」を迎えていますが、7%を超えて1994年に14%に達するまでには、24年の歳月を要しています。ベトナムでは日本を上回るペースで高齢化が進んでいて、今後、介護サービスの需要が急速に高まると予想されているのです。

さらに、介護サービスや制度の整備がまだ十分ではないため、中山さんはベトナムで介護のノウハウを広めていくことは、日本の国際貢献としての意義もあると考えています。
「日本式の介護を海外で普及させるための第一歩にしたい。今回の仕組みが定着すれば、国内の介護現場での人手不足の緩和にもつながるので、ぜひ成功させたい」(中山さん)

“日本式介護” 定着なるか

日本の介護サービスは、今後、高齢社会を迎えると予想される中国や、東南アジア諸国などからも高い関心を集めていて、近年、これらの地域で事業を展開する民間の介護事業者が次々と出てきています。

利用者一人一人に応じてきめ細かいサポートを提供する自立支援のシステムや、食事の栄養管理、ホスピタリティーなどを兼ね備えた“日本式”の介護を、海外で根づかせることができるのか。

そして、それが超高齢社会を迎えて慢性的な人手不足に悩む、国内の介護現場の課題解決の糸口ともなり得るのか。

その答えを地方の現場からしっかりと注視していきます。
青森放送局 記者
佐野 裕美江
平成28年入局
むつ支局で下北半島の原子力関連施設や
人口減少などの諸課題を取材