“エリアメール”の落とし穴

“エリアメール”の落とし穴
「ピロリロリーンピロリロリーン」
突然、大きな同じ音で複数のスマートフォンが一斉に鳴った経験はありませんか?気象警報や避難の呼びかけを知らせる「緊急速報メール」です。「エリアメール」とも呼ばれる命に関わるこの仕組みに、意外な落とし穴がありました。
(仙台放送局記者 塘田捷人)

命の危険感じた

宮城県大崎市鹿島台に住む高橋直治さんは、先月12日から13日にかけて、台風19号の豪雨に関する緊急速報メールを何度も受け取りました。
最初はまだ天気が荒れていない12日夕方。スマートフォンで受信しましたが、その時は十分には確認しませんでした。

夜になって雨が激しくなったためにメールを見返そうとしました。ところが、どこに表示されているか分からず、見返すことができませんでした。

子どもも寝静まった午前0時ごろ。再び緊急速報メールの受信音が何度も鳴ったため、玄関のドアを開けて外を見ると、すぐ近くまで浸水が迫っていました。

あわてて2階で寝ていた子どもたちを起こし、道路の水かさが増す中車で避難所までなんとかたどり着きました。

結局自宅は、床上80センチまで浸水しました。
「夜中に浸水に気づいた時は命の危険をかなり感じました。当時は自分にも慢心がありましたが、メールを見返せていたらもう少し早めの行動はできたと思います」

見た人の3分の2が「見返せない」

緊急速報メールは活用されているのか。私は豪雨被害を受けた大崎市や宮城県丸森町の避難所などで被災した人たちに聞きました。
その結果、調査に答えた83人のうち68人が緊急速報メールを見ていましたが、その3分の2に当たる44人は「見返すことができなかった」と答えました。

仙台市の街頭でも聞くと、メールの使い方が分からないという人が多くいました。
「一瞬出たけどしっかりと読めない時がありました。後で見たいと思っても、やり方が分からなかったです(20代女性)」「緊急を要する地域では焦ると思います。命の危険が差し迫らないとあのメールがどれだけ重要かわかりませんよね(60代女性)」

機種によって違います

本当に見返せないのか、携帯大手3社に聞きました。すると端末の機種によってだいぶ違う事が分かりました。

グーグルの基本ソフト、「アンドロイド」を搭載したスマホの場合、契約している通信会社に応じたアプリなどを使ってこれまで受け取った緊急速報メールを見ることができます。
例えば▽NTTドコモは「災害用キット」、▽KDDIは「au災害対策」、▽ソフトバンクは「緊急速報メール」です。

また従来型の携帯電話、いわゆる「ガラケー」の場合、多くはメールの受信ボックスに保存されますが、アプリが必要な場合もあるということです。

iPhoneが最も弱い

最も機能がぜい弱なのが、iPhoneでした。基本ソフトが違うため携帯大手のアプリは使えず、最初の画面に出た通知を左スワイプするなどして消去すると、見返すことができなくなってしまいます。
ただ対策の動きも出ています。大手携帯事業者の1つKDDIは、iPhoneでも使える「プラスメッセージ」というアプリを使って緊急速報メールの履歴を見られる仕組みを検討しているということです。

担当者は今も多くの機種で見返せない背景について、次のように説明していました。
「緊急速報メールは8年あまり前の東日本大震災の時は緊急地震速報を伝える役割が大きかったのですが、去年7月の西日本豪雨以降、自治体が避難指示などの連絡で利用するようになりました。それに伴い、避難の対象地域や避難場所などを見返すケースが増えてきたので、分かりやすく見られる方法を考えたいと思います」(KDDIパーソナル事業本部服部誠マネージャー)
災害の多発とともに緊急速報メールで伝える情報が多くなっているのに、その機能が追いついていない、というわけです。
一方NTTドコモはメールを見返せないことについて「ご不便をかけて申し訳ございません。iPhoneでは緊急速報メールの画像をスクリーンショットで保存することをお勧めします」としています。
ソフトバンクは、「コメントを差し控えます」としています。

“知る”と“知らない”で生死分けることも

「何事も事前の備えが大切です」と訴えるのは、災害時の情報発信のあり方を研究している東北大学の佐藤翔輔准教授です。佐藤准教授は、自治体の避難訓練などで送られてくる緊急避難メールを使ってあらかじめ使い方を学んでおいてほしいといいます。
「これまで避難の呼びかけに使われた防災行政無線は、大雨になると聞こえにくいという欠点を抱えていました。その点、スマホや携帯電話に直接届く緊急速報メールの有効性は高いと言えます。受け手側の私たちも、災害時に情報を使いこなす訓練をする必要があります」
実は私も台風19号が接近した時、夜遅くにiPhoneで受信した緊急速報メールを左スワイプして消去していました。

その後、丸森町の被災地で亡くなった方の周辺取材をしたとき、その地区の区長の方に「緊急速報メールはなぜ見返せないのか」と聞かれたのをきっかけにこの取材を始めました。
地域の人を亡くした区長さんからの問いかけを、重く感じたからです。
緊急速報メールの見返し方を事前に「知っている」か「知らない」かが、生死を分けることもあると思います。

災害が起きてからでは遅い。携帯電話がこれだけ普及したこの時代ならではの備えなのかもしれません。