英 コンテナから39人遺体 ベトナム側と身元確認を本格化

英 コンテナから39人遺体 ベトナム側と身元確認を本格化
イギリスでトラックのコンテナからベトナム人とみられる39人の遺体が見つかった事件で、イギリスの警察は身内が事件に巻き込まれた可能性があると訴え出ている複数のベトナムの家族と直接連絡を取るなど、身元の確認作業を本格化させています。
この事件は先月23日、イギリスのロンドン近郊でトラックのコンテナから39人の遺体が見つかったもので、警察は先週、犠牲者は全員ベトナム人とみられると発表しました。

事件の直後からベトナムでは、身内が巻き込まれた可能性があるとおよそ30の家族が地元当局に訴え出ていて、イギリスの警察はこのうちの複数の家族と直接連絡を取るなどして身元の確認作業を本格化させています。

こうした中、ロンドンにあるカトリック教会では3日、イギリス国内に暮らす多くのベトナム人たちがミサに参加し、犠牲者に祈りをささげました。

事件をめぐってはこれまでに北アイルランドの運転手の男ら2人が殺人などの罪で起訴されたほか、ベトナムの警察も海外への違法な渡航を仲介したなどとしてベトナム国内で合わせて10人を逮捕したと発表しています。

両国の警察は、ほかにも事件に関わった人物がいるとみて捜査を進めるとともに、組織的な人身売買の疑いもあるとみて全容解明を急いでいます。

26歳娘 母親の携帯電話に「息ができなくて死にそう」

ベトナム中部では、身内が事件に巻き込まれた可能性があるとおよそ30の家族が地元当局に訴え出ていて、このうち複数の家族のもとには、イギリス当局から直接身元の確認のための連絡があったということです。

このうち、26歳の娘が事件に巻き込まれたと訴え出ているハティン省の男性のもとにも連絡があり、娘が犠牲者のなかに含まれている可能性が高いと告げられたことを明らかにしました。

男性によりますと、この女性は日本にある弁当の工場で3年ほど働いたあと、ことし実家に戻ってきたばかりだったということです。
しかし、女性の弟が運転手として働くために購入した車が事故で大破し、家には多額の借金が残されたといいます。
女性は少しでも借金を返済して両親の負担を減らそうと、再び海外で働くことを決めました。
両親は反対しましたが、イギリスでネイリストの仕事が見つかったとして渡航を仲介するブローカーへの支払いを友人から借りるなどして工面し、先月3日、実家を出発しました。

ベトナムを離れた後も女性は毎日のように実家に電話をかけてきて居場所を知らせ、中国とフランスを経由してイギリスに向かうと話していたということです。

先月中旬に一度イギリスへの渡航を試みましたが、イギリス当局に捕まってフランスに送り返され、再び、渡航する計画を立てていたということです。
そして、事件が発覚する直前に、女性は母親の携帯電話に「お母さん、ごめんなさい。私の渡航は失敗です。お父さん、お母さん、心から愛している。息ができなくて死にそう」とメッセージを送ってきました。その後、女性とは一切連絡が取れなくなったため、地元当局と警察に通報したということです。

男性は「家族思いの娘でした。『地元に残り、結婚すべきだ』と説得しましたが『家族のために行くしかない』と言ってききませんでした。家族全員がショックを受けています。どのように気持ちを表していいかわかりません」と話していました。

違法に海外に出稼ぎに行く人も

ベトナムは1990年代後半から日本や韓国、ヨーロッパなどに積極的に労働者を送り出していて、国外で働く労働者からの送金は外貨獲得のための重要な手段となっています。

ことしは9月までの間に10万人余りのベトナム人が労働者として海外に送り出されていて、最も多い渡航先は全体の半数を占める日本で、技能実習生などとして働いています。

海外へ出稼ぎに行く人が多いのはゲアン省やハティン省、それにクアンビン省など経済発展から取り残されたベトナムの中部です。

このうち、ハティン省の1人当たりの平均月収は日本円で1万3000円余りと首都ハノイや最大都市ホーチミンの半分以下となっています。ベトナムの国営メディアによりますと、ハティン省からは現在3万人が海外で働いているということです。

その一方、正規のルートを経ないで違法に国外に出稼ぎに行く人もあとを絶たず、事件が起きたイギリスもその渡航先の1つとなっています。

イギリスにあるベトナム人コミュニティーのなかには、大麻の栽培やネイルサロンでの仕事をあっせんするブローカーがいて、より稼ぎのよい仕事を希望するベトナム人たちに渡航を仲介していると指摘されています。こうした違法ルートで国外に渡った人の中には、悪質なブローカーにだまされて事件に巻き込まれるケースなども報告されています。

今回の事件が欧米メディアなどで大々的に報じられるなか、ベトナム外務省は1日「ベトナムは人身売買を強く非難し、厳罰の対象となる重大な犯罪行為とみなす」という報道官のコメントを発表し、取締りを強化する方針を打ち出しています。

命の危険伴う英密航の実態

10年ほど前に違法にイギリスに渡った経験のあるベトナム人男性がNHKの取材に応じ、時に命の危険をともなう密航の実態を明かしました。

ベトナム中部クアンビン省に住む56歳の男性は、より稼ぎのよい仕事を求めて出稼ぎ先のチェコから現地のベトナム人ブローカーの仲介でドイツに入国しました。

男性はドイツで必要なビザを持たないままタバコの販売の仕事をしていましたが、警察に何度も捕まり、国外退去のおそれが出てきたことから、再びベトナム人ブローカーの仲介でイギリスに渡ることを決めたといいます。

イギリスでの仕事は大麻の栽培だと事前に聞かされていましたが、チェコに出稼ぎに来るために作った借金の返済や故郷で苦しい生活を送る家族への仕送りのためにはこのまま帰国するわけにもいかず、違法なことだと分かっていても当時の男性には密航を選択するほかなかったということです。

男性は手配を頼んだブローカーの指示どおり、ドイツから列車でフランスに入り、そこで落ち合った別のベトナム人ブローカーに港に近い森の中に連れて行かれたということです。そこには複数の小屋などが建てられ、イギリスへの密航を計画する2、30人のベトナム人たちの拠点のようになっていたということです。

そして、午前0時になるとブローカーの指示に従って港近くに止まっているイギリスのナンバープレートがついたトラックに潜り込み、フェリーでイギリスを目指したということです。

しかし、イギリスナンバーをつけているトラックでも別の目的地に行く場合や検問などで警察に見つかる場合もあり、そのたびに森の中の拠点に逃げ帰っては再びトラックに潜り込むことを繰り返していたといいます。

男性はこの拠点に2週間滞在し、12回目に潜り込んだトラックでようやくイギリスにたどりつきました。ただ、なかには冷凍コンテナを備えているトラックもあり、当時もコンテナ内で死亡した人がいるという話を聞いたということです。

男性は密航したイギリスで違法に大麻を栽培して報酬を得ていましたが、最後は警察に逮捕され、国外追放されました。

男性は「フランスからイギリスへの渡航ルートはとても危険だった。今も大勢のベトナム人が家族のために同じような方法でイギリスを目指しているが、自分の命を危険にさらすことになると分かってほしい。もう二度とこうした形で命を落とす人がいなくなってほしい」と話していました。